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ゴルウィンと恩返しの肉じゃが


 ツカサ・カイタニという少年に出会ったのはもう十三年前になるだろうか?


 初めて出会った時はゴブリンの群れに襲われてションベンチビって泣いていたんだっけか?

 そんな男が今や一端の冒険者の肩書きであるゴールドランクに上り詰めたってんだから驚きだ。

 俺が助けに入らなかったら間違いなく死んでいたモヤシ小僧がだ。


 結局ゴールドに上がれずつい一月ほど前にシルバー止まりで引退した俺は……あ~あ、すっかり抜かされちまったな。

 

 今や奴はゴールドランク。いや、やめて今はただの小料理屋の店主か?

 怪我で引退するまで結局ゴールドランクに上がれなかった俺からすると、勿体ねぇって思う。

 ツカサはまだ若い。まだ三十にもなってねぇ。身体欠損もない。

 まだまだ冒険者稼業で二十年は食える。

 下手すりゃ冒険者にとって憧れの対象であるプラチナランクになってもおかしくはなかった。

 小料理屋の店主なんかやるよりもよっぽど稼げるはずだ。


 だから、ツカサから料理店開くから食べにきて欲しいと手紙を貰ったときは心底驚いた。

 ツカサが店を構えるのは海に面し穏やかな気候の平野を持つ、漁業と農業で豊かなカタリル王国の辺境の田舎町ミュゼ。人口が三百人ほどしか居ない小さな町だ。

 どうやらツカサは使う食材にこだわるためにこの地を選んだようだ。


 ツカサは昔助けて貰った礼をどうしても料理という形でしたいらしい。

 冒険者は助け合いの精神が基本だ。命を助け、逆に助けられるなんて日常茶飯事だ。

 別に大した事はしてないし礼などいらない。

 それでもどうしても礼をくれるって言うなら、俺は手に掴めるくらいのの銀貨を貰えればそれで満足なんだがな。

 その金で浴びるほどエールを飲んでやる。

 そもそも奴は【料理】スキルを持ってねぇ。

 持っているのは確か【剣の極み】と【瞬身】、更に【神・金剛力】のトリプルホルダーだったはずだ。

 普通の人間はスキルを一つしか持ってない。極まれに二つ持つ人間がいると聞いたことがあるが、俺は出会ったことがねぇ。目の前の三つ持ちの男以外にはな。

 三つあれば一つは外れを引いてもおかしくないのに奴は一個だけでも強い戦闘系スキルが三つもある。

 戦いに生きるなら全部超大当たりのスキルだ。

 

 だからこそ俺は未だに信じられねぇ。奴は戦いに生きるべき男だ。

 料理なんかの為に恵まれすぎた才能をどぶに捨てる気かとな。


 ……だが、奴の決めた道だ。

 俺がとやかく言うことでもないだろう。


 俺が店を尋ねると、白い変な格好をしたツカサが俺を出迎えてくれた。

 俺にとってツカサのイメージは黒。

 黒髪黒目もそうだが、冒険者時代は黒龍の革鎧を全身に着込んで、おまけに黒い大剣まで背負っていた。

 黒き死神。それが奴の異名だ。それも冒険者なら誰でも知っているかなり有名な異名だ。

 だからその正反対なイメージの白に違和感しかねぇ。

 変な服の名前はカッポウギと言うらしい。

 俺は真新しい店内へと案内される。

 爽やかな木の香りがする落ち着いた内装だった。ヒノキとか言う木を使っているらしい。


 俺は厨房の中が見えるカウンター席に座らされる。

 そしてすぐにツカサはカウンターの中へと入っていき、俺と向かい合う形となる。


 「ツカサ。冒険者辞めて料理人になったんだって? お前料理スキル持っていなかったよな。大丈夫なのか?」


 「ああ、はい。続けていく自信はありますよ。俺は元々戦いは好きじゃなかったですからね。他に稼ぐ手段がなくて仕方なくやっていただけで。ゴルウィンさんという初めてのお客さんも来たことで、今、ようやく自分の居場所が得られたって気分です」


