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「あとはエルノワ嬢も知っている通りだ。

あいつは変なところで見栄っ張りでね。弱りはじめた身体を君に見せたくなくて、会わなくていいと意固地になっていたよ」


「そうですね、今日もエルノワ嬢の到着前、こんな姿をみて気味悪く思わないだろうかと心配していたよ。アイツ、好きな子には弱気なんだなぁ」


とヴィヌが笑った。

好きな子。

そうか、最初から、ヴァイン様はわたくしを愛しく思い結婚していたのだ。誰かの隠れ蓑なんかじゃなく、ずっと、わたくしを思ってくれていたのか。

人生最後の願いにと、わたくしを望んでくれたなんて。


気がついたら、もうダメだった。


「~~~ふ、うう~っ!」


ボロボロと涙があふれて止まらない。

旦那様は、わたくしの旦那様は、わたくしを愛して下さっていた。ずっとずっと。

絵を描くしか出来ないわたくしを知っていて、それでも望んで下さった。


「わっ、わたくしはっ、出来損ないの、娘で。

普通の女の子のように、お父様お母様の、お役に、立てなくて」


「絵を描いてばかりのっ、悪い子だから!でも、どうしても、やめられなくて、皆を困らせてばかりの、悪い子なのにっ」


もはや取り繕う事も出来ず、ひぃひぃとしゃくりあげながら、めちゃくちゃに言葉をつむぐ。


「それなのに、ヴァイン様はっ、愛しい奥さんと、おっしゃって下さったのです」


止まらない涙。

ファーレンハウト夫人も一緒に泣いてくれている。


「エルノワ嬢、フロスティ子爵殿はこう言っていたよ。


エルノワは、確かに普通の令嬢ではないかも知れない。でも、私達夫婦はエルノワが生きて、幸せだと思いながら過ごせる事がなにより大切だ。


とね。

無理をさせたせいで、自己評価が低い娘に育ってしまったとも言っていたよ。


君はね、愛されて育ってきたのだよ。

そしてこれからも、ヴァインの妻として、我々の娘として愛されてくれ」


こんなの、どうしていいのかわからない。

悪い子の私が愛されるなんて、そんな事あるはずがない。


でも、ヴァイン様は笑ってくれたのである。

会えて嬉しいと。

お義父さま達も、暖かく迎えて下さった。


こんな、いいのだろうか?

あんなに苦しそうに咳をしていたヴァイン様に、何かわたくしは報えるだろうか?


「...ヴァインが、病を発症してから五年も生きながらえているのは、奇跡に近いと言われている」


会いたいと連絡があったあの日、ヴァインは生死の境を彷徨い、三日も意識が戻らなかったそうだ。

「エルノワに、...会いたい」

意識の戻ったヴァインは、目覚めて最初にそう口にしたと言う。朦朧とした意識の中で言った言葉であったようで、のちにエルノワを呼んだと伝えられたヴァインは、それは狼狽えたそうだ。


「そんな事しなくていい、と必死に言っていたが、もうこちらにむかっている、お前は自分の妻が会いにくるのに追い返すのか、と聞いたら変な顔をして黙ったよ」


「あれは嬉しいのと恥ずかしいのと、怒ったふりが混ざった顔でしたわね。本当に、素直じゃない」


「ねぇ、エルノワ嬢。従兄弟殿はね、意地っ張りなところがあって素直じゃないけど、君の事となるととたんに子どもに戻ってしまうんだ。

ヴァイン本人は非常に気にしているけど、この五年間誰にもヴァインの病は伝染っていない。医師も伝染らないと明言している。

だから、今日来たばかりの君にお願いするのは申し訳ないんだけど、ヴァインと共に過ごしてあげてくれないか?

君がむかっていると知ってから、本当に見違えるように元気になったんだ」


ヴァインの命の期限は、本当に限られている。


「わたくしで、お役に立てるのであれば喜んで」


自分を役に立たない出来損ないだと言った少女は、今こんなにも必要とされている。




「私の一番のお気に入りの絵はね、一番最初に送ってくれた君の自画像だよ」


毎日、話しをした。

時には、丸一日意識が戻らず、横たわるヴァインに一方的に話しかけたりした。


「でも、この君は四年前の君だから、今のほうが大人っぽいね。綺麗だ。私の為に今の君を描いてはくれないかい?」


絵の具は独特の匂いがあるから、ヴァインの体調に良くなかろうとキャンバスをヴァインの部屋に持ち込み、鉛筆の濃淡で自画像を描いた。鏡で自分を見ながらエルノワがエルノワを描く姿を、ヴァインは笑顔で眺めていた。


「ヴァイン様」


「ねぇ、その、様ってやめないかい?

私もエルノワをエルと呼びたい」


なんだかとても夫婦のようじゃないか?


そんな事を言われたら、頑張るしかないではないか。


「ヴァ、ヴァイン...様」


「惜しい」


「ヴァイン...」


「なに?エル」


真っ赤な顔をのエルノワを、ニヤニヤと笑いながらからかうヴァイン。

少し悔しくて、エルノワはやり返したくなった。


「ヴァイン」


「なーに?エル」


「大好きです」


「えっ!?」


「鉛筆を、取ってまいりますわね」


「エル待って、鉛筆ならそんなにあるじゃない。エル、エル」


恥ずかしくて、逃げ出してしまった。


手紙のやり取りでずっと、いい人だな、と好感をいだいていた。

会って、話して、好きになった。

好きだと、愛していると、言葉でも態度でも伝え続けてくれる。

もっと好きにならずにいられるだろうか。

わたくし達は夫婦なのだ。

好きあっていていいのだ。許されるのだ。


この想いをどう伝えればいいのか悩んでいたが、見本となる先生は一番近くにいた。

わたくしだって、負けじと伝えていこう。


書けている所まで投稿しました。

お話そのものは出来上がっているので、近日中に完結まで突っ走りたいと思います。

宜しくお願い致します。

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