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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
29/69

第15話 研究班と書いてイカレ野郎共と読む


  ガードン軍には様々な開発や実験をする部署があり、それを研究班と呼ぶ。


  研究員たちは他の隊員たちに変人扱いされているが本人たちは特に気にすることなく、様々なものの開発や実験、解析に命を懸けている。また、個々に得意分野が異なるため、常に別の考えや視点を持つ者同士の衝突が絶えない。しかし、これは悪いことではない。研究開発において多様性が生まれるのだ。


  偏った考えを持つ者が集まったとしてもその偏りが別の方向を向いていれば、結局は丁度良いバランスとなる。そうやってガードン軍研究班は成り立っていた。




「きゅーけー、きゅーけー!」

 

  茶髪で小柄な男性が白衣を脱ぎ棄て共同研究室を出ていく。 他の研究員たちはそれに何の関心も示さず、まるで世界には自分しかいないかのように目の前の研究に没頭している。

 

 向かう先は特殊部隊専属の医師、ユリィがいる診察室だ。ツカツカと診察室の前まで行くと中から話し声がうっすらと聞こえてくる。



「……えなぁ……いかげ……め……ろよ!」


「…まれ…、……さい……」




  因みに、今は夜の23時半過ぎ。

  診察室の扉には”入るな危険”という札がぶら下がっている。 もちろんこの時間では診察は行っておらず、完全なるユリィの個人的研究の時間だ。つまり、絶対に邪魔されたくない時間というわけで、この時間帯にユリィ以外の人間が部屋の中にいるのは珍しい。


 茶髪で小柄な男は”入るな危険”という札を完全に無視して勢いよく扉を開けた。


「ちーすっ!ユリィさん!今日もご機嫌麗しゅう~!いつ見てもお美しい~~」


  右手を挙げて満面の笑みで診察室に入ると、


「「……」」


 中にいたユリィともう一人は突然の乱入者に動きが止まった。


「あれっ、トス隊員じゃないっすか!」



  こんな時間にユリィと何やら言い合っていたのは一般第2兵隊のトス隊員であった。トスは診察用のベッドに足を組んで腰かけ、近くの椅子にはうんざりとした顔のユリィがトスに背を向けて座っている。


「……マレス・コルッテか?こんな時間に何の用だ?」


  少し不機嫌そうなトスが眉を寄せてマレスに聞く。


「その言葉そのままお返ししまっすよ~、トス隊員。俺はぁ……うーん、そうっすね、夜這いっす!夜這い!」


「……」


「……止めとけ、食い殺されるか研究のサンプルにされるかの二択だぞ」


 マレスはちぇっと口をとがらせつつ、先ほどからユリィとトスの間に広がる微妙な空気感に首を捻らす。


「にしてもまじでトス隊員はどうしたんっすか?診察ではないっすよね?」


 トスは渋い顔をしつつ、ため息を吐く。


「別に、何でもないから気にするな」


  曖昧な返事になんとなくこれ以上は聞くな、という意味が込められている気がしてマレスは深く追求することはやめた。


  そして、本題に入る。


「ユリィさん!また血を貰ってもいいっすか!次は髪の毛とセットで~」


「嫌」


「即答!早いっす~!魔法使いのサンプルはなかなか手に入らないんすよー!人助けだと思ってお願いしますよ~!収容されてる奴らよりユリィさんの方が魔力の質高いじゃないっすか~~~!おーねーがーいっすー!」


 まるで子供のようにジタバタと暴れだすマレス。ユリィはそれを無視して手元にあったカップに口をつける。


「マレスの研究は確か、生物に含まれる魔力の抽出についてだったか?一体それが軍にとって何の……いや、やっぱりいい。すまん何でもない。お前らは話し出すと長いからいい」


  トスはマレスがキラキラした目を向けてきたので途中で話をやめた。


  研究員たちは自分の研究に対する情熱が凄まじい。

  そのため人に話すと止まらなくなるのだ。


 これも研究者の性というやつなのだろうとトスはユリィをちらっと見つつ思う。そこでふと、何もない空間をぼけっと見ていたユリィが口を開いた。


「……なら、私よりも濃密な魔力を持った魔法使いを紹介してあげようか?」


「えっ!?いいんすか!?ぜひぜひ!お願いしまっす!」


 トスはいったい誰のことだろうと考える。ユリィの交友関係は粗方把握しているが、魔法使い同士の繋がりまではさすがに知らない。


「今はちょっと仕事に行ってて本部にいないんだけど、そのうち戻ってくるわよ。薬草とかに詳しいから研究の話も一緒にできるんじゃない?」


「……ん?」


 トスは藍色の髪をした色白のある少女を思い浮かべた。


(いや、え?……まさかな。本人のいないところでそんな人身売買みたいなことしない、よな?)