 「……そうか。で、お前は俺に何を食わせる気なんだ? まさか実験目的とか言うんじゃ無いだろうな?」


 「いやいや、ちゃんとしたものをお出ししますよ。まずはこれです」


 ツカサは、そう言うと俺の目の前に小さな深めの皿を出してきた。小鉢という皿らしい。


 「これはなんだ?」


 「肉じゃがです。故郷で俺の母がよく作ってくれた俺の一番の好物です。店を開いたら最初に出す料理はこれにするって決めてました」


 「……これ、本当に料理なのか? 何だか泥みたいに茶色い汁に浸ってるぞ?」


 「それは醤油です。それに味醂ってお酒を加えて作ってます。母に酒を禁止された父がこっそり味噌蔵の一角で違法行為をしているのを見ていなければこれは造れませんでしたね。父の酒に対する斜め上の情熱に感謝です。そういう意味では父と母の合作とも言えますね。俺の思い出の味です。冷めないうちにどうぞ」


 正直、食いたくねぇ。

 これはパンでもないし、スープでも無ければ、ステーキでも無く、エールでも無い。

 間違いなく料理スキルでは作っていない。

 

 だが、毒ではないだろう。

 ツカサがそういう奴じゃないっていうのは顔見知りである俺が一番わかっている。


 とりあえず、スープに入っている芋に似た食材をフォークで突き刺して口へと運ぶ。

 

 ……なんだ、これは。


 美味い。

 熱々の芋が口の中でほくほくとほどける。

 初めて食べる味で表現しがたいがコクのある塩味が芋にほどよく染みて絶妙だ。

 その後の芋独特の甘く優しい後味が塩身を上手く消してくれる。

 だからもっと食べたいと思う。

 俺は皿の中にあった芋を二個、三個と口へ運んでいく。


 「これは肉じゃがですからね。芋じゃなくて肉もメインなんですよ。芋ばかりじゃなくてそっちも食べてみて下さい。旨味の強いすじ肉を叩いて柔らかくなるようにじっくり煮込んだんですから」

 

 薄いぺらぺらとした肉。おまけに筋張っている。

 どうみてもステーキにできずに余った切れっ端の寄せ集めじゃねぇか。

 もっと肉ってのは噛み応えのある塊の奴が美味いんだ。

 それに味の濃いソースをかけて食う。

 肉を噛む度にソースがしみ出してくる。それが最高なんだ。

 どこの店もソースの味とステーキ肉の厚さを競っているからそれは間違いない。


 そうは思いつつも口へと運ぶ。だが、芋は美味かった。

 この薄い肉にも意味があるに違いない。


 ……すっととろけて無くなった。柔らかい。

 肉の旨味が一気に口の中に溶け出した。

 なんだこれは!

 肉は分厚い方が美味いという概念がぶち壊された気がした。

 薄い肉なのにしっかりと肉の味はする。

 肉は芋よりも味が濃い。すると自然に芋がフォークが伸びる。

 芋を食うと、今度は肉に。絶妙だ。

 芋と肉にそっと添えてある赤い野菜も甘みというアクセントがあってそれもまた美味い。

 気づけば皿が空だった。

 

 「……もうないのか?」


 思わず言葉に出てしまった。

 それくらい美味かったって事だ。

 

 俺の言葉にツカサは苦笑しながら答えた。


 「ああ、今だしますよ。ゴルウィンさん、お酒飲みます? うちはエールは無いですけど日本酒がありますよ。米のお酒です。味醂をベースに知り合いのドワーフたちと試行錯誤して作ったんですよ」


 「ああ、出してくれ! コメってのはわからないがどうせそれも美味いんだろ!」


 「じゃ、どうぞ」


 そう言ってツカサが酒を注いだのは馬鹿にしているのかってくらい小さなコップだった。


 「ちょっとずつ味わって飲んで下さいね」


 俺は小さなカップにつがれた酒をまじまじと眺める。

 澄み切った透明な酒だ。こんなのみたことねぇ。水じゃねぇのか?

