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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ ガードン軍 特殊部隊編 ~
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第27-2話 身近にあるもの


 頼ればいいというアリサーの言葉の真意をソルティアは考えていた。


 他人には自分が何か悩んでいるように見えたのだろうか。ガードン軍の人間には6年間の記憶がないとだけ教えてあるはずだが、アリサー隊員はリーンの樹との関係を知っているような口振りだ。特殊部隊員としてある程度の知識はあったとしても彼の立ち位置が正直よくわからない。


 特殊部隊専属の薬師となったときに魔法使いだとバラしてバンデル隊員というプライドの高いよく吠える犬をけしかけたと思ったら、夢の書の件では助けたり。


 そして何より引っかかるのは魔法使いに対しての感情。特殊部隊員であっても魔法使いに対しては憎悪や恐怖を見せるものだ。比較的優しく接してくれるユニアス隊員でさえ初めはこちらを警戒していた。しかし、アリサー隊員は魔法使いに容赦がないくせに、”無”なのだ。憎悪や恐怖といった感情を読み取ることができない。


 お面のせいで表情がわからないからという理由ではなく、これは単純に、向けられる視線に込められる感情についての話。人間なのだから、お面の下には必ずその人の瞳があるはず。アリサー隊員が向ける”無”という感情の理由は彼の瞳を見ればわかるのだろうか。今はなぜか、それが知りたくて仕方がない。



「……アリサー隊員、そのお面をとってあなたの瞳を見せてください」


「は?」



 突然のソルティアからの要求にアリサーが戸惑う姿をみせた。ユリィやマレスもソルティアがどういった思考回路でこの言葉を投げかけたのか分からずにいる。


「え、え、え、どうしたんっすか、急に! いや、たしかにアリサー隊員のお面の下って気になってましたけど、これはあれじゃないっすか!? 不可侵の領域じゃなもががッ」


「マレス煩い」


 よく口の回るマレスをユリィが煩わしそうに遮った。力ずくで。

 

「……なぜ」


 感情を殺し切った声でアリサーは問う。


「以前から不思議だったんです。私を殺そうとする素振りをみせておきながら、あなたからはどんな感情も感じ取れません。瞳を見れば魔法使いに対してどんな感情を抱いているのかわかるはずです。だから私はあなたの瞳が見たい」


「……」


 何も隠さず、濁さずのストレートな言葉にマレスはヒュッと短く口を鳴らした。まるで告白をしているようだと2人の様子を見守る。ユリィも珍しく興味を示してアリサーの返答を待つ。


「なら教えてやる。何とも思ってはいない。自分がやれることだから自分でやっているまで」


 お面をとって瞳を見せる気はないらしい。


「では、私が暴走したらきちんと殺してくれますか」


 ああ、嫌だな。

 また人任せだ。


「……ああ」


「一切の躊躇いなく、確実に、殺してください」


 でないと私が殺してしまう。

 あの日、あの人のように。


「……ああ」



 そこでこの重苦しい雰囲気をマレスがぶち壊した。


「うえええ!? ソルティアさん、暴走する予定あるんっすか!? てか殺してくださいって普通に考えてやばい約束っす! おそろしッ!!」


 ユリィの拘束からなんとか抜け出してソルティアに詰め寄る。


「か、可能性の話です。実は私魔力が濃密で膨大ってだけじゃなくて、結構強いんですよ。だからアリサー隊員くらいじゃないと相手にならないと思うんです。それに、最近ちょっと良くないこと続きなので……」


 ソルティアはマレスの勢いに押されて若干たじろぐ。一連の流れを静かに見守っていたユリィは大きなため息をついた。


「素直に助けてって言えばいいのに」


 ぽつりとつぶやいた言葉はソルティアとアリサーの耳にも届いているはずだが、二人は何の反応も示さなかった。



「よし! ではソルティアさん、アリサー隊員の言う通り俺の研究を利用して自分の血液ないしは魔力について調べるってことでいいっすかね! いいっすよね! ではでは、こちらへ座ってくださいっす!」


 採血をするためにマレスはソルティアの返事を待たず椅子に座らせる。まるでこれから楽しい遊びをするような、そんな顔をしているのがなんとも釈然としないな、とソルティアは思ったが口には出さずされるがままになった。


「あの、そもそも私の血液と髪の毛を使ってどんな研究をしたいんですか」


「魔力の抽出っす! 最終目標としては、様々な媒体から魔力を抽出する方法の確立っすかね。魔法使いでなきゃ魔法は使えないっすけど、魔力という力、俺はエネルギーって考えてるんすけど、それを人間が生活の中で利用できると便利で面白いんじゃないかなって思ってるっす!」


 マレスはささっと採血を終わらせると保存用のカバンに研究サンプルであるソルティアの血液と髪の毛をしまいながら説明する。


「母体が少ないものを人間たちが使う道具にするってことですか?」


 魔法使いはただでさえ人数が少なく、普段は人間から隠れて暮らしている。それなのに魔力の抽出を確立させたところでもととなる魔力を手に入れるために魔法使いはより虐げられるのではないか。かつてあった、珍しい動物の毛皮欲しさに人間がその動物を乱獲した出来事のように。それを危惧してマレスに苦言を呈した。


「あっ、それはご心配なくっす! 別の研究員が魔力の複製っていう研究をしてる奴がいるんっすよ! その研究の成果がでれば、元となる魔力サンプルがあれば少しの量で大量複製が可能になるらしいっす! いやー、時代は常に動いてるっすね!」


「へえ、人間って変なことを思いつくものですね」


 魔法使いを虐げておきながら、その力は欲する。

 なんて傲慢な生き物なんだろう。



 マレスはただ自分の好奇心に従って生きているようだが、その研究は魔法使いを忌避する人間たちにとっては一体どう映るのだろう、と少し複雑な気持ちを隠せないソルティアであった。


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