15.早朝の特訓
「おはよう!ヘリオス。いっしょに頑張ろうね」
妙に機嫌のいいセレネに朝早く起こされた。笑顔がまぶしくて俺も自然と笑顔になった。
外に出るとヒュペリオンがリアンサスと話していた。
「ヘリオスやるぞ!」
ヒュペリオンは感情が高まっている様子で朝から暑苦しいが、警戒の仕事から帰ったばかりで眠っていないのに俺たちのために特訓してくれるのはありがたい。
「セレネには杖を渡そう。リアンサスは、文官志望だけれど身体強化を鍛えて戦ってくれるというから革鎧を」
二人が礼を言う。学園のチーム戦では剣は、模擬専用の木剣を使うらしい。
「俺に杖は?」
「この杖は空間の魔力を安定して集めやすくするものだからヘリオスには使いづらいだろう」
たしかに空間の魔力を集めても器の穴から漏れ出る俺ではあまり意味がないかもしれない。
他に杖がないので、子どもの肩幅もないような短い杖を俺も受け取った。
「本来チーム戦は、他国の斥候部隊や少人数の奴隷狩り部隊と戦うための訓練だ」
ヒュペリオンの話を聞いて、隣国の奴隷狩り部隊がよく使うという魔法使い捕縛用の投網を使えばいいと思った。けれど、ジセロ国では生産できず、鹵獲した貴重品は生徒には扱わせないそうだ。
だから、生徒同士の訓練は、純粋に魔法と身体強化、剣技による戦いだそうだ。
「上級生の魔導士たちと戦ったら負けるのが当たり前だ。死なないように最低限の身体強化と立ち回り、魔法防御を鍛えなくては。そして、勝つための何かを見つけないと」
ヒュペリオンの言葉に皆がうなずく。
「イレックスなんかは、実戦でも戦える実力だ。魔力はすでに中級魔法使い水準だ。あいつを誰が防げるか。倒せるかで状況がかわる。俺が火魔法と身体強化で立ち回るから三人で防いで一発入れてみせろ」
ヒュペリオンが動き出した瞬間に俺達は反応して立ち回り三人で戦った。
リアンサスが身体強化を使いヒュペリオンにせまった。剣をかわされたところにセレネが小さな水魔法を放ち、防がれたところに俺がアメットで魔法防御膜を張りつつ身体強化でせまった。
ヒュペリオンは、火魔法を放ちアメットをかき消しつつ木剣をふるい俺は叩きのめされた。
攻撃の順番やタイミングなど入れ替えてみても同じような結果だった。
「リアンサスは、牽制に徹したほうがいいかもな。悪くない。ヘリオスとセレネは手加減した火魔法くらい防げないとな。時間はないがチーム戦本番のギリギリまで練習しよう。ヘリオスは、身体強化の効果的な使い方を考えるのもいいだろう」
明らかに手加減されていたのに、三人がかりで手も足も出ず、くやしかった。けれど、成長出来ている事もわかって嬉しかった。
前よりもアメットを使えるようになっている。それに身体強化を使ってみて・・・。
――制限時間がこない?
身体強化は、魔力持ちではなくても使える。
厳密に言うと魔法が使えない人間でも魔力は若干あるらしい。普通の獣でも植物でも魔力が皆無というのはありえないそうだ。
身体強化は、少しの魔力で行使できる。なので、誰でも使えるそうだ。もっとも、使える時間が違うが。
だから、リアンサスは、身体強化で速度を上げるのを的確なポイントで瞬間、瞬間におこなっている。
俺は、器の穴から魔力が漏れているはずで、普通の魔法がまともに使えない。植物成長のときだけ、穴から流れ込んでくる魔力を使えているはずが・・・。
疑問に思ったことを聞いてみる。ヒュペリオンも気づいていたようだ。
「身体強化にも器の穴から流れ込んでくる魔力を使えているようだ。だから器が小さく魔力が少ないのにヘリオスは、身体強化を使い続けられるのだろう」
これで少しはチーム戦もましになるかと考えた。セレネが魔法攻撃、リアンサスが身体強化を使い牽制、俺が身体強化と魔法防御で突撃する。
ただ、剣の腕もないのにスピードと力を身体強化で上げても相手を倒せるか?
「剣の腕がある騎士団見習いがチームに欲しいな。あいつらに睨まれているから一緒のチームになってくれる奴がいるか分からないけれど声をかけてみたらいい」
ヒュペリオンが言う。
セレネの魔法だけで相手を倒せそうにない現状では、剣の腕がある騎士団見習いがチームに入ってほしいところだ。
俺たちはうなずいた。ヒュペリオンに礼を言い、俺たちは、練習を終えて学園へ向かった。




