6.露見
目覚めてから驚きの連続でゆっくりと考える時間もなかった。浮かれて興奮していたのもあるだろう。
あらためて考えると8歳のヘリオスの体に俺の意識が入ったのか?それとも生まれかわってヘリオスとして生きてきて前世の記憶が覚醒したのか?
徐々に目覚める前のヘリオスの記憶がうかんでくるようになった。父さんであるヒュペリオンと過ごした日々、母親代わりにレアさんに甘えていた自分、セレネとリアンサスといっしょに畑で手入れをしたり遊ぶ日常。
色々と頭に浮かび思い出したことを考えているとヒュペリオンが家に戻ってきた。
昨日までの明るい顔じゃない。疲れた顔をしている。下を向いていた顔を上げ視線を俺のほうに向けて言った。
「今までのヘリオスじゃないんだろ?」
何と答えていいか分からずに俺は黙ってしまった。
「返事がないということは、そういうことだろう。考えたくなかったけれど」
ヒュペリオンがいつもよりもゆっくりと噛みしめるように話す。
高熱で寝込んで目覚めた後からヘリオスの様子が違う。
父さんと呼ばなくなった。よそよそしくなった。
レアさんのことをレアおばさんと呼んでいたのに今ではレアさんと呼んでいる。
セレネやリアンサスとの距離感が違う。
いつも過ごしてきた父親だからわかる。
中身が違うと感じたけれど悪意は感じないし見た目はヘリオスだったから考えたくなかったと。
珍しい銀髪だったのと魔力の器に穴があったので小さなころから魔力のことを心配していた。魔力が使えないかもと考えると練習を始めるのが先延ばしにしてしまった。けれど高熱にうなされているときに器の穴から魔力が流れこんでくるのを感じて期待してしまったと。
魔力が使えるようになって安心と喜びで違和感を心の奥に押し込めたけれどやはり寂しかった。父さんとも呼ばれず距離があいてしまったことが。
俺はヒュペリオンの事を考えた。見た目通りの精神ではないから気持ちがわかる。かわいがって育ててきた息子の言動が急に変わって不安なのだろうと。
昨日までの俺だとヒュペリオンに何て言っていいかわからなかった。けれど、今はヘリオスとして生まれてきて過ごしてきた記憶もある。前世の記憶も交じって自分の頭の中も混乱しているけれど何かを言わなければならないことだけは分かる。
「……父さん」
呼ばれたヒュペリオンは、こちらを向くが涙をこらえているような表情だ。
「今までのヘリオスの記憶も思い出した。けれど違う自分の記憶もある。だから、父さんと呼ぶのに今は違和感がある。でも、愛情を注いで俺を育ててくれたのも知っているし感じている。だけど頭が混乱していて今までみたいに出来ない。もう少し俺を見守っていてほしい」
俺はヒュペリオンの目を見ながら正直に話した。
「わかった。俺もどう接していいのか戸惑っていた。けれどヘリオスは俺の息子なんだよな」
「……父さんの息子だよ。心配かけてごめんなさい。」
「わかった。ヘリオスはヘリオスだ。俺の大事な息子だ」
笑顔を頑張って作りながらヒュペリオンが言う。
「うん。ありがとう」
「レアさん達も心配していたぞ。ヘリオスが魔法を使えるようになったのには喜んでいたけれど。器の穴から溢れてくる魔力のこともヘリオスの違う意識が関係しているのかな」
――他の魔力持ちと違う理由はそれかもしれない。
「明日は祝祭だ。セレネとリアンサスともたくさん話して思い出せ。おやすみ」
夜が更けたばかりだけれど俺はすぐに眠くなり目を閉じた。
告知詐欺になりました。すいません。次こそ祝祭を書きます。