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第7-0話 エメルと甘い香り
滑らかで柔らかく、少し力の入った強張った肩。
薬草と野花を連想させる癖のない爽やかな太陽の香りに、月の光をたっぷりと含んだ清らかで甘い香りが鼻をくすぐる。
彼女は自分がどのような存在かはっきりと理解している。
どれほどの人の命を奪ったか正しく自分自身の魂に刻んでいる。
常に最善の死は何かを考えている。
僕が彼女を理解していることに、彼女は気づいていない。
僕は一度、死んだんだ。
君が死んだあの時。
君のいない世界を目的もなく、ただただ彷徨った。
それから2年経った日、君が目覚めたとき僕は誓った。
君が死を望むなら、僕は君に死を与えると。
他の誰でもないこの僕が君を救おう。
……でもね、あの家に君がいたことは誤算だよ。
僕がどれほど驚いて、どれほど心が掻き乱されたか君はわからないだろうね。