プロローグ
春の日差しも陰りを見せ、まばらに散らばるすじ雲と赤色のコントラストが大地を照らす。
空を翔るまばらな鳥たちは僅かに吹く風にゆったりと乗って、たまに間抜けな声で鳴くと、早歩きに門を目指す道行く人々を追い越していく。
夕焼けが作る影法師はゆらりとしているというのに、陽を受ける者達は余裕がない。誰もが、陽が落ちて門から閉め出されたのではたまらないと急ぐ。
金髪を、夕陽で薄っすら赤くしたトロイも、そんな者達に混じって足を動かしていた。
その日暮らしの多い探索者において、先を見越した貯蓄をする珍しい男である。
そんなトロイはふと、服にこびりついた泥を払おうと身じろぎをする。肩に掛けたカバンが背中に担いだ籠を押し、満載されたカセスの葉が散らばるがトロイは気が付かない。
「よう、あんちゃん」
「何ですか?」
「稼ぎがこぼれてるぜ」
三十代くらいだろうか。トロイと同じような籠を担いだ男が後ろから声をかけた。
トロイがその男の声に従って顔を向けると、通ってきた道には稼ぎがまばらに散らばっており、不毛の春の中散々歩き通して疲労困憊の彼を酷くげんなりさせた。
「ありがとう。危うく夕飯から酒がなくなるところでした。久しぶりの酒を楽しみにしていたので、本当に助かります」
「ははは、そいつはよかった。で、どうだいあんちゃん?やっぱりあんたの方も辛い時期になってきたかい?」
「ええ。どうにもやっぱり時期が悪い。先月の倍働いても半分の収入ですよ」
「ちげぇねぇ。時期が悪い。俺もさっぱりだよ。蓄えをせにゃならんのに」
稼ぎを拾い集めたトロイが男の横に並ぶと、男が籠を揺する。すると握りこぶしほどもあるキノコがいくつか籠の中を跳ねた。
「へぇ、そんなに立派なのが採れているのにですか?」
「これが一日ならよう、これっぽっちでもいいんだがよう。俺ぁ一週間も山に籠ってたんだ。割に合わねぇわなぁ」
「ははぁ。じゃ、次の仕事の準備をしたら酒も飲めないでしょう」
「あーそうさなぁ…今回も無理だろうなぁ。二か月は酒と縁が切れっちまってよう、仲間からは禁酒したのかと心配されてるよ」
「そいつは大変。早いとこ安心させてあげないといけませんね」
トロイと男が口も足も忙しなく動かしていると、気が付けばもう門が間近になっていた。それに気づいたトロイは、男に改めて礼を言うと直ぐに別れ、男は門の近くにある井戸で水を浴びるために、トロイは門を目指して歩き出した。




