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ツカサ、冒険者に復帰する。そして、すぐさま廃業する。


 「モイッスロさん、森に入ったりしないだろうか? 心配だなぁ」


 俺は皿を洗いながらそう独りごちた。

 店内を見回すが客の姿はない。開店当日だしな。

 グルメ雑誌もネット広告もないこの世界じゃ誰も来なくても無理がない。

 一応、開店前に知っている限りの知人には声をかけたが、彼らにも彼らの都合がある。

 仕事や用事を放り出してまでわざわざこの店まで足を運べとは言えない。

 今の所、俺の知り合いで来てくれたのはゴルウィンさんだけだ。

 

 「……はぁ、このままじゃ身が入らないし、今日は閉店するか。開店したばっかなんだけどなぁ」


 このミュゼの町は田舎町だ。そして平和だ。この辺りには滅多に強い魔物も出ない。

 強い魔物が無数に犇めく迷宮都市もない。

 ある程度経験を積むまで冒険者は安全なこの町を拠点に活動するが、ある程度の実力がついたところでもっと稼げる危険な地域へと出て行ってしまうのだ。

 だから、この町にいる冒険者は一番下のかけ出し階級であるウッドやその一つ上のアイアンの冒険者が殆ど。中堅と呼ばれるようになるブロンズ以上の階級の層が薄い。

 この町には想定外の以外の事態が起こったときに対応できる人材がいないのだ。

 これは非常によろしくない。


 俺は店の奥へと引っ込むとつい数日まで使っていた装備を引っ張り出す。

 そしてそれを慣れた手つきで着用していく。

 

 黒竜の角があしらわれたフルフェイスの黒兜。

 同じ竜の鱗で作った革の鎧。リッチの纏っていた黒いぼろ布から作ったマント。

 火山の奥深くで見つけた黒金と呼ばれる珍しい金属から作られた剣。


 見事に黒い装備ばっかり集まったと思う。

 だが、どれも性能は一級品だ。

 俺の今使っている調理器具を作ってくれたドワーフ達の仕事によるものだ。

 そろそろ彼らも俺の店に招いてやりたいと思う。

 冒険者駆け出しの頃からずっとずっと世話になりっぱなしだ。


 「……さてと、一仕事してきますか」


 俺は準備体操を入念に行った後、店の入り口に掛けてあった『商い中』の札をひっくり返すと店を出た。

 店を出て向かった先はミュゼの町の冒険者ギルド。


 ギルドに入ると、俺は特に迷うこともなく受付へと進んでいく。

 受付で俺を出迎えてくれたのはなんとゴルウィンさんだった。

 そう言えばゴルウィンさん、この国の冒険者ギルドから勧誘がきてるって言ってたな。

 それがまさかこことは、これは非常に都合がいい。


 「あの~、新人冒険者登録をお願いしたいんですけど。元ゴールドランクだったのでそれなりに戦えると思います」

 「……おいおい、ゴールドランクはそれなりじゃねぇよ。で、ツカサ。これはなんの風の吹き回しだ。店はいいのか?」

 

 「……あはは。客が来なくて暇してたもので。それより今、この近くで魔物の発生状況に異変とか起こってません? 俺の気にしすぎだったらいいんですけど」


 「……ああ。よく気づいたな。ちょっと前にモイッスロと言う青年がミュロンの森でシルバー級の魔物の発見したと報告に来た。どうにも話を聞くにオーガを見たって話らしい。今、急いで調査班を編制しているところだ。しかし、ひよっこに任せるには重い案件過ぎて丁度どうしようか悩んでいたところなんだ。この町にはアイアン級ばっかりでその一つ上のブロンズがようやく一人。ブロンズよりも上のシルバーなんていないからな」


 「そりゃ大変だ。だったら多分、俺が力になれると思いますけど。協力いります?」


 「……正直。お前に行って貰えると助かる」


 「はい、では登録お願いしますね。魔物が出る森への立ち入りは原則冒険者以外認められてませんから」

 

