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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第18-2話 疑念


 結局、夢の書の転移先はわからなかった。

 なぜなら魔封じによって魔法を使えない状態で捕獲したナンバー11が自ら命を絶ったからだ。そしてナンバー11が死亡したことにより簡易式転移魔法陣が描かれた紙があっという間に炎で燃えてしまった。おそらくもとからそのように仕組んでおり、夢の書を目的の場所に転移させたら自殺するつもりだったのだろう。


 だとしても、情報が漏れないようにとあのように自分の命を容易く絶ったことに隊員たちは驚きを隠せないでいた。それほどまでにゼオという魔法使いは他者を魅了する何かがあるのか。



 ちなみに、王太子リディノアとオルセイン帝国宰相の息子イルシットはテルーナ王宮から迎えが来た。隊員は思いもよらない人物との遭遇に慌てていたがそこはさすが鍛え抜かれたガードン軍だ。あとからきたプラトンの指示のもと適切な対応をした。


 ソルティアは王太子リディノアにしつこくガードン軍との繋がりを聞かれていたが、そのたびに理由をつけて断っていた。しかし、そこで引くリディノアではなかった。最終的には王太子としての命令でソルティアの口を割らせたのだ。その光景をご愁傷様という目でイルシットが見ていたことに二人は気づいていない。




「これではっきりとしたな。ゼオという魔法使いはナンバー11を駒として使ってこの首都で何か企んでるってわけだ。俺たちがそれに気づいたのはまず、香水店トールの香水。次にストリリン女学校での夢の書。目的はいったいなんだ……?」


 ストリリン女学校での一件が終わり、深夜1時過ぎガードン軍の会議室では最近の事件を整理するべく会議が行われていた。ナンバー11をパーティー会場で拘束した後、プラトンが派遣した一般第2兵隊員10名が到着し順々に倒れた人々は病院へ運ばれていったのだ。



 さきほど、病院に運ばれた人たちが意識を取り戻し始めたと報告が入った。しかし、これにはソルティアが大いに貢献している。夢の書の魔法を自身の魔力ではじき返せると身をもって証明したソルティアが病院に運ばれる前に夢の書の魔法に干渉したからだ。これにより、夢の書の”夢”という魔法空間にいた人々の意識を覚醒させた。あとは個々で目覚めるスピードは異なる。



 プラトンの質問にユニアスが自分の考えを述べる。


「最初にゼオと名乗る魔法使いに遭遇したとき、”自分は魔法使いを救える存在だ”と言っていたのが気にかかります。それに、これまでの事件は何か別の目的を達成させるための過程でしかないように感じますね。これで終わりではないと考えます」


「それには俺も同意見だ。奴はまだ何かやろうと企んでいる気がする。規模がこの首都ガランドなのか、王国全体なのか……。ちっくしょう、情報が少なすぎるッ!ナンバー11の自殺はイタイな」


 プラトンは髪の毛をガシガシと掻く。

 それまで珍しく黙って聞いていたビアンナがソルティアへ話を振った。


「魔法使いとしての意見はどうなのかしらん?」


 ソルティアは素直に面倒くさいなぁと感じていた。

 どう考えても薬師の自分がこんな会議に出ているのはおかしい。あくまで、ソルティアの善意(・・)で夢の書の調査を引き受けストリリン女学校まで潜入したのだから、少しは休ませてほしいと心の中で思っていた。だが、ガードン軍はもとよりソルティアを”薬師”としてではなく”魔法使いの協力者”的な意味合いで軍に引き入れたのだろうなと薄々感じていたので、思ったままを飾らずに意見する。


「ユニアス隊員の言った通りだと思います。付け加えるならば、この首都もしくはテルーナ王国単位ではないかと。おそらく、他の国も巻き込んでの大規模なものでしょう」


「なに?」


 プラトンはまさかという風に聞き返す。


「人間に魔力を感じ取ることはできないでしょうからわからないと思いますが、あの魔法使いの魔力は異常です。それでいて洗練されている。これほどの魔法使いはそうそういません。そんな魔法使いが自分の手ではなく他の者を利用して綿密に細々(こまごま)やっているのですから、もっと大規模なもの。……いえ、もしかすると”国”という単位で考えていないのかも――」


 そこで不意にソルティアの動きが止まった。



『――――君が必要だ』


 何かが頭の中を掠めた。


「…ぇ……?」


 金色に輝く瞳を持つ魔法使いがこちらに手を差し出している。

 記憶にない映像が、声が、流れていく。


『その魔力がきっとリーンを呼んでくれる。だから―――』


 場所は移り変わって辺り一面血の海。

 蒼い炎が舞い上がっている。


 視界がぼやける。

 平衡感覚がなくなっていく。


『あはははは! 最高傑作だっ! ああ、最高だよ! 君のおかげでリーンの樹が現れてくれたよ!』


 体が震える。

 呼吸が浅くなる。


『もっとだ! もっと! 魔力を使え! 狂ってしまえ! お前は魔力のための媒体! 躊躇するな! あははははは!』


 耳障りなこの声が聞きたくなくて、両手で耳を覆う。

 髪の毛が乱れるのも構わず大きく(かぶり)を振る。



『―――リーンはもうすぐ目覚める』



「やだッ、やめ……てッ……!」



 ソルティアの様子がおかしいことにこの場の全員が気づいた。

 プラトンは椅子から立ち上がる。


「どうしたんだ、嬢ちゃん……?」


 その声に答える余裕がないのか、そもそも聞こえていないのかソルティアは浅い呼吸を繰り返すのみ。


「おいっ! 大丈夫か!? ……トス! ユリィを呼べ!」


「はいっ!」


 トスが医師で魔法使いのユリィを呼びに会議室から出ていき、すぐにユニアスとネルはソルティアへ駆け寄る。そんな光景をアリサーはいつでも剣を抜ける状態で静かに見ていたのだった。



◇◇



「精神的なものね。確かソルティアは6年間の記憶がないんでしょ。記憶を思い出そうとしたときに頭が混乱してこんな状態になるひとが稀にいるの。おそらくそれ」


 ユリィが来てソルティアの状態は一旦落ち着いた。今は意識もはっきりとしているが混乱から抜け切れていないのか口を開こうとしない。


「ソルティア、気分はどう?」


「……」


 ユリィの問いかけには答えず、ソルティアは両手で顔を覆う。手の隙間から顔をしかめているのが窺える。それをユニアスは心配そうに見ているが、今自分に何かできるわけではないためまるで自分が苦しいかのように辛そうな顔をする。


 そんな様子を一瞥してユリィはため息をついた。


「これは医師としての判断よ。会議は終了させて皆休みなさい。ソルティアは無理に寝ようとしなくてもいいから、ひとまず心を落ち着かせなさい。魔力が乱れっぱなしよ、見てて危なっかしい。……はい、解散!」


 ユリィはパン!と手を叩くとソルティアを支えながら会議室から出て行った。



「魔法使いだから大丈夫だと思ってちと働かせすぎたか? 妙に大人びてるからつい17歳ってのを忘れちまうな……」


 プラトンは渋い顔をして呟く。


「あら~ん? じゃあ、私が制服を着てストリリン女学校に潜入すればよかったかしらぁ~?」


「ふざけんなっ! 目が潰れるわっ! つーか年を考えろ、年を!」


 プラトンとビアンナの何とも言えない会話で今回の会議は終了となった。


お読みいただきありがとうございます♪

前回の更新から少し空いてしまってすみません…。

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