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3.魔法練習

 俺は地面に転がったまま何が起きたか理解するのに時間がかかった。


 お腹に痛みを覚え、それとともに状況を理解しだすと怒りがわいた。


「いきなり何するんだよ!」


 俺の怒りに対してヒュペリオンは、大きなため息をついて、がっかりした顔をしている。


「ヘリオスには難しいかもと思ったけれど、ここまでとは………。けど大丈夫!父さんがいくらでも練習に付き合うから!とりあえず次はセレネだ!ヘリオスは見ていなさい」


 セレネは、7歳になったばかりというが5歳くらいの体格にしか見えない小さな女の子だ。そんなセレネに向かって、ヒュペリオンは右手を向け水色の塊を放った。


 ――危ない!


 俺はあせった。セレネは目をつぶって身構えた。セレネも吹き飛ばされると思った。けれどぶつかる瞬間にセレネを覆うように膜が薄く光って水色の塊が消えた。


 セレネは、目を開けた。ほっとして力が抜けたのか座り込んだ。


 ――あれ?セレネは簡単に防いだ?


 俺が呆然としているとヒュペリオンが近寄ってきて言った。


「魔力持ちは普通、魔力で攻撃されると防衛本能で自然と魔力の防御膜を張るもんなんだ。まだ小さなセレネが防げるくらいの弱い魔力を放ったからセレネは問題なく防げた」


 じゃあ俺には強く放ったのかと思ったけれどヒュペリオンは苦い顔をしている。


「髪の色である程度の魔力と得意属性がわかる」


 セレネも近くに呼んで、俺たちにヒュペリオンは教えてくれた。


 ヒュペリオンは水属性が得意で魔力も高いので濃い青色の髪。セレネは、薄い水色で7歳にしては、髪に色がはっきり出ていて魔力の成長が期待できるらしい。


 レアさんとリアンサスは魔力が無くて髪の色は金髪。


 俺は銀髪で珍しいらしい。俺の小さな体からは魔力を感じるけれど魔力の器に穴があいていて、魔力を取り込みにくいらしい。


 今まで魔獣の肉を食べさせてきたけれど生まれたころからヒュペリオンが見ているセレネは少しずつ器が大きくなっているのがわかるが、俺の器からは吸収した魔力がこぼれているそうで、器自体も全く大きくならずに心配していたらしい。


 ――魔法が使えると思ったのに………。


 明らかにがっかりしている俺に対してセレネもヒュペリオンもやさしい言葉をかけてくれる。


「私が強くなって守ってあげるから大丈夫だよ。ヘリオス。」

 小さいながら笑顔を一生懸命つくってくれているのがわかる。


 セレネもいきなり魔力を撃ち込まれ疲れていたのに人を気遣うなんてやさしいな。


「大丈夫!器が成長しなくても練習すれば魔法は使えるようになる!」

 ヒュペリオンが、ぼそりと小さな声で「たぶん」と言ったのが聞こえた。


 魔法を何とか使えるようになっても器が小さいままだと威力も弱く役に立たないのではないか。


 がっかりして、いじけた俺は、セレネがヒュペリオンといっしょに練習する様子を座って見学しながらぼんやりと手を動かして草をちぎっていた。


 セレネは小さな魔力の塊を撃ちだせるようになっている。


 羨ましく思いながらセレネを真似して俺は手を地面に向けて力をこめていた。


 ――何も出ない………。


 ため息が思わず出た。


 気落ちしたまま、何も出ない手のひらと地面を交互に見ていた。


 すると、さっき、草をむしっていたはずの場所が青々と茂っている。


 草を抜いているはずの場所が逆に周りよりも草丈が伸びてきている。


 ――もしかして魔力で草が伸びた?


 今度は、芽生えたばかりの畑の新芽に向かって手のひらをかざし、体の奥底から力を出すようにふんばった。


 ――大きくなれ!


 すると新芽が一気に膝丈まで伸びた。


 ――見間違いじゃなかった!


 思わず声を出して立ち上がりガッツポーズをした俺に気づいて二人が近づいてきた。


 畑の様子を見てすぐさま理解したヒュペリオンは、俺を抱きしめて持ち上げた。


 喜んではしゃぐ様子のヒュペリオンを見て俺も凄く嬉しくなった。


 よく分からずに佇むセレネに父さんが説明した。

「ヘリオスは魔力で作物を成長させたんだ」


 俺もうなずき、にやけっぱなしだった。目に見える魔法は使えなかったけれど植物の生長を促進させることができた。


「人体に作用する回復魔法はあるけれど、植物に作用する魔法は聞いたことがない!ヘリオスのこの力には王女もお喜びになるだろう」


 ――そんなに凄いの?


 空間に作用して使う攻撃魔法や応用した生活魔法のアクアラヴァなどと人体に作用する回復魔法はあるけれど植物自体に作用する魔法は聞いたことがないらしい。


 ぽかんとしたままのセレネをほったらかしで饒舌になったヒュペリオンは、長い説明を終えた後に一息ついて言った。

「これで、セレネと一緒にヘリオスも王宮学園に早期入学出来るな。それにまずは、王女に会わせよう。食べ物が少ないこのジセロ国で王女は国民のために作物の増産をどうしたらいいか心を痛めていらっしゃる。ヘリオスの力を研究したら皆が助かるとお喜びになるだろう」


 回復魔法が得意で俺と同じ年齢の王女は、自分の食べる量を減らしてでも貧しい人たちに施しを与える聖女と呼ばれる存在らしい。


 貧乏なジセロ国では王族も質素に暮らしていて寒波が訪れた年などは日々の食べ物にも困るらしい。それでも、自分は食べるのを我慢して分け与える王女を崇拝している人が多いそうだ。


 回復魔法で作物の成長を促進できないか王女は宮廷魔導士長の指導の下に研究しているらしい。


 俺の力は役に立つだろう。ただ、器が大きく出来そうにないので、俺自身で食糧増産するのは難しいだろう。俺の力を研究して他の魔力持ちが使えるようにならないと皆のためにはならないだろう。


 ――もっと俺が役に立てたらよかったけれど。


 セレネも疲れているらしく、今日の魔法の練習は終わりになった。




 夜、眠りにつくと俺は前世の夢を見た。黄金色に輝く稲穂が風に揺れる田園風景だった。

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