 この世界には魔物のいる森と全くいない森がある。

 その差が何かというと主がいるかどうか。

 主とは非常に強い魔物で少なくともゴールド級の強さがあるとされる。

 昔、日本にいた頃やったゲームで言うところのボスモンスターだな。

 多くは森の奥深くまで入っていかないと襲われない。そして縄張から出てこない特徴がある。

 今回のオーガは違うだろう。浅い部分で発見されたことと、ランクがシルバー相当な点から見ても間違いない。

 また、魔物から手に入る素材を優先して敢えて主を倒さない選択を取る場合も多い。

 その辺の判断はその地域を治める領主の裁量による。

 魔物の出る森は危険だ。だから戦う力のある冒険者しか入れない。

 もし、木こりなどが木を得るために森へ入る場合、魔物がいない森にのみ限られる。


 尤も、森の前には見張りがいないから殆ど形だけになっちゃってる制度なんだけどね。

 一応決まりは守っておかないと。

 

 「新人冒険者カイタニ・ツカサ依頼に行ってきます」


 「こりゃどえらい新人もいたもんだな」

 

 俺は聞いた情報を元に冒険者ギルド内から直接ミュロン森林へと向かった。

 どうしてこんな事が出来るか?

 それは、ここがスキルがある世界だからできるのだ。

 ミュロン森林は一度行ったことがある。

 一度行ったことがあれば【瞬身】のスキルの対象範囲となる。

 【瞬身】のスキルは任意の場所に一瞬で飛ぶ能力。距離や遮蔽物も問わない。

 発動も一瞬ですむ。名前の響きから戦闘中に相手の背後を取ったりするだけのように聞こえるが、実際はもっと高性能なテレポート手段である。距離を伸ばせば大陸も渡れてしまう。

 勿論、移動を短距離にすれば相手の背後をつく使い方だって出来る。


 俺は【瞬身】でミュロン森林のすぐ前までやって来た。

 そして森へと入る。

 しばらく探索していると、大きな足跡を俺は見つけた。

 俺は森の地面を注意深く観察しながら進んでいき、そして目標と接触する。


 大きな角を持った体長ニメートルほどの赤い鬼。

 その巨体が森の木々の幹の間を行ったり来たりで、赤の明滅をおこしていた。


 「ちょっと悪いけど、死んで貰うね」


 俺は瞬身を発動。目的地はオーガの後ろ。

 瞬身発動と同時に【神・金剛力】を発動。

 これは単純に全身の筋力を十倍にするだけのスキルだ。単純故に強い。

 スキルでの強化なので、過度な運動疲労などで筋肉にダメージが行ったりすることもない。

 実は使い放題のスキルである。

 だが、力加減をミスるとコップを掴むつもりで割ったりと、割と悲惨な目に遭うので普段は極力使わないで生活している。

 最後に常時発動型のスキル【剣の極み】によって俺の振るう刀は理想的な線を描いて、オーガの首をストンと抵抗も無く切り落とすことに成功する。


 「さて、帰るか」


 俺はオーガの首をもって【瞬身】スキルで冒険者ギルドに戻る。


 「ゴルウィンさん。オーガの首もってきましたよ。そういうわけなので今日限りで冒険者を廃業させて頂きます」

 「……かぁ。相変わらず仕事が滅茶苦茶早ぇな。普通、罠にかかるまで待ったり、討伐の準備から一週間はかかるもんだぞ。真正面から魔物を一方的に狩れる冒険者なんてお前くらいだっての」

 

 「そうですか。簡単な仕事ですよ。それと、俺は真正面からは魔物を倒してませんよ。大体の魔物は後ろから首狩れば一発です。ちょっと卑怯臭いですけど」


 「……卑怯も何も、だからそれが普通は出来ねぇんだっての」


 俺はオーガの討伐報酬を受け取った。金貨で二枚。

 シルバーランクの魔物の討伐なのでゴールドランクの依頼報酬より一桁落ちるけど、まぁ上々だろう。

 およそ十分で金貨二枚。

 この世界での金貨一枚の価値は日本円で約五十万円。

 金貨二枚だから今回の依頼報酬だけでも百万円。

 時給換算すると六百万。一般サラリーマンの年収を越えているのがおかしい。

 それくらい冒険者業は稼げる。

 稼げるからこそ俺は資金力を得られた。

 おかげで店を持つことだって出来たのだ。


 「……もったいねぇなぁ。森の主を討伐さえすりゃ、お前もすぐにプラチナランクなのにな。なんたって、プラチナに上がる唯一の条件が森の主の討伐だからな。お前なら苦労しないだろ」

