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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ ガードン軍 特殊部隊編 ~
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第26-2話 雪花を見つけたら…


 アインゲルたちが湖のそばで雪花を探し始めてすぐ、お目当てのものは見つかった。


「雪花は摘めばエルシィが気づく。だから摘んでしまえばこの遊びは俺たちの勝ちだ」


 そう言ってアインゲルはさくっと雪花を摘む。他3名の訓練員たちはエルシィと遭遇することなくこの遊びが終わったことにやや物足りなさを感じているようだった。


「ソルティアにも伝えとくか」


 手のひらから白色と黄色の中間のような色の雷を作り出し、空に向かって打ち上げた。木々の隙間を縫い上空に雷の花が咲く。これでソルティアはこちらに気づいてやってくるだろう。ついでに訓練員たちにかけていた不可視の魔法を解く。


「久しぶりに良い運動になったなーー」


 アインゲルが肩をぐるぐる回したり、足を伸ばしたりしていると木の陰からエルシィが飛び出してきた。



「うわわーー! 僕の負けー? 僕の負け―? まいった、まいったーー!」



 アインゲルが持つ雪花の周りをふよふよと漂い、またもアインゲルの頭の上にぽすっと音をたてて収まった。頭に被っている冠の氷の花がきらきらと輝く。


 ふわり ふわり


 空から白くて冷たくて少しの期待と切なさを抱かせるものがふわりふわりと降ってきた。



「初雪ですね」


「おっ、ソルティア!」


 アインゲルたちのもとにソルティアとアリサー隊員が合流した。だが、もう一人の訓練員ハンネ・シッターがいないことに他の訓練員たちが気づいて問う。


「アリサー隊員、ハンネ・シッター訓練員がいないようですが……」


 訓練員たちの頭の中には、途中で別れてまだ合流していないのだろうか、そんな考えが浮かんでいたがアリサー隊員の次の言葉に絶句することとなる。


「戦闘不能により基地へ強制送還した。よって個人評価は0、班評価はマイナス100ポイント。1班はマイナス100ポイントだ」


「はっ……!?」

「え」


 訓練員たちの評価は基本的に加点制。今回はハンネ訓練員が自身の判断ミスにより戦闘不能になったため加点はされず、このような班員を出した班はポイントがマイナスとなる。


「なんっ……ですって!? アリサー隊員! ハンネ訓練員に何があったんですか! 彼は今まで常に主席です。ちょっとのことでヘマするはずが――」


 そこまで言ってクリーム色のショートヘアの女性訓練員はハッとした。視線をソルティアへ向ける。


「……何です?」


 ソルティアは盛大に顔をしかめてみせる。それを見た女性訓練員はギリっと歯を食いしばった。


「あんたが、彼に何か汚い真似したんでしょう! 優秀な特殊部隊員がいなくなればあんたたち魔法使いは動きやすくなるものね! ほんっとうに最低! やっぱり訓練に魔法使いなんて参加させるべきじゃなかったのよ!」


 たれ目の男性訓練員はおろおろとして、もう一人の金髪ボブの女性訓練員は激しく同意していた。好き勝手言い放題の訓練員にソルティアはこの森に入ってからの苛立ちをぶつけることにした。アインゲルはこの様子をにやにやした顔で眺めている。


アレ(・・)で主席? どうやらガードン軍も人手不足のようね。私が手を下すまでもなく清々しく自滅したわ。本当に笑える。そもそも森という環境がどんなものかも考えずに行動するなんてありえない」


 それに、とソルティアは続ける。


「アリサー隊員も同行していたわ。私が何か危害を加えたなら、アリサー隊員が私を捕まえるなり殺すなりしているでしょう。あなたのその発言はアリサー隊員を疑うものになるけどわかっているのかしら?」


「そっ、それはっ……。そんなつもりじゃ」


 ソルティアに正論で返され、感情のままに喚き散らした女性訓練員は狼狽える。それを見てソルティアはぐっと何かを飲み込んで自嘲気味に話しだした。


「本当に、幸せなことよね。そんな風に怒りをぶつけることができて。知ってるかしら? 私たち魔法使いは魔力に感情が乗りやすい。私が本気で怒ればあなたたちなんて一瞬で消し飛ぶし、ここら辺は焦土と化すわ。魔力が暴走した日には――」



 ――次は一体何千人が、何万人が死ぬのだろう。いや、この手で殺してしまうのだろう。



 俯いてしまった顔を上げるとアインゲルの不機嫌そうな顔が視界に入った。なんだか面白くてふっと笑って続きを口にする。


「とにかく、私が優しく忠告しているうちに大人しく引き下がりなさい。今、私を殺せるのはアリサー隊員ぐらいでしょう。もしこの先、私を捕まえる日が来たら、その時は私を殺せるぐらいの実力をつけて挑みなさい。そして……、容赦なく殺して」


「え……?」


 訓練員たちは自分を殺せというソルティアに驚いて今までの憎悪の気持ちを一瞬忘れる。


「お前っ、まだそんなことを!」


 アインゲルはちっと舌打ちをしてソルティアに近づこうとする。しかし、ここで今まで大人しくしていたエルシィがふわりと宙に浮かんだ。



「できないよ。できない。銀の魔法使いは死ねないよ」



「え?」


 ソルティアはエルシィの言葉に目を瞬かせる。


「だって、銀の魔法使いはリーンに愛されているよ。銀の魔法使いからリーンの雫を感じるよ。嬉しいねぇ。嬉しいねぇ」


 エルシィはふふふと笑って宙でくるくると踊り始める。そんな様子を茫然と見るソルティアは必至に頭の中で今の言葉を理解しようとしていた。


「リーンって、いや、リーンの雫って……」



 “リーンの樹は何でも叶えてしまう奇跡の樹。誰かの好意が、願いが別の誰かにとっては呪いとなることもあるんだよ”


 いつか師匠が言っていた言葉をなぜかふと思い出した。


「エルシィ! 死ねないってどーいうことだよ!」


 混乱するソルティアに代わってアインゲルが死ねないなどという不気味な内容について聞く。


「きっと誰かがリーンに願ったんだよ――」



 “死なないで”



 って。



 ソルティアの後ろではアリサー隊員が片足を半歩後ろに引く音が聞こえた。


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