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悪魔の覚醒

 1919年10月16日 ミュンヘン ホーフブロイハウス


 ようやくスタムティッシュ(常連客)と認められ、マイジョッキをキープしてもらえる様になり常連専用のボードが掛かったテーブルに座れるようになった。

 なんやかんやで二日に一回は顔出ししていたと思う。

 ともあれこのビアホールは大きい。

 大ホールには1300人以上が入るという大きさで、王室ご用達ということもあって、それなりの権威が備わっている。


 ここでドイツ労働党は公開集会を開く。

 新聞広告も出し、ビアホールの一角を借り、入場料300マルクを取って演説を行うのだ。

 弁士の才能については、この一月で自分は天性の才能があるとの確信の域に達していたが、名前が売れると同時に、他の政党の妨害も激しくなってきた。

 野次や大声、酷いときには乱闘……お互いに飯の種を守るためなりふり構っていられないし、これを越えて入場料が入るようにならないと政党の財政基盤が安定しない。


 そういう意味で今日のホーフブロイハウスは決戦場である。

 今回はエルンスト・レームやルドルフ・ヘスが義勇兵の友人を引き連れて場内警備を引き受けてくれたおかげで安心して演説に集中できる。

 

 =著者蛇足=

 この時点での300マルクはおよそ2000円位と推測されます。何しろ物価がハイパーインフレ初期なもので変動が激しいので確答は不可能です。

 インフレ後期は想像すらつかなくなります。一兆マルク銀貨とか100億マルク紙幣とか……


 今回の推測基準は1919年発行1/2マルク 地方発行デューレン鉄貨の鉄の価値からのです……さすがに25ペニヒ陶貨(マイセン製)からの推測は無理でした(笑)、他にも商店発行紙幣これもデューレンとか、いろいろあって今の電子マネーに近い雰囲気を感じます。


 一人目の弁士が演説を始めた。

 急に緊張が襲ってきて何度も見直し暗記した原稿を確認する。

 今回の受け持ち部分は連合軍との賠償問題についてだ。

 あまりに巨額すぎて払えるはずが無い要求金額。これがマルクの価値を下げインフレを招いている。

 大まかな骨子はこれでいいし、連邦は賠償金の縮小交渉を強行に行う必要がある。

 そのためにも我々の政党が力を持ち国家に影響を持たなくては変革できない。

 皆さん協力お願いします。

 これをわかりやすく例を上げて説明して行く。

 細かい部分は会場の様子を見ながらのアドリブになるが何とかなるだろう。


 会場には111名の入場があったとルドルフが知らせてきた。

 いつもより一桁多い。

 面白いことに人数を聞いたら緊張が消えて気合が入ってきた。

 たくさんに人間に教えることが出来る、演説という仕事が大好きなのだろう。

 われながらそう思わざるを得ない。


 1919年12月10日 ミュンヘン ドイチェビアホール


 今日の聴衆は300人である。前回11月13日のエーベルブロイも同じ位だった。

 前回よりは若干女性が多いか?誤差の範囲のような気もするが。

 聴衆の目当ては2番目の弁士、このアドルフ・ヒトラーである。

 一番目のカール・ハラーや3番目のアントン・ドレクスラーではない。

 エーベルブロイでの聴衆の反応が確信させてくれた。

 今日も最前列にエルンスト・ハンフ・シュテングルやマックス・エルヴィン・フォン・シュタイナー=リヒターが陣取ってくれている

 彼らは上流階級への紹介を匂わせてくれた人達だ。

 その横には最愛の姪、アンゲリア・ヒトラーも座っている。

 ここまで人数が膨らむと他の政党の妨害が殆ど起きなくなったので招待した。

 笑顔でこちらを見ている。一層の気合が入ってきた。



 最初の人の講演が終わった。私には難しすぎて何を言ってるかわからなかった。

 ビール代わりに渡されたホットミルクのジョッキが暖かくて思わず眠気が……

 叔父さんに変わった直後に眠気は吹き飛ばされた。

 「ミュンヘンの諸君!!、不景気なのは誰のせいか!!それは連邦政府が無能だからである!!」

 何度も何度もたとえ話を用いて現状を説明してくれた。

 その叔父さんの声に張りと色気があること。

 思わずうっとりと聞き入ってしまう。

 ハッとなり廻りを見渡すと、結構な女性達がうっとりとした表情で叔父さんを見つめている。

 私の警戒心はマックスになりどう対応するかで頭の中がいっぱいになった。

 (まずは叔父さんに上流階級の仕草を身につけさせて高嶺の花と思わせること)

 もちろん自分も訓練を受けて、お似合いの二人と思わせることまで含んだ計算だった。

 

 それにしても演説する叔父さんがこんなに艶っぽいのは誤算だった。

 はやく大きくなりたい。


 手の中のミルクがビールに変わる頃には叔父さんの意識のしかたも変わっているのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 国によっては御禁制の小説も こちらでは問題ないのですね。
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