1話 吾輩は特撮が大好きである。
「ただいま」
と玄関から声がした。父の声だろう。
長期出張から帰ってきたのだ。
「おお、娘よ。出迎えご苦労。一緒に特撮を見よう。」
「はい。おかえりなさいませお父様、あなたの娘の春香ですよ。趣味ですからね、一緒に見ましょう。」
2人でふざけ合いながら会話をし、リビングまで歩いた。
「おかえりなさい、あなた。鞄をこちらへ。それと、特撮を見る前に着替えてきてください。」
「あはは…、すまないな母さん。じゃぁ春香、Blu-rayの準備をしておいてくれ。」
「ええ、待っています。」
そう言うと父は寝室へ消えた。
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今リビングでは食事が行われている。
テーブルには、シチューとパン。その横にサラダが並んでいる。
テレビにはバイクに乗って怪人を追いかける特撮ヒーローが映っている。
それを噛り付くように見ている美女が1人。
名前が渡辺春香という。
そして、その娘を眺め微笑んでいる父と母。この構図で夕食は進んでいく。
「春香、空手の黒帯三段は取れたか。」
「はい、とりました。及第点と言われましたが。」
「よくやったな。」
テレビから目を離さず返事を返した春香に父から思いがけない言葉がかけられる。
「よくやった春香にサプライズがある。特撮ヒーローになるのが夢だっただろう?そこでお前にピッタリなプレゼントがある。」
それを聞いて首をグリンッと回し父の顔を驚愕とワクワクが混じった表情で覗き込んだ。
椅子の横から段ボールを出すと、中身を渡した。
「お父様、これって最近流行のVRゲームソフトではありませんか。この家にはハードが無いのに何故ソフトだけ?それに私はゲームをしません。」
「そのゲーム内では何にでもなれるそうだ。」
それを聞いて春香は何かに気が付いたようにウキウキした顔で父にお礼をするのだった。
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翌日の月曜日、時刻は午前11時
大学に行くと、食堂に幼馴染が座っていた。
彼女の名前は李鈴。中国人の父と日本人の母を持つハーフ乙女である。
「あれ、春香じゃん。おはよう~。今日は講義午前で終わりじゃなかったっけ?」
「ええ。今日の講義は終わったわ。今日は鈴に聞きたいことがあったの。」
すると鈴は身構えた。
「え、何、怖いんだけど」
「別に大したことではありませんよ。鈴ってゲーム好きでしょう?」
黙って頷く鈴に春香は
「そんなあなたにこのソフトのことを聞きたかったのよ。」
「これって、Craft・Skill・On-lineじゃないか!これ私もやってるよ!ただ今は第一陣用のサーバーしか用意されていないからね。来週に第二陣も迎え入れられる巨大サーバーが確立する予定になってるので、春香が出来るようになるのは来週の金曜日だね。でも自分のキャラクターを作成することは出来ると思うからゆっくり準備しな。」
「分かったわ。説明ありがとう。じゃあ、これで帰ります。午後の講義、頑張ってください。」
「うん、CSOで待ってるよ。」
「通称CSOと言うのですね。分かりました。では。」
二人は手を振りあうと別れた。
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家に帰り自室に入ると、なぜかベッドが変わっていた。
いつも使用していたベッドはどこかに消え、今目の前にあるのはカプセル型ベッド。
机には説明書が置いてあり、そこには『改造医療用VRカプセルベッド』と書かれている。
これが用意されているということは、これを使ってゲームをして良いということだろう。
鈴にも言われた通りキャラクターを作ることは出来る為、着替えを早々に終わらせてベッドに入った。
ゲームを起動すると、目の前が暗転し気が付くとそこは草原となっていた。