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7.祝祭1

 祝祭の日、俺は朝から準備に駆り出された。セレネもリアンサスもいっしょだった。レアさんたちが準備する料理の下ごしらえを手伝った。今日は、スープと黒パン以外に豊富に食べ物がありそうで楽しみだ。珍しい魔獣の解体ショーもあるらしい。


 下ごしらえが終わったら、夜の祝祭に使う灯りの準備だった。ヒュペリオンたちの魔術師団が警備や日頃の仕事をしながら灯りの担当もしているので人手が足りないからと声をかけられた。


 王宮の前の広場に羊皮紙を筒にして木の台を付けたものを設置していった。


 王宮といっても俺やレアさんの家が数軒分の広さで、住民の集会所かと思うほどシンプルな作りの平屋の木造の建物だ。


 広場は何百人でも余裕で入るほど広いが何もない。俺たちが置いた羊皮紙の筒だけだ。


「中は何も入っていないけれど、どうやって灯りをつけるの?」


 俺は近くのリアンサスに聞いたつもりで言ったが、セレネが先に答えた。


「去年のことを覚えていないの?夜まで楽しみにしていてね。すごくきれいだから」


「ヘリオスはこの前の熱で寝込んでから昔の記憶があいまいになっているってヒュペリオンさんから聞いただろ」


「魔法の練習のときも話し方が違うし私、寂しかったんだから」


 リアンサスは苦笑しながらセレネの頭をなでる。


 熱で寝込む前のヘリオスの記憶がどんどん濃くなってきて、日頃の態度と目覚めてからの俺の態度の違いを認識した。


「ごめんね」

 俺はセレネに謝った。


「気にしなくていいよ。それよりも今日の夜はアキレア王女と一緒なんだろ。俺たちも本当に一緒でいいのか?」

 リアンサスは、無表情を決め込もうとしているけれど嬉しさが隠しきれていない。


「お兄ちゃんはアキレア王女に憧れているから勉強をすっごく頑張って学園入学の推薦をもらったんだよ。勉強頑張っている間、家の手伝いは私一人でしてたから大変だったけど」

「一人じゃなくて、ヘリオスも手伝ってくれていただろ?ごめんセレネ。お陰で推薦もらえたから魔力持ちじゃなくても二人と一緒に学園に入ることが出来るし」


「いいよ。ヘリオスだけじゃなくてお兄ちゃんもいっしょだと安心だから。それにお兄ちゃんは王配候補として頑張ってくれないとね」


「お前はヘリオスが」「言わないで!お兄ちゃん!」

 セレネが怒って顔が真っ赤になっている。


 リアンサスが言いかけたことも気になったけれど王配候補?王女の婿候補ってことか。王女は可愛くて心根も優しいみたいだけれど、この国で王族に入るって大変だろうな。


 俺も人の役に立ちたいと思う。けれど、多くの人を守る責任がともなうって大変だろうな。


 話ながら並んで羊皮紙の筒を置いていたら、いつの間にか終わっていた。




 夕方、アキレア王女がヒュペリオンたちを護衛につけてやってきた。魔獣の解体ショーが一番見やすい場所が準備されていた。


 俺とリアンサスはアキレア王女をはさんで座った。セレネは俺の隣に来た。

 俺たちがショーを見やすいようにヒュペリオンたちは後ろで警戒にあたっている。


「今年はカトブレパスが見られるなんて。ありがとうございます。ヒュペリオン魔法師団長」

アキレア王女が言った。


「運がよかっただけです」

ヒュペリオンが答える。


「ヒュペリオンが魔法師団長になってから魔獣の被害が減ったと聞いています。これからも皆の安全のために頑張ってください。今日は皆さま警護をよろしくお願いします」


 ヒュペリオンを含む警護の人たちが左こぶしを素早く額に当て、胸に当ててから直立体勢に戻る


「リアンサス、セレネ、今日はお二人に会えて私は嬉しく思っております。そして、ずっとあなた方に謝りたかったのです。」


 リアンサスは顔が曇り、セレネはキョトンとしている。


「お亡くなりになられたお二人の御父上に感謝しています。前騎士団長のガイウスさまのお陰で一昨年の隣国の侵攻を防ぐことができました。魔獣が多発して魔法師団が出払ったときに侵攻され、また多くの犠牲をだすところでした。しかし、ガイウスさまと側近の精鋭たちが限界まで身体強化を行い防いだと聞いております。ガイウスさま達がいなければ、今、この日を迎えることが出来ませんでした。私たちは救われましたが、二人の御父上を奪うことになり王族として謝りたかったのです。」


「アキレア王女が謝ることはありません。騎士団長が国を守るのは当然です。私と妹は皆を守った父を尊敬しています」


「そうです。アキレア王女は悪くないです」


「王族が皆を導き、国を発展させることが出来たら、犠牲になる人も減ると思うのです」


「私もヘリオスもセレネも王女に仕え、国を発展させるために力をつくします」


 この小さく貧しい国では発展させていかなければ守るのは難しいだろう。

 俺もうなずく


「ヘリオス、リアンサス、セレネ。ありがとうございます。これから学園でもよろしくお願いいたします。」


 あと数日で学園での生活が始まるけれど、この三人といっしょなら上手く過ごせるだろう。


「アキレア王女、解体ショーがはじまります。ガイウスや亡くなった精鋭には劣りますけれど、現騎士団長も身体強化はなかなか使うので見ものですよ」

 ヒュペリオンが指さした方向を見ると少し薄汚れた皮鎧を着ている人たちがあわただしく動き始めた。


 頭と切り離されたカトブレパスの胴から内臓が2人がかりで抜かれていく。


 掛け声とともに現騎士団長がカトブレパスの体を輪切りにしていく。体や腕を動かしているのは見えるけれど剣が速すぎて見えない。


 何だかよく分からないうちに解体ショーは終わった。


「リアンサスは、騎士団を目指すのですか?」


「いいえ、私は文官になります」


「理由を聞いてもいいですか?」


「はい。私は剣ではなく別なことでこの国を守りたいのです。毎年、侵攻を受け人が減っています。剣がなければ防げなかったでしょう。けれど、この状況を変えたいのです。父のように犠牲になっていく人を減らしたいのです。剣だけでは変わらないと思います。どうやって変えていけばいいのか、今はまだわかりません。なので、学園で勉強していきます」


 リアンサスは身体強化も剣も得意だ。騎士団員の息子で身体強化も出来るのに文官を目指すのは珍しいらしい。


「私も変えていきたいと努力しています。ヘリオスの力が何かきっかけになるかもしれません。これからの道を探していきましょう」


 今は自分たちが食べる分すら足りないけれど食糧増産出来るようになったら少しは変わるだろうか。


「ヘリオスたちに祝祭の意味を教えるのでしたね」


 気づくと太陽が隠れ始め、アキレア王女の横顔を赤く染めている。


「私知っているよ。太陽神さまの復活と感謝のお祭りでしょ」


「ええ。そうよ、セレネ。人間は何度も滅び、そのたびに神さまにつくられているの。人々のために太陽神さまは、自らを犠牲にして魔力を生み出し人間や動植物をつくったの。明日は犠牲になった太陽神さまが復活した日だから1年の始まりの日なの」

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