 

 どうなんだろう。戦ったことはないなぁ。

 そもそも、領主が森の主を倒して欲しいって依頼を出すこと自体が稀なんだよな。

 多くの場合は森の開拓よりも魔物資源の方が金になる。だからこそ、勝手に倒すわけにも行かないし。

 一度俺に森の主を倒してくれって依頼が来たことあったけど、それやっちゃうと多分貴族のお抱えコースになっちゃうんだよね。プラチナランクの冒険者を領地に囲っていることが貴族のステータスって俺も風の噂に聞いたことがあるんだよね。貴族の命令を基本的に平民は断れないしね。

 だから俺は森の主を倒すことに興味は無いかなぁ。

 店を開いた今となっては尚更だ。


 「それよりゴルウィンさん。冒険者廃業の手続きを」


 「……了解だ。冒険者をやめさせるのはもったいねぇが、美味い料理作れる奴を冒険者にしておくのももったいねぇからな。認めてやるよ」


 ……ふと、俺は気になったことがある。

 ゴルウィンさんはギルドに就職したばかりのはずだが、誰にも確認取らなくていいんだろうか?

 ゴルウィンさんって中途採用の職員だよね?


 「あれ、ギルドマスターに確認しなくていいんですか?」

 

 「大丈夫だ。きっちり確認してる。現に俺がこうやって手続きをやっているだろう」


 ん?


 「……それってつまり?」


 「そうだ。俺がミュゼの新ギルドマスターだ。どうだ、驚いたか?」


 「え、ええ。でも、ギルド職員になったってのは聞きましたけど、それにしてもいきなりギルドマスターなんですね」


 「おう? 元シルバーのくせにギルドマスターからのスタートは生意気だとでも思ったか?」


 「そ、そんな事思ってませんよっ!」


 「……まぁ、俺もこの話が来たときは最初は驚いたもんだ。だが、考えてみりゃ納得出来る話でもある。ゴールド冒険者はわざわざ面倒なギルド職員なんてやらねぇよ。冒険者引退したら、後は悠々自適の隠居生活だ。仕事なんかやらなくても引退までに莫大な財産築きあげるからな。だから専らギルド職員になるのは稼ぎきれずに引退したシルバー冒険者の方が多いんだよ。だから俺にも白羽の矢が立ったって訳だ。冒険者のノウハウを熟知した経験豊富なシルバー以上の冒険者。これがギルド本部が一番欲しい人材だそうだ。ギルドマスターに必要なのは魔物に対する実戦経験と知識。冒険者時代に鍛えた判断力。そこに体が動く動かないは関係ねぇって訳だ」


 「へぇ。ギルドマスターってギルドの受付とかやっている職員がコツコツ出世していくもんだと思っていた」

 「ああ、そういう奴は支部のギルドマスターにはならずに本部に移転していくよ。むしろ生え抜きのギルド職員が支部のギルドマスターに収まるのは出世コース落ちの意味が強いんじゃないかと俺は思うぜ。俺は本部でドロドロの権力争いするよりもミュゼの田舎でペーペーの新人の面倒みる方が性にあってるから良いんだけどよ」


 ゴルウィンさんらしいな。昔からこの人は面倒見が良かったっけ。

 俺が石ころで戦っているのを見て鍛冶屋を紹介してくれただけじゃなく、新しい剣を買うから古いのはやるとそれっぽい理屈を付けておさがりをくれたのもこの人だ。

 おかげで剣の修理にも困ることはなかったし、鍛冶屋に顔を繋いで貰ったから防具を新調することも出来た。

 この人がいたから俺は異世界で順風満帆な生活をスタートすることが出来た。


 ……やっぱり、肉じゃが程度じゃ恩を返せた気がしないな。


 また今度何か別の形でお礼を考えよう。 


 俺は【転移】スキルを発動せずにミュゼの町を歩いて店への帰路を辿る。


 折からの風が紅く色づいた葉っぱを乗せていった。もうすぐ冬が来るなぁ。

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