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ラポという男(1/3)


「…地図通りに来てます。真っ直ぐ行けば数分で到着です」

「…そうか。

 あー、なぁ。キーラの宝箱って店長は代々同じ名前なのかねぇ?

 俺が思うに女が生まれたらその度にキーラって名付けてんだよ。大昔から店の名前変わってねぇしな」

「今この状況で、キーラさんの名前について話すことに何の意味があるんですか。現実逃避してる場合じゃないでしょ。

 このズラッと並んだ人たちってラポの同僚にしか見えないし何としてくださいほんと頼みます。つーか何したんですか殺気ビンビンで漏らしそうマジ無理!」

「お前さっきそういうのわからねぇつってただろうが!こんなん俺にもどうにもならんわボケェ!」


 キーラの地図を手に何でも屋まであと一歩というところまで来た二人を待ち構えていたのは、ラポの同僚と思しき十数人の騎士たちであった。

 通常のブロードソードよりもやや短く肉厚な剣とバックラー、背中には柄を取り外した状態の短槍を携え、銀色に輝く全身鎧を身に着けた完全装備の騎士達から感じる圧迫感は凄まじいものがあり、そういったものに鈍いトロイですら身を震わせた。

 前方を塞ぐように立ち並ぶ騎士達は剣こそ向けてきていないが、僅かでも動きを見せれば二人に飛び掛かって来ることは間違いない。そう確信しているからこそトロイとラポは軽口を叩いても逃げる素振りすら見せない。


「ラポさん、大人しく捕まってください」


 騎士の一人が呼びかけた。

 面頬を下しているため、くぐもっているが声は若い男のものだ。


「や、やっほエド。ぞろぞろ連れて何の用だよ?」

「ほんと何したんですか?」


 呆れ混じりにトロイが問えば、ラポは顎に手を当てて考え込んだ。


「心当たりがありすぎてなんとも言えん…。やっぱ上司のアホ騙くらかして色々かっぱらってたのがまずかったか。それともカツアゲした魔具の報告しなかったのがまずかったのか。それとも…」

「もういい。わかった、わかりました。ラポさん、あなたはやりすぎた。

 貴方には世話になったから助けてあげたい気持ちはありますが…」

「いや、いい。元々俺の責任だ。

 それに、常々騎士なんて辞めてやろうと思っていた。いろんなもんが重なって都合がいい」

「そうですか…」


 残念そうな言葉とは裏腹に、エドは手に込める力を強め、足を半歩下げ前傾気味の姿勢になった。それに倣い、後続の騎士達も次々と臨戦態勢になっていく。


「ラポ、これは…」

「あ、あれ?」

「ラポさん、我々は貴方に何度も助けられました。

 あの腐りきった上の連中をおちょくる貴方の姿は爽快だった。

 時々見せる、騎士は斯くあるべしと言わんばかりの勇姿に憧れました」

「お、おう」

「ですが…」


 下げずに残した軸足を地面の上で滑らせ、バックラーを構えた。

 剣はまだ、その切っ先を下に向けている。


「貴方は覚えていますか?

 あなたに付き合って賭博をするうちに中毒になり、その挙句多額の借金を作って退団した者達を。未だに多数のご家族から恨み言を言われます。何故か私に。

 貴方は覚えていますか?

 新しいゲームを考えたといって風紀を乱したことを。あの下劣な王様ゲームでいったいどれほどの者が性癖を狂わされたことか。男だらけの団内で何故アレが流行ったのか未だに理解できませんよ。ああ、それと最近では私も大変な被害を受けています。大人気ですよ。はは…。

 他にもいくらでもあなたの問題行動を挙げられますよ。金にも男にも女にもだらしないですからねぇ。

 あなたは、自分が何をしてきたか、覚えていますか?

 あなたは色々なものが重なって都合がいいといいました。奇遇ですね。我々もです。本当に、都合がいい!」


 一歩を踏み出してからは早かった。十人を超える騎士は堰を切ったように駆け出し、その勢いに押されたトロイとラポは反転を余儀なくされ、目的地から遠ざかる羽目になった。

 鉄靴が地面を打ち鳴らす。

 鎧同士がぶつかり合いけたましく鳴り響く。

 迫りくる騎士達の圧力は凄まじく、それでいて足音は付かず離れずの距離を保っている。ペースを考えずに全力疾走する二人を心身共に追い立てた。

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