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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第11-2話 向き不向き


「では、ご指導よろしくお願いします」


 ソルティアは普段人に見せることのない綺麗な笑顔をバンデル隊員に向ける。どちらの味方をするわけでもなく、周りの隊員はこの状況を静かに見ていた。


「はっ!ハンデとしてこっちは訓練用の木刀を使ってやる。お前は普段武器など持っていないだろうから今回も現実に忠実で何も持たずにやることだな。なに、心配するな。手加減はするさ」


 訓練をするつもりなどなく、はじめからこちらをいたぶるのが目的だとバレバレだ。


「はあ、手加減は不要です。たかが威勢だけの良い魔狩りに手加減なんてされたら夢見が悪いわ」


「……あ?」


「”現実に忠実”?なら、そちらも普段通り魔晶石のついたご自慢の剣を使いなさい。負けたとき木刀を理由に駄々をこねられても面倒だわ」


「ぷっ、駄々をこねるって……!」


 バンデル隊員が駄々をこねる姿を想像してしまったネルが笑いを堪えられず肩を震わせている。バンデル隊員はソルティアの言葉で完全に怒りに染まったようで、木刀を投げ捨て普段使用している剣を持ちだした。その行為にはさすがに数人の隊員が眉を寄せるが、魔法使いに良い印象を持っていないせいか誰も止めに入らない。


「誰が負けるだって?魔法に頼りきった害虫が粋がるなよっ!」


 そう言うのと同時にバンデルはソルティアに向かって突っ込んでくる。ソルティアは今、白くてシンプルな足まで隠れるロング丈のワンピースを着ている。そのため、動き回るのには少々面倒な格好だ。


「おらっ!」


 バンデルはソルティアの脇腹を狙って剣を振るう。ソルティアは薄く笑うと右手を軽く振って魔法で風を操り剣を弾いた。


「なっ!」


 魔封じをつけているにも関わらず魔法を使えるソルティアに驚くバンデル。だがここで体の動きを止めるほど馬鹿ではないバンデルはすぐさま後ろに飛び退き、ソルティアとの距離を取る。


 ソルティアの瞳が銀色に輝いている。

 それを忌々しく睨むバンデル。


「おい、お前。魔封じはどうした。ここではつけるのが義務だ。俺は半端なことはしない主義なんでな、監獄にぶち込むなんてぬるいことはしない。抵抗するようなら今ここで殺してやってもいいんだぞ。害虫が死んで喜ぶ奴はいても悲しむ奴なんていねえんだよ。安心して死ね」


 どうやらバンデルの中では魔封じをしていない魔法使いに認定されたらしい。しかも呼び方が害虫からお前に変わった。今の一撃を防いだことで少し格上げか?などとソルティアは呑気に考える。


「よそ見してんじゃねえッ!」


 よそ見してるとわかってる相手に物騒なものを振り回すな。

 というか訓練という建前がすでにどこかへ行っている。


 ソルティアは心の中でつっこみを入れ、呆れた目で前を見据える。先ほどよりは少し剣に重みの乗った斬撃を様々な角度で繰り出すバンデル。とても規則正しく正確な太刀筋だ。


 そう、まるでお手本のような。

 さぞや訓練の教官に褒められたことだろう。


「魔法使いを相手に闘ったことがないの?戦闘ごっこなら別でやってもらえるかしら」


 ソルティアは一歩も動かず同じように右手を動かすことで風を操ってバンデルをあしらう。バンデルは年下であろう少女に馬鹿にされ分かりやすく怒りを露わにした。

 顔が赤くなり、額には血管が浮かび上がる。剣の振り方はだんだんと力任せで荒っぽくなってきた。


「うひゃあー、ソルティアさん静かに怒ってますよねあれ!ね!?」


 ネルが隣にいるユニアスに話しかける。

 しかし、ネルの問いかけには答えずユニアスは複雑な気持ちで二人を見つめる。


(そもそもなぜ彼女がこんなところにいるんだ。わざわざここに来て好奇の目に晒される必要なんてないのに)


 ユニアスは無意識に右手を握りしめる。



 埒が明かないと思ったのかバンデルは一旦距離を取って態勢を整える。


(クソッ、何で一撃も当たらねえんだ!この俺がこんなガキに負ける訳ねえ。きっと何か細工してやがるな)


 焦りを感じ始め、怒りがピークに達する。


「ああ。それと言いそびれてましたけど私、魔封じつけてますよ?ほら」


 そう言って右側の髪の毛を持ち上げエメラルド色に輝くイヤリングを見せる。


「なっ!」


 バンデルは勿論、周りの隊員たちも驚愕した。常に魔晶石のついた剣を持ち歩いているため、見れば最高級魔晶石だとすぐにわかる。


「なっ、何か細工してるに決まってるだろ!薄汚ねえ魔法使い風情が!そっちがその気なら――」


 そう言うとバンデルは自分の親指を刃にあて、さっと切った。そして流れ落ちる血を剣に埋め込まれている魔晶石に垂らす。


「バンデル隊員ッ!」


 それを見たユニアスが弾かれたように二人の間に走り出た。急に動いたせいで傷口が開く感覚がするが今はそれどころではない。普段あまり見せることのない険しい顔でユニアスはバンデルを見る。


「それはさすがにやりすぎだよ。彼女は専属の薬師であって拘束すべき魔法使いではないんだ。落ち着いて」


 だが自分がエリートであるというプライドを傷つけられたバンデルはユニアスの言葉に聞く耳を持たない。


「だまれッ!俺に指図するなああッ!」


 バンデルは淡いオレンジ色のオーラを纏った剣を仲間であるユニアスに向けてふるう。



 ――特殊部隊員が持つ剣には2つの特徴がある。


 1つは魔法陣の書き込まれた魔晶石を埋め込んであるということ。これにより、魔物の固い表皮や魔法攻撃にも耐えられるようになっている。


 もう1つはその剣の所有者の血に魔晶石が反応して、剣が魔法のオーラを纏うこと。魔晶石に書き込まれている魔法陣には様々な種類があり、水を操れたり炎を出せたり、幻術を使えるものもある。複数の魔法陣が描かれているため、いくつかの魔法攻撃もできるようになっている。


 これを血契突破という。


 そして、魔力耐性が高い者や訓練を積んだ者は剣だけでなく自分自身に魔法のオーラを纏うことができる。それにより身体強化がなされ魔法使いと同等の戦闘が行えるようになる。




「っ――」


 ユニアスは傷口が痛むのか綺麗な顔を少し歪めながら迎え撃つために剣を構える。そして血契突破状態のバンデルの剣がユニアスに届く寸前――、



「ユニアス隊員って損な性格してますね。止めに入ってくれたこと感謝します。でも大丈夫」



 バンデルに向ける声とは違った優しい声色がユニアスの耳に届いた。すると指を鳴らす音が聞こえるのと同時にユニアスの目の前に結界が現れバンデルの剣を阻んだ。それに驚いてバンデルの動きが止まった一瞬を見逃さず、ソルティアはユニアスを後ろへ強く引く。


「さあ、魔法使いの闘いとはどんなものか教えてあげましょう!」


 ソルティアは薄い笑みを浮かべながらまるで羽が生えているかのような軽い足取りでバンデルへと突っ込んだ。


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