1.目覚めと魔法
俺は目を開け、飛び起きた。
――体が動く?
けれど違和感がある。
周りを見ると自分の部屋ではない。
部屋が狭いのは同じだけれど見慣れない木の壁に木材家具。そして、匂いが違う。木の香りと土の匂いが濃い。
すぐそばに青髪の人が横の机でうつ伏せになって寝ている。
青髪の男性は体を起こし、こちらを向き、「起きたのか」
そう言って俺のおでこに手の平を置いて言った。
「よし!熱も下がったな」
見知らぬ男性から触られて気持ち悪かった。けれど、暖かく大きな手の振る舞いからはやさしさを感じた。
体の調子はいい。けれど違和感がある。腕を上げ背を伸ばし、見上げた。自分の体が小さかった。目に入る自分の腕も足も短く細い。
――幼児の体?
――生まれ変わった?
「何だ変な顔して。まだ調子が悪いのか?」
そう言って続ける青髪の男性の話にうなずいたり、最低限の反応をしながら様子をうかがっていると状況がつかめてきた。
この男性は、父親らしい。俺のことを気遣う様子が伝わってくるので警戒心がとけてきた。
安心すると汗でべたついた体が気持ち悪く感じてきた。
「お風呂に入りたい!」
思わず口に出た。
「お風呂?寝汗で気持ち悪いんだな。よし勉強だ!ヘリオス!魔力の流れを感じろよ」
父さんだという青髪の男性は、笑って手を向けた。
「アクアラヴァ!」
俺は一瞬で水に包まれた。
衝撃を受けたけれどすぐに包んでいた水は消えた。
「何するんだよ」
水で濡らされた俺の口調は少しとがっていた。
「いつも通り体は乾いているだろ」
言われた通り体は乾いている。
――魔法?
――ファンタジーの世界に転生?
俺も魔法を使えるようになれるかと思うと胸が高鳴った。父親らしい男性は、魔法を教えてくれるんじゃないかな。
「魔法を教えて!」
「もちろん教えるさ!今までも少しずつ教えてただろ?父さんみたいに魔法で皆を守らないとな」
しゃべり続けて止まらない人の話に相づちを打つのも疲れてきたが、なんとなくわかった。
この人の立場や俺たちが住む国についてと魔法のこと。
今世の俺の父親は、俺たちが住む国の魔法師団長らしい。今いる1部屋しかないらしいこんな小さな家に住んでて、そんな偉いわけない。嘘だろ?と思ったけれど、国自体が小さく貧乏らしい。
それに宮廷魔導士達のほうが命令系統の上に位置していて父さんがついている魔法師団長は、前線部隊の隊長といったポジションみたいで愚痴といっしょに聞いてあげた。
小さな子にそんな内情や仕事の愚痴を言うなんてと思ったけれど俺が魔法に興味を抱いたのが嬉しいらしく興奮して色んなことを話してくれる。
この国はジセロ国といって魔力持ちが多く生まれるらしい。土地も痩せていて国土も狭く貧乏な国だけれど魔力持ちが戦ったり、防衛魔法をかけることによって周りの国から自衛しているらしい。
魔力持ちだと練習すると魔法が使えるようになるらしい。
その言葉に喜んですぐに練習をせがんだ。
「やる気になっているのは父さんも嬉しいが、ヘリオスが寝込んでいる間に心配してたレアさん達に顔を見せよう」
レアさんへの感謝から始まった話で隣の幼馴染のことを聞けた。レアさんの息子で俺より年上のリアンサスとその妹で俺より一つ年下らしいセレネのことが。
そんなに長く話し続けるなら魔法の練習してくれてもいいのにと思った。けれど父さんだという青髪の男性は俺が良くなったのが本当に嬉しいみたいだ。
話は長いけれど愛情が伝わってきて不快じゃない。むしろ、人からの愛情が伝わってくるのは嬉しい。
隣に住むレアさんも俺に愛情を注いでくれているのが話を聞いていてわかった。よく俺たちの食事を作ってくれているらしい。父さんが仕事でいないときは、レアさんが子どもたちといっしょに俺のことも面倒見てくれているそうだ。
年上の幼馴染のリアンサスは、魔力がないけれど頭が良くて王宮学園に推薦され入学するらしい。
水色髪のセレネは、魔力持ちで父さんは期待しているらしく、俺といっしょに鍛えたいらしい。
そんな話を聞いてたらドアがきしんだ音を立てながら開いた。
「ヘリオスもう大丈夫なんだね。よかった」
20代半ばに見える、人が好さそうな笑顔をうかべる金髪の色白の女性がこちらに近づいてきた。
「レアさんご心配をおかけしました」
父さんが青い髪の頭を下げレアさんをむいた。
「リアンサスもセレネも心配してたから、よかったら家に顔を見せに来てね。そろそろヘリオスも起きるかなと思って夕飯も作っているから。もちろんヒュペリオンさんもどうぞ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます。食事をしながらでもセレネの魔法学習のことを話させてください。ヘリオスといっしょだとお互いにはげみになるでしょう」
魔法学習という言葉に浮かれて、俺は早く食事がしたくなった。