味覚
我輩はグルメである。味にはうるさい。それ以外のことはどうでも良い。
最初は、湿ったボロボロの布切れが口に入っておった。猿ぐつわのつもりか知らんが、我輩の舌にあんなものを押しつけよって、許さんぞ。
おまけになんじゃ、あの飲み物は。まるでなっとらん。泥水の方がまだましじゃ。吐き気がしたわい。
嗅覚のやつが仕事をしよらんかったから、いつも通りとはいかなかったが、それでもあれがチョコレートなどと言える代物ではないということは分かったぞ。妙に甘ったるいし、あろうことか鉄の味がしたではないか! 血でも混ぜよったのじゃろう。何かの怪しげな儀式か? バレンタインだかなんだか知らんが、舐め腐りよって。食に対する姿勢がなっとらん!
ん? 明日の朝刊じゃと? 吾輩のことが載るのか? ふん、そんなの決まっておろう。『美食高校生が「食」を語る』という題でコラムが始まるのじゃよ。
……何を驚いておる。なに、他の奴らは、死ぬと思っているだあ? 馬鹿もん、血を食らわされたくらいで死ぬものか。
あの泥水以下の液体には、血以外に異物は入っておらんかったぞ。材料は板チョコ、牛乳……。どれも市販の、ごくありふれたものじゃな。それこそ毒物が入っていたなどと、笑わせるわ。嗅覚のやつに聞けば、もっとはっきりするじゃろうて。