6話 吾輩は修業した。ホラーではない。
『【武術家 流派水龍拳の使い手ムサシの教え】
【ムサシの道場で手合わせ】
【奥義継承への試練】 が発生しました。』
「…え?」
ルカも理解出来ない内に、トントン拍子でムサシのイベントを行うことになってしまった。
「ここがワシの道場じゃ。ここでは武器を扱わず、武器に対抗する術を教えている。」
そう言いながらムサシが拳を握ると、その手は水色のモヤに覆われた。
そのまま拳を打ち出し、藁で出来たマネキンを殴ると―
ボスッ!と大穴が空いた。
その穴は明らかに拳よりも大きく、もしもコレを人に向けたとすれば致命傷を与えるだろう。
「これこそ基本にして奥義、『オーラ』だ。この技は基本であるため使い方を知れば誰であろうと扱うことが出来る。しかし、奥義として操るのであれば話は別っ!
素質に加え修業が必要となる。」
「え、あえぁ、はい。」
ルカは話についていけない中、生返事を返してしまったためズンズンとイベントが進んでいく。
「お主、名前は?」
「えと、ルカといいます」
「よし、これからルカの素質を調べる。」
「構えろ、集中して目を閉じよ。体に温かいものはあるか?」
ムサシに言われた通り構えてみると、目を閉じなくとも温かいものに気が付いた。
更にソレを動かして見せると、ムサシは目を見開き数瞬後には獲物を見つけた猛禽類のような目に変化した。
「ルカ、お前は面白いな。一を教えれば十を学ぶ、お前ならば奥義を身につけることが出来きるだろう。」
「あの今更なのですが、他の門下生は居ないのでしょうか?」
そう、この道場は入った瞬間から誰もいなかったのだ。
「その答えはいずれ分かる。」
「そうですか」
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このイベントを始めてから現実時間で5日
ゲーム内では20日になる。
毎日ログインしては道場に行き、
オーラを動かす練習 → ムサシと組手 → オーラを纏いながら動く
これを続けていた。
当然5日もあれば他のプレイヤーは様々なことをこなす。
例えば、
2つ目の街に行った者
レベルが20を超えた者
フィールドボスを倒し、特殊装備を手に入れた者
明らかにルカは置いてけぼりになっている。
しかし、このイベントの先には何か特別なものがありそうな気がしたのだ。
何よりこの奥義『オーラ』を覚えれば、特撮ヒーローの必殺技が再現できそうで興奮しているのである。
「ルカ、お主もそろそろオーラを動かすことに慣れてきたな。」
「はい。」
「では、これから奥義継承の試練を開始する。見事ワシをそのオーラで倒して見せよ。」
言い終わると同時にムサシは突然目の前に現れ、貫手を放ってきた。
それに対しルカは、まるでそれが来ることが分かっていたかのように、半身になって躱した。
それもそのはず、このやりとりはもう5回以上続いているのだ。
「ほう、やるではないか」
このセリフを聞いて思わず笑ってしまう。
当然嬉しいから―
ではなく、この言葉も何度も聞いているからである。
この手合わせでは、貫手から始まり2手目も同じく貫手、
そこから裏拳or手刀
続けて肘打ち、肩を使ったタックル
或いは下段の蹴りから足払い
この後は投げに入って
終いに極め技という流れで毎回敗北している。
相手の手の内、流れが全て分かっているにも関わらず、負けてしまう理由は単純である。
奥義『オーラ』のせいである。
オーラを使った攻撃は破壊力が強すぎる。
その上、素早さと防御力も上がるのだ。
その為、一瞬でムサシの技を見破り捌く必要がある。
ただし生半可な攻撃では、スーパーアーマーによって怯みもなく沈められてしまう。
そこで、ルカはいくつか作戦を考えてきた。
そのことごとくが失敗してきたが、今日は投げと関節技を利用した立ち回りを意識することにした。
今までは得意の空手で戦っていたが、動画で学んだ合気道を練習し、似非合気道もどきを利用することで勝とうと考えたのだ。
それも使えるようになったのは四方投げだけである。
だが、その可能性は大きなもので、今回でこのイベントをクリアしてやると意気込んでいる。
