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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ ガードン軍 特殊部隊編 ~
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第23-1話 氷と亀裂


 不可侵の森近くにある専用基地までの行き方でソルティアとプラトンは少々揉めていたが結局、ソルティアの案が通った。


「では、私は皆さんが着いてから転移魔法で行きますね」


 プラトンはため息をつきながら頭を押さえる。


「道中、隊員たちと交流してもらいたかったんだがなあ」


 本来の予定は各班まとまって馬で向かうというものだ。その間に指導隊員も交えてお互い自己紹介をして親睦を深めてもらう予定だった。しかし、それにソルティアは待ったをかけた。自分は訓練相手になるだけで訓練員たちと交流する気はないから自由に行かせろという提案だ。断じて馬に乗るのが苦手だからという理由ではない。


「訓練以外のことは自由にさせてもらいます。流石にそこまで強要されては困るので」


「……了解した」


 渋々という感じでプラトンはソルティアの要求を呑んだのだった。



 次の日の昼頃、不可侵の森近くの専用基地に訓練員たちが到着した。すでに班分けはしてあるので今日は指導隊員と訓練員のお互いの実力を把握するために基地内で軽く訓練が行われる。その前にプラトンが全員を屋外訓練場に集めた。


「今年から訓練内容に少し変更がある。それぞれ思うところはあるだろうが、これは決定事項だ」


 プラトンの前置きに訓練員たちは眉を寄せる。



「今回の訓練には特殊部隊員の他に、魔法使いも参加することになった」



「えっ!?」

「……」

「は? 魔法使いだと!?」


 予想通り、訓練員たちはざわつく。中には何も反応を示していないものもいるが内心穏やかではないだろう。


「軍で収容した魔法使いたちだが魔封じは常につけている。各班1名の魔法使いがつくことになるからな」


 プラトンがそう言うとネル隊員とフェナンド隊員が3人の魔法使いを連れてきた。魔法使いたちは全員男でフード付きの灰色のマントを着ており、首に魔封じがつけられている。


 そしてここでプラトンは驚きの行動に出た。


「最後にもう一人」


 そう言ってトスへ指示を出すと、連絡用魔晶石を持ったトスはどこかへ連絡をいれた。すると数秒後、訓練員たちの目の前で白銀に光り輝く魔法陣が展開された。突然の魔法に訓練員たちは驚きを超え警戒心を露にする。多くの者は驚きつつも剣を抜いた。



 周りに現役隊員がいる中、なぜここまで警戒心を露にするのか。

 理由は2つ。


 1つは魔法使いが魔法を使えているということ。訓練に参加するにしても常に魔封じをつける義務がある。それなのに魔法を使えているということは、その魔法使いは魔封じをしていないことになる。つまり、人食い化け物が野放しにされているのと同じような状況だ。剣を抜いて戦える準備をするのが隊員として普通だろう。


 もう1つは目の前の魔法が”魔法陣魔法”であるということ。魔法陣魔法は150年前に姿を消したはずの失われた力。そんな魔法と対峙することになり、まさかと叫ぶ訓練員もいた。

 それに戦い慣れた魔法使いであれば魔法の予兆でどんな魔法なのかを見抜くことができるが、人間にそれはほぼ不可能だ。よって訓練員たちは今からどんな魔法が出てくるのか予想することができないため身構えている。



 白銀に輝いている魔法陣から幼さが少し残る顔で藍色の髪をした女性が現れた。特殊部隊の制服を着ている。



「は?」



 魔法陣魔法によって現れたソルティアは殺気立った訓練員たちに囲まれたこの状況に目を白黒させた。本当であれば転移魔法で人目につかない場所にすっと転移するつもりだったのだが、直前にトスから連絡が入った。


 “専用基地には結界を張ってあるんですが、魔法陣魔法で通り抜けた際どのような反応があるか見たいので転移魔法ではなく、魔法陣魔法で指定した場所に来てください”


 というものだ。ガードン軍の張った結界程度であればソルティアならどんな魔法でもすり抜けられるのだが、今回はこういった事情からやむなく魔法陣魔法を使用した。しかし、それには裏があったのだ。


(ハメられたっ!)


 わざと派手な登場をするよう仕向けられたことに気づいたときにはすでに遅く、初めて魔法を使う魔法使いと対峙したであろう訓練員数名がしびれを切らしてソルティアに突っ込む。手に持っているのは魔晶石がはめ込まれた真剣だ。


「うああああああッ!」

「おおおおおッ!」

「こぉのおおおッ!」



「えっ、ちょっ」



 戦う気のないソルティアは慌てて魔法で背中に氷の翼を作り飛翔した。腰まである藍色の長い髪がふわりと浮かび、羽ばたくたびに宙を舞う氷紛が日光に照らされきらきらと輝いている。それを見た訓練員たちはあまりの綺麗さに目を奪われた。


「プラトンさん、どーいうことですかこれは! あまり私を困らせないでください! 辺り一帯、焦土と化してもいいんですか!? いいんですよ、私は!」


 空中でふよふよと浮かんだままソルティアはプラトンに不満を叫ぶ。それにユニアス隊員やネル隊員は苦笑いだ。


「すまんすまん。最初に嬢ちゃんの圧倒的な魔法を見とけば馬鹿するやつも少なくなるかと思ってな。おい! お前ら、剣をしまえ。昨日紹介した、ソルティア・カーサスだ。特殊部隊専属の薬師で魔法使いだ」


 ソルティアは訓練員たちが納得いかない顔で剣を鞘に納めたのをしっかりと確認してから地面に足をつけた。苦笑いのユニアス隊員と目が合い、こちらも苦笑いで返した。昨日からユニアス隊員の苦笑いばかり見ているなとソルティアは思う。




 それからお互いの実力把握のために班ごとに分かれた。ソルティアは1班で指導隊員にはアリサー隊員がつくこととなった。



(……今すぐ帰ろうかな)


 ソルティアのアリサー隊員への毛嫌いは日に日に増していくのだった。


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