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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ ガードン軍 特殊部隊編 ~
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第24-1話 霧の魔法使い


 いつだってどこでだって、死んでしまったひとは”運”が悪かったんだ。ただそれだけ。そこに意味などない。誰かがもっともらしい理由を語っていたのならそれは後付け。弱い心を支えるために作りだした虚像。



 だから……


 私が誰かの命を奪ったとしてもそれに意味などない。


 何を語ったところで”死”は変わらない事実なのだから。



 私という意思のない狂気的な道具を使っただけだとしても……


 命を刈ったのは“私”に変わりはないから。



 これは、言うなれば”呪い”であり”運命”だ。



◇◇◇



「あーーーー、つまんない」


 若干緊張した足取りで前を歩く訓練員たちを無視してソルティアはぼやく。


 ソルティア含む1班のメンバーは不可侵の森に入って1時間ほど歩いた場所にいる。予定通り、魔物との戦闘訓練の最中だ。訓練員4名を先に行かせ、対応や協調性を見ている。アリサー隊員はソルティアの監視の意味も込め、最後尾を歩いている状況だ。


 また、昨夜の食堂での一件は途中から入ってきたプラトンによって収められた。初対面のときはほとんどの訓練員たちがソルティアに蔑みの目を向けていたが、食堂での出来事を境にそこには憎しみが加わっていた。



「すでに1時間ほど歩いているが魔物を見ないな」


「ええ、そうね。なんでかしら……。ねえ、どう思う?」


 この班のリーダー的立ち位置のアッシュグレーで前髪を中央分けにしたハンネとクリーム色でショートカットの女性訓練員が釈然としないという感じに意見を求めた。それに茶髪でたれ目の男性訓練員が自信なさげに答える。


「もっもしかしたら、魔物が、その……嫌いな、何か……が、そのっ、あっあるの…………かも」


「何かって何よ」


 もごもごと自信なさげに話すたれ目の男性訓練員にショートカットの女性訓練員は苛立ちを含んだ口調で返す。訓練を初めて1時間ほど彼らの様子を見ていたソルティアだが、協調性の観点で見れば、最悪としか言いようがない。もともと特殊部隊員は個性の強い人間の集まりらしいが、これはそれ以前の問題だ。


 彼らは森という環境を甘く見すぎている。ここは魔物や人ならざる者が支配する領域。そんな場所にまだ知識も経験も浅い人間がのこのこ入っているのだ。そこを全く意識していない。


 現に、先ほどから足元にはサエギリソウという下位の魔物が嫌う香りを放つ花が咲いている。鈴のような形をした薄い紫色をした花だ。このせいでここら辺に魔物は寄り付かないのだ。特徴的な花なのですぐに見つけることができるが、訓練員たちは遠くばかり見て足元の花には目を向けていないため原因に気づいていない。


「たれ目君が一番惜しいなぁ」


 ソルティアが薬草に詳しいからサエギリソウを知っているわけではなく、特殊部隊員であれば誰でも知っていることだ。


 サエギリソウに気づかないまま歩みを進めると不可侵の森特有の濃霧に襲われた。


「いつでも戦える準備を。魔物より厄介なモノがいるらしいからな」


「「「了解」」」


 ハンネの言葉に他の訓練員が同意して帯刀していた剣を鞘から抜いた。この濃霧は魔力を乱れさせる特性もあるのでソルティアは自分の周りにだけ簡単な結界を張る。



 すると、訓練員を挟むように右と左に黒いナニカがちらついた。


「アアァ……」

「ウウ……」


 魂と怨念がツギハギになったナニカ。人ならざる者。最も可哀そうな生き物。


「2体だ! 二手に分かれよう。戦闘開始!」


 訓練員たちは体長2メートルほどある黒くてドロドロしたうめき声をあげる存在を見つけるとすぐに戦闘に入った。奴らはこの霧の中でしか存在を保てない生き物で人に害をなす。人を喰った分だけ知能が上がっていき、魔法使いを喰った分だけ魔力で存在が確かなものに変質していく。


 ソルティアとアリサーは彼らの戦闘がぎりぎり見える位置で黒いナニカを消滅させるさまをじっと見つめる。黒いナニカは喰った人間の数が少ないようで訓練員たちで仕留めることができた。


 この訓練の目的は濃霧を抜けた先の森の中腹で人間に害のある魔物が大きな巣を作っているという情報があったため、その巣と魔物を破壊・殲滅することだ。先を急ごうと歩き出したとき、



「俺の研究素材を無断で消滅させたこと後悔しろよ。クソ魔狩り共が」



 地を這うような低い声がした。

 そして訓練員たちは背中にゾクリと悪寒を感じたのと同時に雷の矢に襲われる。


「うわあああッ!」

「きゃあああッ」

「くそッ!」

「ひっ、ひぃぃい!」


 ソルティアは難なく結界で身を守り、アリサーは剣で全ての矢を弾く。訓練員たちは傷を負いながらも懸命に雷の矢を弾いた。


 しかし、攻撃はやまない。今度は足の自由を奪おうと地面から(つる)を生やして狙ってきた。ハンネは剣で(つる)を上手く断ち切っているが他3名の訓練員たちは見事に足をすくわれ頭と足が逆の状態で振り回されて、完全に遊ばれていた。


「これは魔物じゃない……確実に魔法だ」


 ソルティアはこの光景を見て冷静に魔法使いの仕業だと確信する。まだアリサーは彼らの手助けをしない。予想外の魔法使いの襲撃だが、これも訓練になるとでも思っているのか、ぎりぎりまで見守ることにしたようだ。


 それにしても、とソルティアは考える。

 どこかで聞いたことのある声。普段であれば相手の魔力を探れば知り合いかそうでないかの判断がすぐにつくが、生憎今は霧の中で魔力を掴みにくい。わざわざお互い戦いにくい霧の中で攻撃を仕掛けてくるような変わり者の知り合いはいたかな、と考えているとある人物に思い至ってしまい頭を抱える。


「ま、まさか……ね。…………え? 嘘だよね、あいつ今はもっと深いところにいるはずだよね?」


 違っていてくれという気持ちでソルティアは叫ぶ。


「あなた、もしかしてアインゲルですか?」


 振り回されていた訓練員たちの動きが(つる)ごとぴたりと止まった。



「……誰だ? お前」



 ソルティアは自身の周りに結界を張っているため、相手もこちらの魔力を読むことができない状態だ。そして霧の中ということもあってお互いの顔を見ない限りはっきりと認識ができない。


「ソルティアです。ひとまず、この魔法をどうにかしてくれませんか」


 ソルティアが名乗るとすぐに魔法が消え、訓練員たちは地面に叩きつけられた。受け身をとれた者は誰一人いない。



 霧の中、一直線にソルティアのもとへ駆け寄ってくる人物が一名。姿がぼんやりと見えた時、ああやっぱりとソルティアは肩を落とした。



「ソルティア! 久しぶりだな! 俺の嫁になりにきたんだな! 歓迎するぞ!」



「……」


 だから会いたくなかったんだ、この魔法使いには。



 サファイアのように美しく輝く髪を持つ青年が、長い前髪の間から覗く髪と同じ色を持つサファイアブルーの瞳をきらきらさせてソルティアに抱き着く。


 そしてあろうことか、そのままソルティアの頬に口づけた。



「なっ!!」



 ソルティアが面食らっている中、後ろではアリサーの剣を抜く音がした。


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