戦場より悪魔の帰還
かなり独善的なヒトラー像を作ってかいてますので歴史的な考証はするだけ無駄でしょう。
ただ、以前から疑問なのはソ連の方が虐殺した人の数は圧倒的に多いのに、なぜヒトラーだけが悪魔呼尾ばわりされる代表になっているのでしょう?
ユダヤ人はどうしてドイツで目を付けられホロコーストにあったのか。その延長線上でイスラエルはナチス将校を戦後20世紀末まで世界中で追いかけ捕縛し続けたのか?
その辺を考えながら「中東の異端児イスラエル」が発生する原因になったドイツのユダヤ人隔離政策の起源から追いかけていきます。
まずは主人公の登場です。
紀元1918年11月、バイエルン行き帝国鉄道客車
ときおり汽笛がなる中、眠りそうになるレールの音をBGMにSL列車は順調に進行していた。
時間と共に風の臭いは変わっているが、塹壕で毒ガス攻撃を受けて炎症で失明中の目では車窓の景色を眺めることも出来ない。
幸い痛みは取れてきたのであと2・3日で視力は戻るはずだ。
完全に視力が戻るかは今後の経過しだいだが……
とはいえ、この従軍傷痍勲章と1級・2級鉄十字章のおかげで一介の上等兵が、コンパートメントに座りながらフランス共和国との前線から離れていけると思えば、決して悪くはない取引だと思う。
戦場は常に塹壕だった。
塹壕無しでは砲撃で、どんな大部隊でも一瞬で消滅するのを、徹底的に叩き込まれた。
野戦ですら部隊展開後に蛸壺を掘って個人用塹壕とするような教育を受けてきた。
その中で伝令として制服を泥だらけにしながら命令を運ぶのが任務だった。
敵に向かって弾を撃ったことなどない。
これが楽なように聞こえるか?
こちらが撃たずに一方的に撃たれる恐怖を味わってから言え。
事実、伝令兵の損耗率は一般兵士の10倍以上だ。
伝令兵は伝令犬とは違う。
犬なら本能でだめなら進まず戻ってこられるが、人間は本能を理性で押さえ込んで目的地に辿り着く。
60kmで走る犬がやばいと思っていけない場所に、人間は時速10kmで突っ込んでいくんだ。
今回の負傷も毒ガス攻撃を直前に受けた陣地に命令を運んだときに受けたものだ。
辿り着いた陣地は無人だったが……当たり前だ。いれば死ぬんだ。撤退するだろう。
命令文は「毒ガス攻撃を受けたときの次列陣地への撤退許可」だった。
そんな命令を運ばせるな。といいたかったが、これを運ばないと命令違反か戦死で陣地の仲間が死ぬことになる。
意を決して運んだが、残留していた毒ガスで目をやられて、撤退中の陣地兵士に後方に運ばれた。
陣地の兵士達は感謝してたよ。命令違反で銃殺を避けられたから。
感謝のあまり1級鉄十字章の申請までしてくれた。
行軍傷痍章だけだったら貨車に載せられて移動だったであろうことを思えば、彼らの恩返しは十分だと思う。
何よりもこれで安全に最前線から離れることができた。
負傷して野戦病院で治療を受けている間に、北方のほうでは戦車の集団が塹壕を突破したらしい。
そんなのが出てきたら塹壕内ではほぼ詰みになる。
いい時期に前線を離れられたものだ。
両目は治療を続ければ又見えるようになると軍医も言っていたし、陣地の中で実例は見てきた。
手足をなくしての後送よりははるかにましだ。
来年は30才だし軍からおさらばできるかもしれない。
6000万人を巻き込んだ世界大戦は革命によるドイツ皇帝の亡命とロシア皇帝一族の抹殺という結果をもって終結することになった。
帝国は敗戦国として莫大な賠償金を背負い、戦勝国であるはずのロシアは共産主義国家として歩み始めた。
その中、帝国では一つの噂が流れていた。
それは「帝国は裏切りにより敗北しただった。」
実際には国力は尽き戦闘継続は不可能な状態だったが、主戦戦だった共和国との西部戦線より首都へ兵士が戻ってくるにしたがってこの声は大きくなった。
西部戦線から首都まで700km以上この距離を殆ど混乱なく撤退できたため、軍は「我々はまだ戦えた!」と大きな声を上げはじめた。
現実に百万単位の無傷な兵士が首都に戻ってくると真実味を帯びたその声は一層大きなものになった。
では誰が裏切ったのか?
それは流通、金融を牛耳っていたユダヤ人であり、東のロシア帝国を滅ぼした共産主義者であるという主張?が挙げられた。
この4年で国内経済がボロボロになり、国がすでに戦争継続不可能な負債を負っていた。
その負債を引き受けていたのはユダヤの銀行家だということは一般の人々は知らなかった。
ユダヤ人はケチで金に汚い金持ちというイメージだけが国民の風評を支えていた。
そしてそれは軍の影響力保持のための扇動工作によって市民の心の奥底により一層染み付くことになった。
「おじさまー」
バイエルン駅に着いた列車から衛兵の手を借りてホームに降り立つと横から小さな女の子の声が聞こえた。
「その声はゲリかな?」
小さな手が私の手を掴んで引っ張る。
「お母様が迎えに行ってこいって、もう10歳のレディだから。」
ちょっと大人ぶった口調の姪っ子の声が安心を運んできた。
「じゃあレディらしくアンゲリカと読んだほうがいいかな?」
「いいえ叔父様、ゲリでいいわ。名誉に思ってよね。選んだ人にしかそう呼ばせないんだから。」
「わかったよレディゲリ、お家まで案内してもらえるかな?」
二人は楽しそうに会話しながら駅の改札を抜けて行った。
その光景は駅のホームのどこでも見られた帰還兵と、その家族のやり取りの一つに過ぎなかった。