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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第14-2話 夢の書


 教室がある木造の校舎とは別に、大理石でできた建物が一つ。その建物の周りにはピンク色のカトレアが咲き誇っていた。大きくはっきりとした花弁が夕日に照らされてオレンジ色っぽくも見える。


 花言葉は『魔力』

 魔法使いが連絡用媒体に使う最も適した花だ。




 ソルティアは今その建物内にある図書室にいた。歴史書やマナーに関する様々な本がたくさんある。

もっと専門的なものまであり、本の貴重さで言えば首都のガランド大図書館に匹敵するのではないだろうか。暇つぶしには最高の空間で、ソルティアはつまらない授業などさぼってここにいたいと本気で思った。


 図書室に入って10分ぐらいは好奇心に負けてあちこち見て回っていたが、司書のような人間をまだ見ていない。入口のところに本は持ち出し禁止と書かれた紙が置かれているだけで、ここの管理をする人間は常に在室しているわけではないようだ。



「呆気ないなぁ」



 ソルティアの手には1冊の本があった。全体的に深い紫色で表紙には金字で『夢の書』と書いてある。一見おとぎ話か何かの小説を思わせるタイトルだが、これは件の呪いの本だ。この本から明らかに魔法使いの魔力が感じ取れるのだ。そのため探すのにそれほど苦労はしなかった。


 周りに人間がいないことを確かめて本を開く。



 ぱらぱらぱら…………

 ぱらぱら………

 ぱら……



「……何も起こらない。何かしらの条件が揃っていないの?」



 先ほどから魔力を流して反応を見ているが特にこれといった魔法は作用しない。本の内容的には植物についての研究結果が記されていた。少し興味深いことといえば、植物で睡眠の質を変化させることができるという記載だろうか。ここにはカトレアの花が睡眠の質を上げるのに最も適していると記されている。


「あ」


 そこでふとソルティアは気づく。この図書室の周りにはたくさんのカトレアが咲いていた。何人もの女学生の被害を出した理由がようやくわかった。全て必要なものが偶然か、必然か、ここに揃っていたのだ。



 夢の書、カトレアの花。



 ソルティアは人目がないのをいいことに、夢の書をカトレアのもとまで持ち出した。どうせこの本は回収しなければいけないのだ。仕組みがわかったらあとは眠りについた女学生たちをもとに戻せばいいだけ。


 さっさと仕事を終わらせてこの女学院から脱出しなければ…!そんな思いを胸にいつになく、ソルティアは真剣に夢の書の仕組みを調べるために行動をする。ソルティアはカトレアの花を一輪摘んで本を開いた状態のまま、魔力を流し込んだ。



 そして……


 意識がなくなった。




◇◇◇




 大きな豪邸。

 青々とした芝生に、手の行き届いた樹木たち。


『ルティ、見てごらん。君の好きな花を庭師のおじさんに植えてもらったんだ。どうかな?』


 大きな花壇には色とりどりのガーベラが咲いている。


『わあ!すごーい!きれい!』


 それと隣り合うように、真ん中が黄色くて花弁が白い小ぶりな可愛らしい花が咲いているのを見つけた。


『ねえねえ、あの白いお花はなあに?』


『ああ、あれはカモミールという花だよ。僕が好きな花なんだ』


『カモミール……』


 黒髪の少年に手を引かれカモミールに近づく。


『これはね、薬草としても使われるんだ。そうだ!今夜の夕食のあとにカモミールのハーブティーを飲もうか。ルティもきっと気に入るよ』


『うん!』


 どこかで少年を呼ぶ声が聞こえる。



『坊ちゃまー!どこですー!』



 不安げに黒髪の少年の袖を引いた。


『ん?大丈夫、今日は授業を休んで一緒にいるよ。僕がそばにいれば安心して魔法を使えるだろう?』


『……うん。でも、痛くない?』


『まさか!全然痛くないよ。僕は魔力耐性がとても強いから。魔法使いだったご先祖様に感謝しなきゃね』


 そう言って優しく微笑む。


『ずっと一緒にいてくれるよね?お母さまみたいにいなくならないよね?』


 背の高い黒髪の少年はそっと抱きしめて囁く。


『もちろん。ルティは僕のお嫁さんだよ?まだよくわからないだろうけど、夫婦っていうのは死ぬまでずーっと一緒なんだよ。ルティは家で好きなことをして、僕は美味しいお菓子でも買って家に帰る。そんな普通の暮らしがしたいね』


『うん!ずっと一緒ならそれでいい!魔法が言うこときかなくなったら私の名前を呼んでね。そしたらもどってこれる気がするの』


『わかった』


 紅い瞳を持つ背の高い黒髪の少年は優しく額にキスをする。すると、先ほどより近くで少年を呼ぶ声が聞こえてきた。



『坊ちゃまー!坊ちゃまー!』



 紅い瞳を持つ背の高い黒髪の少年はため息をつく。


『はあ、”坊ちゃま”はやめてほしいな。僕はもう12歳なのに……』


『ふふっ、じいやが言ってたよ。17さいまではみんな子供なんだって』


『うわあ、じいやそんなこと言ったのか。でも6歳のルティはもう立派なレディだね。とっても賢くて綺麗だから。学院に入ったら悪い虫が寄ってきそうで怖いなあ』


『わるいむし?』


『そう、僕以外の男が言い寄っても無視するんだよ?でなきゃ、そいつを殺しちゃ』


『物騒なことを言わんでください、坊ちゃま。教育上宜しくございませんぞ』


 少年のすぐ後ろに背筋の良く伸びたじいやが立っていた。


『うわっ、びっくりした!じいや、話しかけるときはもっとタイミングを図ってくれないと困るじゃないか!』


『今のがベストタイミングだったと思いますぞ』


『はあ……。それとさ、”坊ちゃま”っていうのもうやめてくれない?恥ずかしい』


『おお、それは失礼いたしました』


 じいやは恭しくお辞儀をして少年の名前を口にする。


『エメルート様』


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