22.魔木
不気味な魔木の根は、魔獣ルプスの死骸を絞め殺すようにからみついている。
「魔木だ。魔力を吸収するので魔法はきかない。」
ヒュペリオンの言葉に誰かが唾を飲み込み音が聞こえた。
「この魔木が、魔法使い捕縛用の投網などに使われる原料ですね」
リアンサスが言った。
「そうだ。そして、ジセロ国には魔獣が多いから魔木も多い。これを狙って西の国は侵入もしてくる。とはいえ、王宮に近いこの辺りに生えているのは珍しい。苗床となったルプスが生きたままたどり着いたのかもしれない」
「魔法がダメなら剣で切ればいいんだよね」
俺は、大人の背丈程度の魔木をルプスに根を張る生え際で切った。
倒れた魔木は、急激に生命を失うようにしおれ、色を失っていった。
まがまがしさが無くなっていった。
切って命を失った魔木なら触っても大丈夫だろうと思った俺は、おもむろにつかんでみた。
「馬鹿!放せ!」
――え?
俺の体から急激に魔力が吸いあげられているのを感じた。
自分の中から大事なものが急激に失われていく感覚が怖くて手を放そうとしたが離れない。
今、体にある魔力を一瞬で吸収され、危険を感じた。
魔力が枯渇していく。だが、器の穴から大量の魔力が吸い上げられていくのを感じた。
俺の魔力を吸ってみるみる魔木は大きくなっていく。
幹が太くなり、伸長し、葉が黒々と茂り、不気味な樹肌は命を得たように瑞々しくなっていた。
重くなり、持ち切れずに地面に落としてしまったが、手は離れない。
「魔力を止めないと離せないぞ!」
「止められない!」
ヒュペリオンの言葉に俺は叫び返した。
止まることなく吸われ続ける魔力。器の穴から溢れこんでくる魔力がどんどん増えきた。魔木に吸収される量よりも多くなり体に魔力が満ち溢れていく。
自分の体に魔力が溢れすぎて気分が悪い。
「魔力が多すぎる。はじけるぞ! ヘリオス魔法を使って放出しろ!」
左手を空に向け全力で魔力をこめ風魔法を放つ。
風魔法は空間をねじ切るように凄まじい回転で上空へ上がり雲を霧散させる。
「やばい! 膨大な魔力につられて大量の魔獣が近づいてくる。ヘリオスは、風魔法で正面全てを倒せ!俺は後ろの魔獣をやる。アキレア王女とセレネは、俺とヘリオスの間で待機! リアンサスとディアントスは、ヘリオスが撃ちもらした魔獣を撃破!数十頭は来るぞ!」
俺たちが身構えていると葉がすれる音、足音が近づいてきた。
視界に入ったルプス目掛けて風魔法を放つ。一撃で森の木々といっしょに10頭以上のルプスを飲み込み切り裂き、ねじ切っていく。
正面には、ルプスも木も何もなくなった。
辺りを見回すとリアンサスとディアントスが左右でルプスに向かって剣をふるっている。
「リアンサスよけろ!」
俺はリアンサスに迫りくる数頭のルプス目掛けて風魔法を放つ。後続のルプスと木々も巻き込みズタズタにする。
「ディアントス!」
俺の声で素早くディアントスがよけた。
俺の風魔法は、地面もえぐり、ルプスをひき肉にする。
ヒュペリオンを見ると水魔法で最後のルプスの首を落としたところだった。
魔力を大量に使ったからか、気づいたら魔木から手が離れていた。
「血と魔力に誘われてまた魔獣がよってくるかもしれない。魔石と素材を回収したらすぐに行くぞ。リアンサスとディアントスは、魔木の枝にこのロープを巻いて運べるようにしてくれ。絶対に直接触れないように」
魔木は、直接ふれて魔力を吸収されないようにロープで運ぶそうだ。
残りの俺達4人は、ヒュペリオンが倒したルプスを解体して、素材や大量の肉を身体強化で持ち上げ移動する。
「最初に狩って魔法で保管している素材は後で取りに来るぞ。ひとまず、戻ろう」
ヒュペリオンの言葉にうなずき、移動を始める。
「リアンサスとディアントスに運ばせている魔木はどうするの?」
俺はヒュペリオンに聞いた。
「色々使い道はあるし、高く売れるがまずはヘリオスの杖を作ろう。上手くいけば魔法を安定して使えるようになるかもしれない」
ヒュペリオンの言葉に俺は胸が高鳴った。




