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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ ガードン軍 特殊部隊編 ~
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第25-1話 雪の訪れ

少し間が空いてしまってすみません。


 特殊部隊訓練員の訓練になぜか魔法使いアインゲルが参加していた。


「いつまでついてくるつもりですか? 無駄に人間を刺激するのやめてください」


 ソルティアはアインゲルに文句を言う。

 訓練員たちの当初の目的であった魔物の巣の破壊および殲滅はアリサーのサポートのもと、無事に終わった。しかし、アインゲルがいることで班の雰囲気がとてもピリピリしているのだ。当の本人は全く気にせず自由に散歩をしている感じだが。


「おっ! あそこにいるのはエルシィだな。そろそろ雪が降るのか」


 休憩のために小川を探していると進行方向の先に木の周りをくるくると回っている妖精がいた。アインゲルの言葉に訓練員たちもつられてエルシィの方を見ると初めての妖精にぎょっとした。


 エルシィとは雪が降る前に姿を現す妖精だ。森の中でしか姿を現さないのでただの人間がその姿を見れることはなかなかない。アインゲルは長らく森に住んでいたため毎年見ていたのだろう、あまり珍しそうではない。ソルティアはこれでエルシィを見るのは3回目だ。


 こちらに気づいたエルシィが宙を歩きながら向かってくる。エルシィは森の妖精フィーリルのような羽は持たない。そのため、表現として正しいのは飛ぶではなく浮いているだ。


「すんすん、うわあ。久しぶりに魔法使いがいる。2人も。すんすん、あとは持たざる者だね」


 エルシィは目が見えないため香りをかいで魔法使いとそうでない者を判別する。見た目は少女のようであり少年のようでもある。青銀の髪に雪の花で作った花冠を被って肌はまさに雪のように白い。


「うれしいなぁ、うれしいなぁ」


 エルシィはアインゲルの頭の上が気に入ったのか肩車をする形で落ち着いた。


 季節がどんな生き物にも平等に来るように、エルシィは魔法使いにも人間にも平等だ。だから人間に姿を見られても逃げたり攻撃したりしない。森に住む妖精のほとんどは人間に姿を見られるのを好まない。基本的に、季節の訪れを知らせる妖精たちは生き物の区別をしない。誰に対しても何に対しても平等なのだ。


「あそぼう、あそぼう」


「「えっ」」


 この言葉にソルティアとアインゲルはとても驚いた。妖精は総じて遊び好き、いたずら好きではあるがエルシィが雪の訪れを知らせている最中に他のことをするのは珍しい。ここで蔑ろにしたら面倒くさいことになるだろうと直感したソルティアとアインゲルは快く承諾しようとした。


 しかし、空気の読めない訓練員が先に動いてしまった。


「悪いけど、遊んでいる暇なんてないわ。どこかに行って」


「ちょっ」


 ソルティアはぎょっとするがそれを聞いたエルシィの様子が一変した。アインゲルの肩から降りて地面に立つ。すると、エルシィが立ったところを中心に草花が凍り付いていく。訓練員たちはあっという間の出来事に目を白黒させるが、足元はしっかりと地面に固定されてしまっていた。ソルティア、アインゲル、アリサーは上手くかわして凍った地面の上に立っている。


「ふっふざけないで! 早くこれ何とかしなさいよ!」


 クリーム色でショートカットの女性訓練員がヒステリックに喚く。


(お願いだからそれ以上しゃべるなっ!)


 ソルティアはうわぁぁと心の中で叫んだ。妖精は自分のペースを乱されたり無理強いされることを過度に嫌う。そして彼らの力は未知なのだ。エルシィは1年で数回しか姿を現さない妖精。これから何が起こるか全く予想がつかない。


「うるさいうるさいっ! その口、いらないね」


(まずいッ!)


 エルシィは女性訓練員の顔ごと凍らせる気だ。そんなことをされてしまえば彼女は確実に死ぬ。ソルティアはエルシィの気を引くために急いで話しかけた。


「エルシィ! あなたの好きな遊びをしよう。何でもいいよ。そんな人間放っておいてね」


「……あそんでもいい?」


「ああ」


 エルシィのつぶやきのような問いにアインゲルがはっきりと答えた。するとエルシィは訓練員から視線を外してふわりと浮かぶ。


「月が一番上にくる前に雪花を見つけて。見つけたらきっと良いことがあるよ。見つけられなかったら悪いことが起こるよ」


 見つけるだけでいいのか、とソルティアとアインゲルが安心しかけたところでエルシィはニコリと笑って言った。


「ぼくに見つかったらだめだよ」


 つまり、エルシィから逃げながら雪花をこの森の中で探すということ。制限時間は月が真上にくるまで。逃げながらという条件で一気に難易度が上がった。特に訓練員たちにとってはもはやこの条件では遊びに参加した時点で負けだ。なぜならここでは魔法を使い放題だから。まさに、訓練にきたはずの人間がいきなり実践に放りこまれた状況。だが、エルシィはここにいる全員で遊ぼうと言っているため拒否することはできない。


「10数えたらはじめだよ。いーち、にー」


 ソルティアは慌ててアリサーを呼ぶ。


「アリサー隊員! ひとまずここから離れます! 死にたくなかったらついてきてください」


 ソルティアが訓練員に指示したところで彼らが素直に従うとは思えない。この班の指導隊員であるアリサーに声をかければ彼らは従わざるをえないだろう。



 エルシィが数を数え始めたところから大分離れたところまで全速疾走でやってきた。今の時点で誰一人欠けてはいない。


「はあっはあっ、はあ」

「なっ何のよいったい!」

「くっ、どーやってるんだっ」


 訓練員たちは状況を把握できずにいた。そんな姿にソルティアは冷たい視線を送る。


「森に入ってからずっと思っていたけど、なめすぎよ。森は人ならざる者の領域。不用意な言動が招いた結果だわ。妖精に対してあんな態度、死にたいとしか思えない」


 ソルティアの口調が変わったことに訓練員たちは眉を寄せる。しかし、ここでごちゃごちゃと話をしている余裕はない。すぐに雪花を探さなければいけないのだ。日がもうすぐ沈み始める頃、ただでさえ夜の森は厄介だ。完全に夜になる前に見つけなければ注意すべきモノが多くなってしまう。


「アインゲル、二手に分かれましょう」


 アインゲルはこのままエルシィの遊びに付き合わなくても特に困ることはないのだが、なんだかんだ久しぶりの人との交流が楽しいようで協力的だ。


 たとえ、失敗して魔狩りが犠牲になっても良いと考えていたとしても。


 訓練員たちはこの森で出会った信用のない魔法使いアインゲルと一緒に行動をともにすることに渋っていたが、何か危害を加える素振りをしたらガードン軍の規則に従って拘束しても良いとアリサーに言われて俄然やる気が出た。


 結局、ソルティアはアリサーとアッシュグレーの髪をしたハンネ訓練員と行動を共にすることになった。アインゲルは残りの訓練員3人とだ。戦力外と思ったのか彼らに早々に不可視の魔法をかけて見つかりにくくしていた。賢い判断だ。


 こうして、雪の訪れを知らせる妖精エルシィとの少し危険な遊びが始まった。


お読みいただきありがとうございます。


この物語と少し通ずる短編小説を投稿しています。

ご興味あればぜひ読んでみてください。

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