二手目の貫手が飛んできたその手を掴み四方投げの形へ、その時ムサシは予想外の攻撃から驚き一瞬体が強張ってしまい、対処が遅れてしまった。
そのまま床へ転がされルカのオーラを纏った拳が寸止めで顔面に落とされた。
アッサリ勝負が決まってしまい、両者供にポケーと固まった。
復活するまで1分かそれとも3秒か、ムサシは余程悔しかったのか顔を真っ赤にしながらしかし、清々しそうに懐から巻物を5つ出すとルカに手渡した。
「これをルカに継承する。スキル【オーラ】の巻物だ。お前はワシを2手で倒したのだからな。奥義全てである5つを渡そう。ただし惜しかったな、秘奥義を継承する者は出なかったか。」
「え、秘奥義ですか?」
「ああ、1手で倒しておれば或いは。」
結果から言うと、秘奥義も教わった。
もう一度挑み、ムサシが始めの貫手を打ち出す前に極め技で押さえ込んで終わらせたのだった。
よくよく考えれば、相手の攻撃を待たずに押さえ込めば問題なかったのだと今更ながらに気が付いたのだ。
『【武術家 流派水龍拳の使い手ムサシの教え】
【ムサシの道場で手合わせ】
【奥義継承への試練】 をクリアしました。』
報酬:スキルの巻物 6つ
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道場を出て少し歩き、噴水広場のベンチに座ると巻物を確認した。
スキルの巻物
・【オーラ:斬】
流派水龍拳の基本であるオーラを応用した奥義の1つ。
体の表面に薄く鋭いオーラを張ることで物体、幽体に関わらず斬ることが可能となる。
・【オーラ:放】
流派水龍拳の基本であるオーラを応用した奥義の1つ。
体の一部からオーラを勢い良く放つことが出来る。
近距離ではあるが手の届かない距離にいる敵に飛び道具として攻撃可能。また、反動を利用して素早い移動が可能になる。
・【オーラ:浸】
流派水龍拳の基本であるオーラを応用した奥義の1つ。
自分のオーラを対象に流し込むことによって相手を回復させることが出来る。
回復するのはHPとMPである為、状態異常は治らない。
・【オーラ:纏】
流派水龍拳の基本であるオーラを応用した奥義の1つ。
体全体にオーラを纏うように循環させることで身体能力と攻撃力を向上させる。
・【オーラ:鎧】
流派水龍拳の基本であるオーラを応用した奥義の1つ。
体全体にオーラを鎧のように着込むことで抵抗力と防御力を向上させる。
・【オーラ:回転】
受け継がれてきた流派水龍拳の奥義全てを組み合わせ、ムサシが一から作成した秘奥義
攻撃する一点に重きを置いて作り出したこの技は、強大な効果の代償に使用者に大きなダメージを与える。
相手へ接触していることが発動条件
自分のオーラを体内で練りこみ、勢い良く回転させ対象の内部へ直接打ち込む。
敵の中で練ったオーラが爆発することで致命傷を与える。
試作段階である為デメリットを改善することが出来る可能性あり。
内容を読んで驚いたルカはベンチから勢いよく立ち上げると、道場へ走った。
しかし、着いたその場所はまるで廃墟だった。
敷地には雑草が生え、壁は焼け焦げている。屋根は崩れていて、道場の前には大きな石が10数個並んでいる。これではまるで―
「おい、君そこで何をしている!」
「え?あ!あのここって道場でしたよね、何でこんなことになっているのでしょう。それに火事でもあったような…あの石なんて、あれじゃあまるで…」
ルカは咎めにきた衛兵をものともせず質問攻めにすると
衛兵は訝しげな顔をすると答えた
「ここは数年前に格闘技の道場があった場所だ。ただ、火事で全焼して門下生とその師匠は全員死んでしまったそうだがな。それで?君はここで何をしていたんだ?」
「そんな…じゃあ私が行っていたあの修業は夢?でもこの巻物はムサシ師匠から貰った物だし…。すみません、昔馴染みがここで修行していたはずだったので。戸惑ってしまって。」
ルカは落ち着かない心で作り話を言うとその場を後にした。
あの時、「門下生は居ないのか」と聞いたとき
「いずれ分かる」とお茶を濁された理由がこれだった
誤字脱字があればお伝えください。
感想も待ってます。
是非評価していってください。
m(__)m