表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫の魔女と銀の騎士  作者: 湊舞
2/4

第一話

第1話です!すこし短い…かもしれません。流血表現が少しばかりあるので注意です。

夢を見た。それは彼を自分の手にかける夢だった。時折、思い出すように見るそれに、慣れることはない。むしろ心の奥がじくじくと痛むようだった。それでもとめどない記憶の再生に、呆然とするほかない。だってこれはどうしようもないことだ。過去に置きたことだ。彼はもう存在しない。

 自分の体のはずなのに、どこか別人の体のようだった。切り離されているような感覚で。私は何も喋れない。ただ、あの日と同じ行動を繰り返すだけ。


「アリファレット」

 低く、深い声がする。いまだ忘れられない金眼がこちらをずっと見ている。

もう私を呼ばないで。心が裂かれるように痛い。痛い。痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい


もう、やめて。


******



 水面から一気に浮上するように目を覚ます。全身が汗びっしょりで、呼吸が浅く、耳の中で反響する。どくどくと鳴りやまぬ心音を振り切るようにして深呼吸をした。肺の奥に冬の朝独特の冷たさがしっとりとしみこんでいく。それは徐々に体を落ち着かせ、通常の呼吸に変えていった。

 なんとも嫌な夢だと、毎回思う。忘れたころにやってくるのだから尚更質が悪い。それも鮮明すぎる。あれからだいぶ経っているはずなのに、色を失ってくれない。夢の内容を幾度となく忘れようとしたのに、纏わりついてくるようだった。


「大丈夫か、アリフィ」

 滑らかな声が耳に入り込み、ベッド近くにたたずむ狼を見やる。その光を吸い込むように青い目はこちらを心配していた。

「大丈夫。おはよう、ローガ」

「あぁ、おはよう、アリフィ」


 するりと私に近づくローガの頭を撫で、ベッドからゆっくりと降りる。冷や汗で寝巻が少し張り付くので、早々に着替えようとクローゼットを開けた。ローガはすでに寝室から退いている。本当によくできた使い魔だ。

 黒のシャツにズボンを履き、上にカーディガンを羽織る。鏡の前で見慣れた赤毛をとかし、てきとうに一つにまとめた。もともとあまりおしゃれにこだわる方ではないし、する必要があまりないと思う。……人に会うことがそうそう無いし。


 今日の朝ご飯は何にしようか……。そういえばこの間、ミーアにもらった果物がまだあったはず。それとオムレツでも作ればちょうどいいかな。

 キイ、と扉を開け、階下へ向かう。全体的に温かくなるように設定しているからといえど、隙間から漏れてくる外気はほんのり冷たい。窓から外を見やると、まだ夜は明けていなかった。まだ深夜のように暗い。

 台所に着くと、ローガが調理器具と食器、飲み物を用意していた。……本当に素晴らしい使い魔だ。

「ありがとう、ローガ」

 お礼代わりに、そのふわふわの体を撫でる。気持ちよさそうに目を細め、「当然のことだ」と言ってくる。かわいい。もふもふ。癒される……。あーだめだこれ、離れがたい……。


「じゃ、朝ごはん作るからちょっと待っててね」

 よし、今日もローガと私のために作るとしますか。

 そう意気込んで調理に取り掛かろうとした瞬間、玄関の戸を叩く音が聞こえた。

「えぇ……。このタイミングで朝早くから誰が……」

「おおかたミーアじゃないのか。また本の山でも倒れたか」

「あーありえるかも」

 ローガと雑談を交わしながら、玄関へ向かう。戸を開けた先には、やはり見知った顔がいた。亜麻色の瞳に赤いメガネ。ぴょこんと寝癖がついているのが愛嬌を醸し出している。

「アリフィ、聞いて聞いて聞いて!!」

「はいはい分かったから落ち着きなさい。で、何? 本の山倒した? 怪我でもしたとか?」

「違う違う。いい? よーく聞いてね。この森に、人間が入ってきたみたい」


 その言葉とともに息がぴたりと詰まる。ミーアは私に嘘をつかない。

 もとより人間はここ――――魔女の森に立ち寄れないことになっている。それはえんえんと続く迷路が仕掛けられていたり、時折猛獣が出没したりするからでもある。そのうえ、魔女の仕掛けにより人間が立ち入った際に警報が鳴るようになっている。魔女という理解不能の存在に近づくような馬鹿者はそもそもいない。それは昔の戦争での魔女の怖さを知っているから。


