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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第4-2話 金の香りは死の前兆


 会議室には、一般第2兵隊の隊員がプラトンとトスを含め4名、特殊部隊の隊員がビアンナを含めて3名いる。少ないように思えるが、特殊部隊員は基本的に2人いれば1人の魔法使いを相手取れるよう訓練されている。今回の事件のように魔法使いの関与が疑われているだけのとき、特殊部隊員が3名もいる方が珍しいのだ。


 それぞれの部隊が集めた情報を照らし合わせながら、トスが話を進めていく。


「最初の暴力事件は酒に酔った男性同士の衝突でした。そのため、すぐにその場で対処して終了。次に女性同士による暴力事件が発生。その内一人は、最初の暴力事件の男性の妻であることがわかり、違法薬物の使用を疑い調査。しかし特にこれといったものは発見されませんでした。その後、現在に至るまで数日おきに同様の暴力事件が発生しています」


 そこでスッと特殊部隊員のうち1人が発言を求め、手を挙げた。


「はい研修くん」


 なぜかトスではなくビアンナが指名する。


「発言失礼致します。研修期間中の訓練員ドルマン・ヘーゲスであります。特殊部隊の調査結果を追加致します。諜報部からの情報により、”ノ・ラントゥ”という香水を調査したところ、わずかではありますが魔力反応があったことから魔法使いの関与を視野に入れつつ調査を進めております。また、魔力反応は”協力者”によって確認済みであります」



 “協力者”とは、人間やそれに関わる場所に危害を加え、危険だと判断され拘束された魔法使いたちの中で、あらゆる方面で自身の持ち得る知識や技術を提供する者たちのことを言う。この協力度合いにより、拘束された魔法使いへの処分が軽減される場合がある。しかし、協力者は魔法を一切使えないように魔力封じが施されることになっている。


 また、魔力反応が確認されたということは魔法使いの関与は勿論疑われるが、香水を作る過程で魔草といった微量ながら魔力を持つ植物などが混入してしまった場合も考慮にいれている。そのため、今回は魔法使いの関与が疑われているに留まるのだ。


 ドルマンは続ける。


「そしてこの香水ですが、一般第2兵隊が担当している暴力事件に関わる人間ほぼ全てが、なんらかの形で使用していることが判明致しました」


「はいよろしい。と、いうことでーす。それじゃ、今後の予定を」


「ちょっと待てー」


 ビアンナがトスへ今後の予定を聞こうとしたとき、そこに被せるようにプラトンが額に手を当てながら言う。


「訓練員がなぜいるんだ。まだ研修期間には早いはずだが」


 ガードン軍の部隊に正式配属される前は皆、訓練員として3年間訓練を受ける必要がある。特殊部隊員候補は3年間の訓練が終了しても、その後2年間は特別訓練が必要であり、最後の半年は研修期間として部隊に仮配属されことになっている。


 しかしプラトンが言うように訓練員の仮配属まで、まだ4か月ほどあるはずだ。


「山脈調査でちょっとヤバいもん発見しちゃったのよねー、私。それを報告したら即戦力が必要だっていう判断で、ついさっき訓練員の研修期間が早まることが決定したってわけ。だからそこら辺にいたこの研修くんに声をかけたの~」


 そう言ってビアンナは、ドルマンの肩を軽くたたいた。注目を浴びたドルマンはただでさえ良い姿勢をより伸ばして、光栄です!と言う。そんな光景を見て可哀想にドルマン訓練員…、とトスは心の中でドルマンを哀れんだ。

 

 ビアンナは高い戦闘能力で今まで数多くの実績をあげてきたが、癖のある性格で周りを振り回すことで有名なのだ。トスの友人も何人かビアンナと仕事が一緒になり、大変な目にあったことがある。ドルマンはまだ訓練員のため、ビアンナのことを数多くの実績をあげている見目麗しき特殊部隊員としか認識していないのだろう。本性を知るのも時間の問題だ。というかもう気づいててもよくないだろうか、とトスは疑問に思った。


 プラトンは面倒事を持ち込みやがってとビアンナに悪態をつきつつ、


「…じゃあ、もう1つ。お前の横にいる奴は、なんっでそんなつらぁしてやがる!ふざけてんのか!」


 そう言ってビアンナの隣に座っている、右側に2本の赤い縦線が入った真っ白のお面をつけている黒髪の男を指さした。因みに目や口の箇所にぱっと見、穴などは見当たらない。


「あっ、これー?3年目のアリサー君、北からの派遣隊員よ。他の仕事をいくつか掛け持ちしてていないときがあるかもだけど、力量はこの私が保証するから安心して」


 仕事を掛け持ちってどーゆうことだよ…、とビアンナとの会話に疲労を感じ始めたプラトンは呟く。そして、なんだかんだプラトンの質問は無視されていた。


「でねでね、ここ見て。つるっつるのお面だと思うじゃない、でも違うのよ。小さい穴がいくつか空いてるのよ。ここから見えてるのかしら?」


 ビアンナはアリサーのお面をつつき始める。

 すると、


「そこは口です」



((((しゃべった…!!!!))))



 プラトンとトスを含む一般第2兵隊の隊員たちが驚く。お面をつけているアリサーは、ビアンナが騒がしくこの部屋に入ってきた時から今まで微動だにしなかったのだ。そのため、もう最後まで動かないんじゃ…。と思い始めていたところだった。


 しかし実はこれ、座ったまま寝ていただけなのだ。大きく横に傾く寸前、タイミング良くビアンナが話しかけて目を覚ましたというわけだ。


 完全に疲れ切って天井を仰ぐプラトンを見て、トスは限界だなと判断する。


「あー、ビアンナさん、プラトン中隊長。今後の予定を提案致します。昨日報告された香水との関連が疑われる暴力事件ですが、重体で病院に搬送されていた女性が死亡したことから、香水店店主へ聞き取りをいたします。ですが、魔法使いが関与していることを考慮して、相手にこちらが調査していることを気づかれては面倒です。そのため、民衆に紛れて慎重に行いたいと思います。その後は、聞き取り内容によります」


 そこまで言うと、ビアンナとプラトンの様子をうかがう。


「いいよー。異議なーし」


「特に問題なさそうだ。それで行こう」


 ビアンナとプラトンの許可が下りた。

 これにて、ようやく合同会議が終了した。


 ビアンナに続き、アリサーが部屋を出る。ドルマンは一般第2兵隊の面々に丁寧に頭を下げて出て行った。それを見送った一般第2兵隊員たちは一気に脱力した。


「キャラ濃すぎだろ……」


 トスの疲れ切った呟きがやけに響いたのだった。




 時刻はお昼前。

 テルーナ王国首都ガランドはいつも通り、多くの人で賑わっていた。そこに、1人の少女が一見何も入っていなさそうな小さな鞄を横にかけ、行き交う人を見つめてたたずんでいた。右手には露店で買ったであろう最近人気のジュースを持って。


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