  目を細めてユリィを見つめるが、ユリィはしれっとその視線を無視した。


「おお!いいっすねそれ!期待大っすー!てか、そんなやつこの本部にいましたっけ?新しく魔法使いでも収容したんっすか?」


「ニュアンスとしては合ってる、かしら? 新しく決まった特殊部隊専属の薬師よ」


(売った……!)


  トスは額を手で押さえる。まさかの予想が当たってしまった。やはり、ユリィが言っているのはソルティア・カーサスのことだ。


「うひょー!まじっすか!ここ最近ずっと、魔力干渉防止の魔法具解析に追われてて全然知らなかったっす!」


「一応、言っておくけど今までみたく採血した血液を体内に取り入れようとしないことね。死ぬわよ」


「はっ!? マレス、お前そんなことしてたのか!? 自殺願望でも?」


「違うっすよ!魔力中毒について詳しいことを知りたかったから試しに自分を実験体として使ってただけっす!言っときますけど俺、魔力耐性はトス隊員と同じくらいっすからね」


「それは驚きだ……」


  トスは心の中で、さすがはイカレ野郎…とつぶやいた。




 ガードン軍に入るには、誰一人例外なく魔力耐性の検査を受ける必要がある。 測定方法は”妖精の花”という魔力を養分として咲く花に、血液を垂らす。 花の枯れ具合で魔力耐性の度合いを測るのだ。


 ちなみに、”妖精の花”の管理はユリィがやっていたが、ソルティアが本部に滞在するようになって、その役割は自動的にソルティアに替わった。


 そして隊員はその測定結果で配属先が決まる。 研究員たちは仕事上、魔力に触れることが多いためそれなりの魔力耐性が要求される。よって、どんなにすぐれた研究者でも魔力耐性が全くなければガードン軍の研究班に入ることはできない。



 マレスは興味津々という風にソルティアのことについて聞く。


「その薬師はそんなに濃密な魔力なんっすか? でもまあ、ユニアス隊員ならさすがに耐えれるっすよね?」


 北からの派遣隊員である特殊部隊のユニアス隊員は魔力耐性においてトップクラスだ。 戦闘中に魔法攻撃や魔力塊が体に命中しても涼しい顔をしている。


「ぎりぎり」


「……へ? えっと、確かユニアス隊員って妖精の花を1秒ぐらいで枯らしたって聞いたんすけど……」


  特殊部隊員に求められる魔力耐性の基準は10秒以内で花を枯らすこと。普通は妖精の花を枯らすことなどできないため、一般兵隊の基準は花に何かしらの変化を与えればそれで合格。特殊部隊のサポートをする一般第2兵隊と研究班は花を萎ませられたら合格となる。


  ソルティアの魔力に関するユリィの爆弾発言にトスは口を挟まず静かに驚く。


「アリサーくらいじゃないかしら、彼女の魔力を受け止められるの」


「え、アリサー隊員って魔力耐性どんくらいっすか?ユニアス隊員と同じくらいじゃないんっすか?」



「粉々よ」


「粉々?」



 マレスはユリィの言った言葉の意味が理解できずに復唱した。


「だから、アリサーの血液を吸収した瞬間、妖精の花が粉々に散ったのよ」


「「……」」


  つまり、測定不能ということだ。

  トスとマレスは押し黙る。



「ソルティアにちょっかいかけるならアリサーをストッパーとしてそばにおくことね。私にはあの子、手に負えないからよろしく」


 そう言ってユリィは立ち上がり、着ていた白衣を脱ぎ始めた。


「うひょー!アリサー隊員の血液ももらってくるっす!ソルティアさんの魔力も一緒に研究するっす!やべー!わくわくして今日は眠れねえっすー!」


  驚きから立ち直ったマレスは小躍りしながら自分の研究室へと戻っていったのだった。



お読みいただきありがとうございます!

2019.10.5で初投稿から1か月です。

今後もよろしくお願いします(*^^)v

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