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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第8-2話 血と眩暈


 ソルティアはこめかみを抑えながら怪我人の治療にあたる。久しぶりに魔力の開放を行ったせいで体に負荷がかかったらしく、時折眩暈がするのだ。すでに魔力は元通りに抑えているが妙な威圧感から周りの人間が少し距離を取っているのにソルティアは気づいていない。


「ガードン軍の討伐隊と救援物資が届いた!これで一安心だ!」


 誰かがそう叫んだ。

 それと同時にガードン軍の隊員たちが病院内に入ってくる。隊員たちは着くや否や、街の一般人では手に負えなかった怪我人の救助と治療、瓦礫の撤去などを進めていく。特殊部隊員は恐らく街の外で警戒にあたっているのだろうとソルティアは推測した。

 

 そして、討伐隊到着と同時にこの街から出ていくタイミングを失った。怪我人の救護と治療が終わっても近くには魔物がいるからと、まず街から出してもらえないだろう。しかも帰る家は森の中だ。怪しすぎる。



 辺りがすっかり真っ暗になった頃ガードン軍の助けもあり、怪我人の治療と瓦礫の撤去が粗方終わった。家が壊されて寝泊まりするところがなくなってしまった人は隊員が用意したテントで夜を過ごすことになる。


 討伐隊員が集まる仮設テントでは、街のまとめ役数人も交えて会議が行われていた。


「現時点では死者284名、負傷者152名、行方不明者105名です。血の匂いにつられて他の魔物や獣が来ないように夜通し洗浄作業を8名の隊員で行う予定です。周囲の警戒はネル隊員とアリサー隊員が、中規模魔障壁結界の作成にはフェナンド隊員とユニアス隊員があたっています」


 トスは早口でプラトンに報告をした。


「結界の様子は俺もあとで見に行く」


「了解です」



「隊員さん!あの魔物はどうなったんですか!?」


 恐怖に怯えながら街のまとめ役の男が必死に問いただす。

 周りにいる数人の住民も突然の出来事に疲れ切った顔をしていた。


「街全体に結界を張っている最中だ。それに、討伐隊の中には魔物退治専門の特殊部隊員が数名いる。またケルドがきても対応できるから安心していい。それよりもなぜこの街が襲われたのか、だ」


 この街は森のすぐ近くに位置しているわけではない。

 むしろ他にもトロックより森に近い街はいくつかあるのだ。

 それなのに、なぜケルドの大群はここを目指してやってきたのか。


 考えられることは2つ。


 1つはこの街にしかないものをケルドが欲したから。

 もう1つは何者かがこの街をケルドに襲わせたかだ。


 かつて、魔法使いが魔物を使役したという記載が軍の記録にある。それを考慮しての考えだ。プラトンは街の住民に心当たりがないか聞いてみる。しかし住民たちは互いの顔を見合わせるが誰一人、口を開こうとしない。


「最近、何か街全体で今までとは違う取り組みをしているとか、森から何かとってきたとかありませんか?ほんの些細なことでもいいんです」


 トスが話しやすいように具体例をあげると、住民の一人がそういえば、と話し始めた。


「少し前、首都で発表されたトイ003という新薬をご存じですか」


「知ってるも何もそれは魔物を麻痺させるための薬で軍にのみ利用を許可されてるもんだろ?もちろん知ってるさ。なんなら、今回も持ってきてるぞ」


 トイ003とは、最近首都で発表された従来のものより10倍効き目のある魔物専用麻痺の新薬だ。


「そうです、実はトイ003の主成分となる花をこの街のはずれにあるショーン川の畔で栽培していまして……」


「……ああん?」


 それを聞いたプラトスはトスに小声で話しかける。


「おい、そんな情報俺は知らないぞ。何か聞いてるか?」


「……薬に関係することは直接研究班にいくので、もしかすると伝え忘れてるのかもしれません」


「……」


 プラトンは舌打ちをすると心の中で、仕事しろよあいつらと毒づいた。その後、住民に礼を言って帰した。



 トイ003の主成分となる花はトイシュンと呼ばれる白い花で、すでに3回の品種改良がされている。

 理由ははっきりしていないが、この地でしか栽培することができないのだ。専門家によると、地脈が関係していると推測されているらしい。特徴としては、魔力に反応して自ら溶けだし毒となる。自然に生えているトイシュンは致死性の毒だが、品種改良をしているトロックのトイシュンは体の自由を奪う麻痺毒程度になっている。



 会議が終わったプラトンとトスは結界の様子を見に行くため、テントを出た。

 5分程歩くと作業をしているユニアスを見つけ、声をかける。


「お疲れ。進捗は?」


「お疲れ様です。ちょうど書き終わるところです。あ、街の4カ所に第5級魔晶石をフェナンド隊員が置いたので、もし見かけても触らないよう住民に伝えておいて下さい」


 手を止め、にこやかな笑顔でユニアスがプラトンに答える。ユニアスは明るい青紫色で、毛先がしっかりと切りそろえられた肩まである髪を持つ線の細い男性だ。いたってまともそうでプラトンはほっと安心する。



 魔晶石とは、自然に魔力が結晶化したもので魔力の質によって階級が分けられる。


 全部で6段階あり、数字が小さいほど魔力の質が高くなる。ただ、純粋な魔力の塊である魔力樹とは違い、混ざり物が多く基本的には鉱物と一緒に発見される。今回の中規模魔障壁結界は、街の大きさとケルドの数を考慮して第5級が妥当だと判断された。

 ちなみに、魔障壁結界とは魔晶石を溶かして作られたインクで魔法陣を書くとできあがる。街中に置いた魔晶石は結界を維持する役割をもつ、いわばエネルギー源だ。



 ユニアスが魔法陣を書き上げると、街全体を囲むように金色の光が地面から現れ頭上まで一気に広がっていった。金色に輝いたのは一瞬で、すぐに透明になり目視できなくなる。


「これで完成です。フェナンド隊員もそろそろ戻ってくるかと思いますが、次はどうします?」


「ここにはトイ003の元となるトイシュンの花畑があるらしい。それを確認しに行くから一緒に来い。あとの判断はそっちに任せる。魔物に関する考察はこっちの管轄じゃないんでな」


「……それはそれは」


 トイシュンの花畑と聞いてユニアスは苦笑いを浮かべた。


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