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The last witch ~魔法使いたちの秘密~  作者: 海森 真珠
~ 西の王国テルーナ編 ~
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第6-1話 驚きは偶然と共に


 翌日の新聞に、香水店トールでの出来事が大々的に掲載されていた。


 調香師は違法薬物使用で拘束、香水店は閉店。やはりどこにも魔力に関する記載はない。それと、大流行中であった香水”ノ・ラントゥ”の回収は大変なようだ。ちなみに、今ソルティアは首都にある宿に泊まっている。あの騒ぎが終わった頃にはすっかり暗くなっていたのだ。家に戻るのは少々面倒に感じたのと、まだ自分が作った香油を見ていない。そのため、格安の宿を見つけて泊まった。


 昨日はビアンナを含めた魔狩りの隊員たちに会わないように、さっさと香水店をあとにしたのだ。その後、プラトンが藍色の髪をした薬師を探していたことをソルティアは知らない。




 宿を出て露店で朝食を買いながら、エメルから聞いた香水店を探して歩く。


 香水店セレスタ。店主の名前がセレスタらしい。ここから歩いて1時間ほどのところにあるらしく、首都がいかに広いかがわかる。ソルティアは魔法を使えば早いのに、と項垂れつつ目的地へと向かった。




 その頃、ガードン軍本部では調香師への尋問が行われていた。

 調香師は今、真っ黒のマントも口元につけていた布も外され、顔が露わになっている。


「それではもう一度確認致します!あなたはこの首都を混乱に陥れるために香水に魔力を込め、魔力中毒を起こさせた。また、暴力事件のことも自分の魔力が原因であることを認識していた」


 調香師はこくりと頷く。


「自分の魔力には人の感情を高ぶらせる特性があることをあなたに教えたのと、魔力干渉防止の衣類を提供してきた人物がいるということ。これで全てですね?」


 ドルマンは最終確認をとる。


「……ええ、そうよ。あの人は私たち魔法使いの希望なの!だからっ、早くこの忌々しいものを外してっ!あの人に会わなくちゃっ!」


 調香師は激しく抵抗して自分の手足と首につけられた魔力封じを取ろうとする。すかさずビアンナは側に控えていた兵に合図をして、調香師を牢へと連れて行かせた。


「あの調香師は捨て駒ってところかしらね~。共犯者に随分と心酔してるみたいだったけど、相手のこと何も知らないじゃない。つっかえないわねえ~」


 ビアンナはつまらなそうに自分の髪の毛をくるくると指で弄りながら言う。


「共犯者の魔法使いは結構な知識と技術があるみてーだな。魔力干渉防止なんて技術初めて聞いたぞ」


 トスがまとめた報告書に目を通していたプラトン。

 プラトン率いる一般第2兵隊は特殊部隊との合同調査が主な仕事だが、実態は特殊部隊が派手に仕事をしたあとの収拾だ。そのため、魔法についての知識も自然と増えていく。それでも、今回使用された他人からの魔力探知を防止する技術はガードン軍全体でも初めてのものだった。


 研究班の変人どもが発狂しながら解析をしているだろうなとプラトンはうんざりする。


「私もよー。西の魔法使いたちは比較的温厚だと思ってたんだけどな~?ま、ひとまずは研究班の解析待ちってとこかしらね。私は次の山脈調査まで首都にいるからよろしくプラトン!」


 ビアンナはプラトンにウィンクをするが全力で叩き落とされた。ビアンナと関わるたびにやつれていくプラトンを部下たちはハラハラしながら見ている。


「そーいや、あのお面野郎はどーした。朝は見かけた気がするが」


 この事件担当であり、調香師確保者のアリサーがなぜかこの場にいない。


「アリサー君なら、午後から別のお仕事で半休とってたわよん」


「ハン…キュウ…、ハンキュウ、はんきゅう。……半休!?」


 プラトンは自分も明日あたり絶対に半休をとってやると、固く心に決めたのだった。





 香水店セレスタ。


 今、ソルティアは目的地である香水店セレスタ前にいた。

 香水店トールとは違い、常連客でもなければ足を踏みいるのを躊躇してしまう雰囲気の店だ。だが、入り口の扉にはステンドガラスがついており自分はこちらの方が綺麗で好きだなと思う。


 扉を開けると、目の前にあるものを見て一瞬呆けてしまった。



「リーンの樹……」


「あら、それを知ってるの?」


 店の奥から店員が出てきた。薄い紫色のふわふわな髪をしていて、くっきりとした丸い目がとても印象的だ。年齢は25,6だろうか。女性にしては低めな声ではあるが、中性的なのであまり気にならない。


「これは親木から折れて落ちてしまった枝なのだけれどね。普通、これを見ても綺麗な鑑賞品としか認識されないし、たまに知っているお客さんもいるけれど、みんな”魔力樹”と呼ぶわ。お嬢さんは昔の呼び名を知っているのね」


 しまった!とソルティアは焦る。

 思わずリーンの樹と口走ってしまったが、これは主に魔法使いが使う呼び名であったのだ。


 魔力樹とは、その名の通り魔力の塊がとても大きな樹のような形をしているもので、実体はない。どんな不思議なことでも起こしてしまう奇跡の樹として有名だが、どこでどのタイミングで実体を現すのか未だ不明なのだ。人間の前に現れるよりも魔法使いの前に現れる方が多いことから、魔力に反応しているのではないかと推測されている。様々な魔法使いが研究を重ねているが、未だ魔力樹の全貌はわからない。これが解明されれば、魔法使いの成り立ちもわかるかもしれないといわれている。


 ちなみに、リーンとは昔の言葉で奇跡を意味する。



 咄嗟にソルティアは本で読んだことがあると言った。


「童話とかでありますよね。魔力樹から落ちた葉1枚で不治の病が治ったとか、枝から作った木製のはずの盾がどんな鋼鉄の剣も通さなかったとか。読書が趣味で、専門書のようなものでリーンの樹という記述を見たことがあります」


 あながち間違ってはいない。

 本になる前に、実際に魔力樹を見た運の良い魔法使いたちに会って直接話を聞いただけだ。本で読むか、実際に聞くか、順番の違いだ。大した違いではない。


「なるほど、そうなのね。この枝は私の曾祖母の代からあるものらしいのだけれど、まだ輝きを失っていないのよ」


 魔力樹の枝は周りを温かく灯すような、優しい輝きをしている。時折、ろうそくの炎が揺らめくように輝きが揺れるときがある。これは、魔力がこの枝からまだ霧散していないということだ。


 つまりこの枝は、魔力によってまだ生きている。


 枝がこのように実体化しているということは、何らかの奇跡が起きているはずだ。この女性の曾祖母の代だとしても、おそらく語り継がれているだろう。少々気になる。


「この枝が起こしたき――」



「お兄ちゃんっ!大人しく調合してると思ったらこんなところにいたのね!?」


 ソルティアの声を遮って、店の奥からまた別の女性が出てきた。


 しかし、そこにいたのは今まで話していた女性と瓜二つの顔だった。


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