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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ ガードン軍 特殊部隊編 ~
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第24-2話 霧の魔法使い


 いきなり頬に口づけをしてきたアインゲルを引き剥がすとアリサー隊員がアインゲルに向かって剣をふるった。


「あん? なんだてめー」


 アインゲルはソルティアとの(一方的な)抱擁を邪魔されたことに不快感を表す。アリサー隊員が剣をふるってはアインゲルも雷で作り出した剣で防ぐ。それを数回繰り返したところで、若干押され気味だったアインゲルが悪態をついた。


「くっそ! お前っ、バケモンか。 本気じゃねーな」


 段々と息が上がってきたアインゲルに対してアリサーは余裕そうだ。ソルティアの目から見てもアリサーが手加減しているのがわかる。アインゲルが一旦距離を取ろうとした瞬間、アリサーは力強く剣をふるって魔法で作った雷の剣を消滅させた。そして重い回し蹴りをくらったアインゲルは遠くへ吹っ飛び姿が消える。


「うわあ……」


 おそらく、この濃霧を抜けた先まで吹っ飛んだと予想できる。アインゲルは西域の魔法使いの中では戦闘が得意な方だ。そのため、魔狩りに全く歯が立たないあんな姿を見るのはなかなか珍しい。アリサーが魔狩りとしてどれだけ優秀なのかがわかる光景だった。



「……魔法使い、何なんだあの青髪の魔法使いは」


 ハンネが他の訓練員の傷の具合を見ながらソルティアに質問した。他の訓練員たちからも睨まれているのはソルティアの気のせいではないだろう。


「ほいほい魔法使いの情報をあなたたち魔狩りに渡すほど馬鹿ではありませんのでお答えしかねます。……ですが、私としても彼がここにいるのは予想外でした」


 聞いたら何でも答えが返ってくると思うな、という気持ちでソルティアはハンネを見返した。ハンネは目をそらしたら負けだとでも思っているのかじっとソルティアの瞳を見つめる。すると、目の前が真っ暗になった。視線をずらすとアリサーの白いお面と黒髪が霧の中でもはっきりと見えた。二人の間にアリサーが立ち塞がって言う。


「先に進むぞ」


「了解です」


「……」


 黙ったままのソルティアに対して訓練員たちは指導隊員であるアリサーに大人しく従ってこの濃霧を抜けた。ソルティアは結界を解くと周りの魔力が探れるようになり、心地よい解放感からほうっと息を吐く。



「やっと出てきたか!」


 濃霧を抜けた先には木の幹に体を預けて地面に座っているアインゲルがいた。特に大きな傷はなさそうだが明らかに不機嫌そうだ。訓練員たちはアインゲルの存在を確認すると警戒度合いをマックスまで引き上げた。そんな様子には一切興味を示さずアインゲルはソルティアだけを見る。


「ソルティア、お前ついに血迷ったか? なんで魔狩りなんかと一緒にいやがる。なんか弱みを握られてんなら今ここでそいつら殺そうぜ」


 そう言って手のひらからバチバチと雷を飛ばす。


「他はともかく白いお面さんはあなたじゃ無理でしょう? 私のことは放っておいてください。それよりもそっちこそなんでこんな浅いところにいるんですか」


 アインゲルは西域最大の不可侵の森に住む魔法使い。人間だけでなく魔法使いとの交流も一切絶って森の霧について研究をしている変わり者だ。


 ある時、霧の中でヘマをして魂と怨念がツギハギになったナニカに喰われそうになったところをソルティアの師匠に助けられた。その時は一緒にソルティアも師匠と旅をしていたが、2年間の眠りから目覚めて間もなかったため愛想がなかったが、なぜかアインゲルに気に入られて嫁にするだのなんだのと言われ迷惑を被ったのだ。


「俺も好きでこんなつまんねえ浅いところにいるんじゃねえよ。金色の瞳の魔法使いが訪ねてきたから話をしてただけさ。俺の研究に興味があるってんでな」



「え?」



 今、何て言った?

 金色の瞳の魔法使い?

 それは……、ゼオのこと?


 ソルティアは目を大きく見開き、動きを止めた。


「その魔法使いはまだ近くにいますか」


「いや、転移でどっかに行ったからもういないと思うぞ。なんだ? 知り合いか?」


 アインゲルはソルティアが話に食いつくと思っていなかったため、少々意外に思いつつ答えた。


「……そうですね。今一番会いたい相手ですかね」


 皮肉を含んだ物言いと貼り付けたような笑顔にアインゲルは直観した。


「もしかして……何か思い出したのか」


 ソルティアは7歳から13歳の6年間の記憶がない。そして13歳から2年間ある事件がきっかけで眠りについていた。その事件の記憶も曖昧だったのだが、夢の書調査がきっかけで忘れていた記憶を少し思いだしたのだ。


 ソルティアに記憶がないことや2年間眠りについていたことをアインゲルは知っている。


「ええ。やっと、私がすべきことがはっきりし――」


「まさかその中にお前自身の死も含まれてんじゃねえよな」


 アインゲルは被せ気味に言う。



 “生きることに執着がない”

 初めてソルティアと会ったときからアインゲルが感じていたことだ。魔力が莫大なことと毒の耐性があったことも重なってか、危機感に対する感度が希薄。鈍いとは違う、自分のことなのに他人事のように捉えすぎる節がある。


 そしてソルティアが自身を気にかけない1番の理由は”治癒力”にあるとアインゲルは考えている。ソルティアはある程度の傷であれば自己治癒が可能なのだ。これはもはや魔法使いの領域を超えている。魔力が濃密であればあるほど魔法使いは傷を負った際の治りが早くはなるが、完全に治るような魔法はない。つまり、一部の人間が夢見る治癒魔法なるものは存在しないのだ。


 しかし、ソルティアはなぜかその治癒魔法のような現象を自分の意思とは関係なく体が勝手にやってのける。その際、傷の程度によって睡眠が必要になり2、3日眠りっぱなしということも普通にあることだ。これは自己治癒の対価ではないかとソルティアの師匠が言っていた。



「……」


 アインゲルの問いかけにソルティアは答えない。それに若干の苛立ちを見せるがアインゲルは大きく息を吐いて情報を提供した。


「あいつは魔法使いを集めてるみたいだったぞ。目的はわからないがな。……お前とあいつの繋がりは?」


「言えません」


「紅目の男と関係があるのか?」


「っ……」


 ソルティアがたじろいだ姿を見てやっぱりなとアインゲルは思った。出会ってすぐのころ、ソルティアはいつも眠るたびにうなされていた。理由を問い詰めたところ、自分の大切な人を自分の手で殺してしまったと呟いたのだ。そいつは紅い目をしているらしい。それ以上のことは記憶が曖昧でソルティア自身もわかっていなかった。それ以上に抱え込んでいることがありそうだったが、1番気にしてソルティア自身を縛っているのはそのことのようだった。


 それについて、何かしらの進展があったのは良いことだ。たとえ悪い方であっても。


「まあいい。これからじっくり聞けばいいしな」


 その言葉にソルティアは嫌な予感がした。


「私、あなたに会いにきたわけでもあなたと行動を共にするつもりもありませんからね。このまま魔狩りと一緒にいないといけないんです」


 それを聞いたアインゲルはとんでもないことを言い出した。



「俺もついてく!」



 15歳の少年アインゲルは無邪気な笑顔を向けたのだった。

 

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