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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第21-2話 聡い人


 ソルティアは斬られた腕の手当をしてもらうためにユリィの診察室に来ていた。ネルは報告をしに行ったのでここにはいない。袖を捲り上げて傷口を見せるとユリィが目を見開いた。


「あんた、これっ」


 傷口は紫色に変色して腫れあがっていた。誰が見ても毒だとわかる。


「あー、やっぱりですか。何だか視界が霞むなって思ってたんですよね」


 まるで他人事のようにソルティアはのんびりと言う。顔色をよく見ると段々と血の気が引いていって冷や汗をかいている。ユリィは舌打ちをして連絡用魔晶石で研究班へつないだ。


⦅さっき捕まった男のナイフに毒がついてるはず。何の毒か今すぐ調べて⦆


⦅了解っすー!⦆


 ソルティアはベッドに寝かせられる。それから2分ほどして毒が自然に生えているトイシュンから作られたものだと判明した。幸いなことにトイシュンはすでに様々な研究がなされており、もちろん解毒剤も開発されているためすぐに治療は始まった。


「いくら毒に慣らされた体だからって、自然のトイシュンは致死性の毒なのよ? ソルティア、自分の体のことなんだからもっと気にかけなさい。死にたいの?」


「……まさか。たとえそう思っていたとしてもそれは今じゃありません」


 意味深な返事にユリィはため息をつきながら点滴をいじる。

 

「ひとまず少し寝ていなさい。何かあれば声をかけて」


 ソルティアが目を瞑ると足音が遠ざかっていった。





 ガードン軍本部地下尋問室にて、ソルティアにナイフをふるった男の取り調べが行われていた。街中での暴漢扱いになるため通常であれば一般第3兵隊が尋問を行うのだが、狭間人であり魔法使いとの接触の可能性があったので一般第2兵隊が引き継ぐこととなった。ちなみに狭間人とは魔法使いが呼ぶ聡い人と同じである。


「魔法使いって存在を知っているか?」


 確認のためプラトンが男に聞く。


「ひひひっ……ひくっ、あっああ、知ってる知っているさ! あの悪魔たちがっ! 知りたくもないのにわかってしまうんだ!」


 街中で物語を語っていた優美な姿とは全く違う。歪んだ顔から焦燥感と疲労感がにじみ出ている。


「なぜソルティア・カーサスを刺したんだ」


 その質問に男はギロリとプラトンを睨んだ。


「気味の悪い魔法使いだからさァッ! 人の皮を被った化け物たちを殺すンんだ! 化け物は化け物同士殺し合えばいいんだ。だから、俺は教えてきた! 奴に見つけてきた化け物たちをなァッ!」


 テルーナ王国内でここまで魔法使いに対して嫌悪感を露にする人間はなかなか珍しい。この男は吟遊詩人ということもあって西出身ではないのかもしれない。

男が興奮しだしたので近くに待機していた隊員が椅子に抑えつけた。


「奴っていうのはいったい誰だ?」


 少し落ち着いた頃合いを見計らって尋問の続きをする。


「奴も魔法使いさ。だが雰囲気が他の奴らとは違っていた……。あいつが言ったんだ、魔法使いを本来の形に戻せるのは、救いを与えられるのは、自分だけだって」


「まさか……」


 “魔法使いを救える存在”

 トロック襲撃事件で遭遇したゼオと名乗る魔法使い。奴が言ったこととほぼ同義の言葉だ。プラトンはこの吟遊詩人の男と接触していた魔法使いがゼオだと確信した。


(つまり、ゼオが魔法使いを探し回っている……? それにこいつの特殊体質を利用したってわけか)


 プラトンが頭の中で尋問内容をまとめていると尋問室の扉を叩く音が聞こえた。


「アリサーです」


「入れ」


 アリサー隊員が短く失礼しますと言って入ってきた。


「どうした、何か用か?」


「特殊部隊の隊長が呼んでいます。ここは交代するので隊長室へ向かってください」


「ああー、めんどくせぇ。訓練員配属についてだなきっと。了解、それじゃ後頼むわ」


 プラトンが尋問室から出て行ってからすぐにアリサーは男の近くに待機していた隊員たちも外へ出るよう指示した。今、尋問室にいるのはアリサーと吟遊詩人の男だけだ。



「お前が語っていた物語はどこで聞いたものだ」


 プラトンが出て行ってからずっと床を見つめていた男が唐突な質問に顔をあげた。


「んあ? そんなの……あ、れぇ? ははッ! 黒い髪! あの化け物の近くにいる黒髪の男……。もしかしてその面の下には紅い瞳がグハァッ」


 最後まで言い切る前にアリサーは男の鳩尾を殴った。男はむせながらもにやにやした気味の悪い顔をやめない。


「ゴホゴホッ、ンクッ、はは! あの魔法使いが言っていたのさ! ハァハァッ、この物語を話せば面白いものが釣れるってなァ!」


「…………はあ」


 アリサーは剣を鞘から抜いて男の首にあてた。脅しではなく本気で首を切り落とすつもりだ。今までにない緊張が男を駆け巡る。


「他に知っていることを全て話せ」


「しっ、しらねえよ! 俺は見つけた魔法使いを奴に教えてただけさ! 最後に会ったのも1週間も前だ。……そっ、そういえば、なぜか機嫌が良さそうだった。子供が新しい玩具を見つけたようなそんな感じだったな」


「……」


 それを聞いたアリサーは無言で尋問室から出ていった。

 翌日の朝、牢の中で吟遊詩人の男が死体で発見されたのだった。





「特殊部隊のクソ隊長まじで頭おかしいだろ。なんて言って説得すんだよ」


 一般第2兵隊中隊長室ではプラトンが頭を抱えていた。その姿を気の毒そうな目でトスは見る。


「訓練員の実践に魔法使いの登用ですか……。なかなか過激な発想ですよね」


「収容してる魔法使いも数人参加させるってまじで狂気の沙汰だぞ。戦力を増やして次の山脈調査を少しでも早めたいってことだな。はあ~~……ユリィに頼めねえのか?」


 罪を犯した魔法使いたちを参加させるぐらいなら、医師で魔法使いのユリィに頼んだ方が良いに決まっている。しかしそれを聞いてトスは頭を横にふった。


「手先は器用なくせに魔法のコントロールは下手なんですよ。練習相手になって何度死にかけたことか……」


 トスは遠い目をする。


「ああ……なるほど。よく知ってるな、さすが幼馴染なだけある」


「まあ、そうですね」


 プラトンの言葉にトスは苦笑した。


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