 

 おそるおそる俺はカップに口をつける。

 そして、それを一気にぐいっと傾けた。

 甘さの奧にツンとした刺激がある。そしてフルーティだ。

 エールよりも酒精が強い。当てが欲しい。

 そう思ったときに肉じゃがの追加がポンと目の前に出てくる。

 俺はそれにフォークを伸ばす。


 「しかし、こんな酒どうやって作ったんだ? 果物でも入れたのか?」


 「いえ、入れてませんよ。そのお酒はほぼ全部これでできてます」


 俺の目の前に虫の卵のような白いつぶつぶが山のように盛られた器が置かれる。


 「……げ、なんじゃこりゃ」


 「あ、変な物じゃありませんよ。この植物の実です」


 そう言ってツカサが俺に見せてきたのは川辺にたまに生えてる雑草だった。

 ……ほんと、滅茶苦茶な料理店だな。ここは。


 「肉じゃがとよく合いますから一緒に食べてみて下さい」


 もう言われるがままだ。料理に関してツカサの言うことには間違いが無い。それを俺は確信した。

 案の定美味かった。米は肉じゃがの味を邪魔しない。

 それどころか柔らかく包んでくれる安心感のような物さえある。

 そして、腹がずっしりと膨れる。肉を食って米を食う。芋を食って米を食う。

 腹が満たされる度に幸福な気持ちになる。


 「……さて、肉じゃがを楽しんで貰えたところで次の料理を出しましょうかね」

 「俺にこの店の常識はわかんねぇよ。お勧めを頼む」


 「じゃあ、次はこれです!」


 ツカサが自信満々に出した料理はやはり俺の知らない物だった。

 それが次々に出された。どれもこれも肉じゃが程じゃねが美味かった。

 俺は腹一杯になっても自制が効かずに料理をただひたすら詰め込んだ。

 だが、その幸せな時間は長くは続かない。

 ついに俺の胃が悲鳴を上げたのだ。


 「……っぷ。ああ、食い過ぎだ。ったく、ふざけた野郎だ! 冒険者も一流。料理も一流ってか。つくづく自分がちっぽけに見えるぜ。悔しいからあの時見殺しにしておけば良かったな。そしたら今、悔しい思いをせずに済んだ」


 「えええっ!」


 「……冗談だ。また来る。実はこの国でギルドで働かないかと勧誘が来ていてな、どうするか迷ってたんだ。だけど、この店に出会って決めた。つくづく、お前を助けて良かったと思うよ。こんな美味い飯が食えたんだからな。俺が保証する。この店は間違いなく繁盛するよ」


 そう俺が言うと、ツカサは昔俺に助けられたときと同じ照れたような恥ずかしそうな表情を見せた。

 ……ほんと、変わってねぇな。あと、肉じゃが美味かったよ。

作者は酒が飲めません。

弱いですし、色々試したけどれを飲んでも美味いと思ったことは無いです。

むしろマズ……酒好きに怒られるのでこれ以上は言いません。

専ら炭酸ジュースな人間。なのに最近胃が弱って炭酸ジュースも引退した悲しい人間。

何が苦手なんだろう? そう考えた結果、アルコールの味が苦手だと分析しました。

カクテルみたいのでもアルコールがなきゃ美味いのにと思っちゃいます。

そして、割高なノンアルコール飲料を飲むくらいなら安価なソフトドリンクの方がむしろ美味い件。

酒はもう何年も飲んでないですねぇ。

なので、酒の味に関する表現がおかしい場合があります。

作者がマ……と思っている物を無理矢理美味しそうに書いてるんで。

……酒飲まないと付き合い悪いとか言ってくる人なんなんですかね。飲むしかないじゃないか。

さながら一人だけ青汁気分。健康飲料青汁と違って肝臓にも悪いしいいことない。

更に言うと、酒を飲むのにいらっとくるせいか酔うと攻撃になるみたいですね。対人に悪影響。

そして酔うと大体頭痛とか吐き気とか悪酔いする。例えるなら重めの風邪引いた感じ。

これ以上に、酒が合わない人いるのかな? いっそ無くなれば……いや、よそう。


ファンタジー世界のドワーフ。お前ら狂ってるぜ! いや、狂ってるのは俺か?


お酒の飲める方。おかしな点があったらご指摘下さい。

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