おわりに
本編は以上だ。諸君は、真相にたどり着けただろうか。
改めて問おう。男子生徒を死に至らしめかけた毒物はなんだったのか? お分かりであろうが、答えは「一酸化炭素」である。無色、無臭でありながら、ヒトに有害性を示す「毒物」だ。
なにも筆者は、毒が錠剤や液体であるとは言っていない。「毒を盛った」という表現も控えた。【第六感】が既に述べた通り、女子生徒は意図的に心中を図ったわけではなかったからだ。
ちなみに、推理の糸口はかなり早い段階で示されていた。それは証言の順番だ。どうしてあの順でなければならなかったか。「おおよそ、脳に情報をもたらす量の順番」などと書いたが、それは方便である。しかも、実は味覚よりも(文献によっては触覚よりも)嗅覚の方が全体に占める割合は大きい。
では本当の理由は何だったのか。簡単な話だ。嗅覚の証言に、最も重大な情報があったからである。
ストーブの不完全燃焼による悪臭、および一酸化炭素の発生。本作の根幹を成すこの情報は、最後まで伏せられている必要があった。とすれば、こう言うこともできる。逆算して考えれば、締め切った室内で起こりやすい事故について思い至れたかもしれない、と。
つまり目次を見た段階で、真相に迫れた可能性すらあったのだ。筆者としては、そんな勘の良い読者はただただ恐ろしいばかりであるが。
なにはともあれ、くれぐれも換気はこまめにしていただきたい。
それでは諸君、ご機嫌よう……と言いたいところだが、このままでは読者の一部からお叱りを受けるかもしれない。最初に挙げた「ヒント」はどうなるのかと。それは「正解の毒物はチョコに含まれていた」というものだった。
チョコに大気中の一酸化炭素が溶け込んだなんて言いたいのか? そんなのこじつけだ! とおっしゃる方々のために、最後に一酸化炭素の化学式と、チョコレートの英語のスペルを残しておく。
それでは、また会うことがあれば。
ハッピー・バレンタイン!
一酸化炭素:CO
チョコ:CHOCOLATE