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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第6-2話 驚きは偶然と共に


 瓜二つの顔が並ぶと美人なだけになんだか迫力がでる。

 しかも聞き間違えでなければ、目の前の女性は今”お兄ちゃん”と呼ばれていたような……。


 スタスタと店の奥からやってきた女性は、目の前の女性の頭を鷲頭髪にすると勢いよく髪を引っ張った。


「うわあ!おいセレスタ!客の前でなんてことするんだ!」


 目の前の元女性は、どうやらウィッグを被っていたらしく本来の髪が現れた。ウィッグとして被っていた髪と、色もふわふわ感も同じで短くなっただけの綺麗な髪。ソルティアは二人のやり取りに少々驚きつつ、ひとまず口を挟まずに黙っている。


「私の真似して接客なんてしないでって言ってるでしょ!お客さんが混乱しちゃうから!お兄ちゃんは大人しく調合してればいいの!」


 なるほど、この男性はよく妹セレスタに扮して接客をするらしい。

 理由はわからないが…、いや、女装が趣味なのかもしれない。


「おい、お客さん。一応言っておくが俺は女装が趣味なわけじゃないぞ。妹のセレスタがこの世で一番かわいいからな、この愛らしさを1人でも多くの人にわかってもらいたくてだな、セレスタが1人いるより2人いた方がいいと思って――」


 なるほど、女装癖があるうえにシスコン、そして変態的思考回路の持ち主らしい。


「ごめんなさい、あれのことはいないものとお考え下さい。私はこの香水店セレスタの店主セレスタです。ようこそお越しくださいました。初めての方ですよね、どのような香りをお探しですか」


 兄の珍行動にもはや慣れているのだろう。セレスタはにこやかにソルティアに話しかけてくる。


「えっと……」


 そこでふと、ソルティアは悩む。


 ここまで来たはいいが、なんと言って自分が調合した香油が売られているところを見よう。香水店など初めてなのでなんと言えばいいのかわからない。

 ソルティアが言い悩んでいると、セレスタ兄がずいっと顔を寄せてキラキラした目でソルティアの顔を覗き込んできた。


「あっ、ちょっとお兄ちゃん!」


「ほうほう、お客さんよく見ると可愛らしい顔をしてるな!セレスタの次ぐらいに。誇っていいぞ!もう少し熟せば食べブフォッ」



「それ以上言ったらその口切り裂くぞセレスト」



 ソルティアの後ろから手が伸びて、セレスタ兄の顔を正面から鷲頭髪にしている。なんとなく聞いたことがある声にハッとしてソルティアは後ろを振り返った。


 そこには、狼の頭があった。


「あら、エメルさんいらっしゃい」


 もがくセレストをぽいっと床に投げ捨てるエメル。意外と筋力があるらしい。


 エメルと家以外で会うことは初めてのため、そして偶然にも同じ時間に同じ場所で出会うなど思ってもいなかった。


「驚いた、君が首都にいるなんて」


(あら?)

(お?)


 エメルは基本、紳士的な対応をする。だが、今はセレスタへの挨拶は特にせずソルティアに話しかけた。これにセレスタとセレストは内心驚く。


「……香油のことが気になって」


「僕に言ってくれれば何でも教えたのに」


 エメルはそう言って、ソルティアが作った香油が売られている陳列棚まで案内した。そこには、月に照らされると銀色に輝くと有名な宝石を蓋にあしらった小さな小瓶が置いてあった。プレートには”銀の月”と書いてある。


「銀の月……」


 どきりとした。


 魔法を使うと瞳の色が灰色から銀色に変わるのだ。エメルの前では魔法を使っていないはずなのに、なぜ銀という単語を香油の名前にしたのか謎だ。しかし、セレスタは合点がいったという様子で説明する。


「この香油の調合者は匿名だって言ってエメルさん、教えてくれなかったんだけれど今わかったわ。あなたなのね。香油の名前はあなたの綺麗な瞳の色からとったのかしら」


 いちいち訂正するのが面倒になってきた。

 セレスタとセレストは、じっとソルティアの瞳を見つめてくる。もとよりソルティアは人付き合いが苦手だ。このように人と目を合わせることもなかなかないため、視線に耐えられなくなりさっと視線をそらした。


「あっ、つい見すぎちゃったわね。えっと、香油よね?安心して、2日前に売り出したんだけど、とっても評判がいいのよ。ここは目の肥えた常連さんばっかりなんだけど、皆さんとっても質が良いって誉めていたわ」


「そうそう、香水店セレスタの調香師の俺から見てもこの香油は逸品だな。濁りのない清らかな香りだ」


 ソルティアはほっと胸を撫でおろす。今まで薬の調合はたくさんしてきて、人にも渡してきたが香油は初めてだったため、他人がどのような反応をするのか気になっていたのだ。想像以上の高評価で少々照れる。セレスタとセレストに小さく礼を言った。香油の売れ行きも確認できたし、そろそろ帰ろうかと思っていたがなぜかセレスタに引き留められ、エメルと二人で店の2階にある客室に通された。



 長椅子にセレスト、その正面の長椅子にソルティアとなぜかエメル、一人用のソファにセレスタが座った。特に聞いてもいないが、セレストはエメルとの関係性を教えてくれた。


「たぶん勘違いしてるだろうから言うが、俺とセレスタは双子じゃないぞ。顔がそっくりな1歳違いの兄妹だ。セレスタはこの世に舞い降りた女神または天使だと覚えといてくれ」


「……はあ」


 今のは笑うところなのだろうか。それにしては目があまりにも真剣すぎる。


「で、エメルとは……仕事仲間?あっ、でも西に来る前からの付き合いだから結構長いかもな」


「西に来る前……」


 妙に引っ掛かりを覚え、聞き返す。

 だが、聞き返さなければ良かったと深く後悔した。


「私たちは西域出身ではなくて、色々あって北から来たのよ」



 ――北。


 ソルティアは鈍器で頭を殴られたような感覚に襲われた。ここでいう北とは、つまり、北の帝国オルセイン。ソルティアの全てがあった場所、そしてソルティアの手で全てを壊した血塗られた場所。


 ああ、吐き気がする。



「話途中で悪いけど、徹夜してて眠いんだ。2時間ほど仮眠がしたいから、二人は出ててもらえるかな」


 中性的でどこか落ち着く声がソルティアの耳に届くのと同時に、肩に重みを感じた。


(あら?)

(お?)


 またもやエメルの行動に驚くセレスタとセレスト。


(あのエメルさんが誰かの肩を借りるなんて)

(こいつ……)


 このままこの二人の様子を見ていたいという気持ちをなんとか抑えて、言われたとおりにセレスタとセレストは部屋から出ていく。


「え!?ちょっ……」


 ソルティアは慌てた。


 なぜこの男は自分の肩に頭を乗せて寝始めたのか。

 なぜ部屋に二人きりでいなければいけないのか。

 仮眠をしたいのなら一人の方が絶対にいいだろう。


 “なぜ”が尽きない。



 そんなソルティアをよそに、エメルは静かな吐息を立てて寝始めたのだった。


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