「で、警報が引っ掛かった場所に向かったんだけど、誰もいなくて」

「ふぅん、それで?」

「とりあえずアリフィとローガの力で探せないかなって」

「ミーアの魔法を使えばいいじゃない」

「……それ、わたしがめちゃくちゃ疲れるの知ってて言ってる?」

「もちろん」


 にこやかに、朝食を邪魔されたことへの意趣返しをする。これくらいならいいだろう。ローガも何もとがめないし。

 ミーアが言いたいのは、侵入した人間を捕まえる手助けを私たちにしてほしいという事だった。確かにローガの鼻はとてもきくため、追跡にうってつけだ。

 私はわざと仕方がない、というようなため息をだし、しゅんとするミーアに笑いかける。

「手伝ってあげる。……あとでアップルパイおごってよ」

「わかった! ありがとう、アリフィ!!」


 私はそのままミーアに連れられて気が生い茂る場所へと向かう。冬の寒さで生き物は死んだように息をひそめている。落ち葉を踏んでいく音だけがする。

私が震えたのがわかったのか、ローガが擦り寄ってくる。さらりと触れる毛が安心感をもたらしてくれる。


「ローガ、何か臭う?」

「あぁ、そいつ、大量に血を流してる。鉄の匂いが酷く鼻につく」

「あー。どうしよう」

ローガがそこまでいうなら、死んでいるかもしれない。……死んでたら、ミーアに任せよう。死体を見るのは苦手だ。報酬のアップルパイは貰うけれども。


「アリフィ、こっちだ」

ローガは身を翻し、奥へと進んで行く。ザクザクと、暗い林間を縫うように歩くローガについていく形で、私も進んでいく。彼は鼻を動かしながら進み、ある場所で顔を上げた。

「この木の裏にいる」

端的にそう言い、くるりと回り込んだ。なるほど、ローガでなくともわかる鉄っぽい匂い。

わかる回り込んだ先にいたのは、やはり、血まみれの人間ーー子供だった。

しゃがみこんでその身体に触れると、浅いが呼吸をしていた。それは虫の息というにふさわしく、あと少ししたら死んでいるかもしれないと思った。

「ローガ、ミーアを呼んできて」


返事は聞こえなかったが、ローガが去っていく足音が耳に届いたため、察してくれたのだろう。頼りになる相棒だ。

私は少年を横たえ、魔法をーーというか、まぁ、毒を生成する。

もともと私の固有の魔力が「毒」なので、ローガの力を借りない限り私にできる魔法はこれだけだ。初めは自分でも嫌だと思ったが、物は使いようとはよく言ったもので、私が生成できるのは「人体に有害な」物に限らない。中には、「植物に有害」で「人体に有効」な毒も生成できる。中でも、実験を重ねてできた毒に、人体の怪我治癒に効くものがある。


魔力を集中させ、毒を生成する。これといった負荷がかかるわけでもなく、短時間でできた。昔に比べたら、目覚ましい進歩だ。

ミストの形に霧散させ、血まみれの少年にかける。即効性は高いため、止血くらいはできるはず。しかし、失った血を戻すことはできないため、早急に措置が必要である。治療を専門とする魔女がいたはずだ。


私は少年を抱え、村の方へと走る。使い魔であるローガなら、私のいるところがわかるはずだから大丈夫。

少年は浅い息をして、青白い顔をしていた。そりゃそうだろう。倒れていた場所から察すると、斬られてからだいぶ時間が経っていたのだろう。道を作るように血痕が線となっていた。





できれば死なないで。頼むから。





そう強く願いながら、血まみれの少年を運んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


すこし半端なところですが、一旦切りますね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