プロローグ
夜中、腹が減ったので書いた。
そしたらもっと腹が減った。
文章の表現の幅を増やすのに料理という題材を選びました。
作者の文章練習用作品。
メインにしている連載抱えているので気が向いたときだけ書く。
まだ2話目までしか書いてない。
それでも良かったらおつきあい下さい。
俺は甲斐谷司
今年で二十八才。
異世界では名と姓が逆で、ツカサ・カイタニと呼ばれている。
俺の職業は昨日まで冒険者。
ゴールドランクで冒険者の階級で言うとプラチナに次ぐ二番目だ。
俺は十五才の時に日本からやって来た。所謂異世界召喚って奴だ。
俺が異世界にやって来た事に大した理由は無い。
勇者とか魔王とか世界を救えだとかそんな話は一切聞かなかった。
それもそうだろう。
俺が召喚された理由は神さまの暇つぶし。ただそれだけだ。
俺の人生を眺めて何が楽しいんだか。今も多分俺の事を見ているんだろう。
幸い、神さまの観察対象となる事に対する先報酬として少しばかりの能力恩恵を得た。
具体的には、この世界に降り立った瞬間に俺は剣の達人になった。
幸い魔物を討伐することで生業を建てる冒険者と言う仕事があった。
だから、俺はそれで身を立てる事が出来た。
俺は冒険者として一生懸命働いた。
期間としては十三年程か。
ゴールドランクの冒険者は全体の五%に満たない。プラチナになると更にその五分の一だ。
ランクとは冒険者の腕を顕す称号。ゴールドとなればそれなりに難しい仕事が来る。
その分報酬がいい。
だから俺はたった十三年で生涯安泰とも言えるだけの財産を手にすることが出来た。
稼ぎ終わったので俺は冒険者業を引退した。
つい、昨日のことだ。
ギルドのマスターには辞めないでくれと懇願された。
その時初めて知ったが、俺はゴールドランクに最年少で昇格したスーパーホープだったらしい。
他の冒険者がゴールドに到達できるのは三十代後半ぐらいなんだとか。
俺は間違いなくプラチナランクになれる逸材だと必死に引き留められた。
だけど、俺は今後の人生でやりたいことがもう決まっている。
俺は料理を出す小さな店を開こうと思う。
と、言うのも俺はこの世界に関して一つだけ許せないことがあるからだ。
この世界には【料理】スキルなるものが存在する。
そして、【料理】スキルは材料さえあれば一瞬で特定の料理を作り出すことが出来る能力である。
例えば、小麦粉、水、塩、バター。
これらを用意すると【料理】スキルさえあれば調理器具もなしに一瞬でパンを作り出すことが出来る。
そして、その出来は【料理】スキルのレベルに完全に左右される。
スキルのレベルが低いと出来上がるのは黒くてカチカチの黒パン。
逆に高いと白いふわふわのパンが出来上がる。
かなり便利なスキルだと思う。
思うが、この【料理】スキルには致命的な欠陥がある。
作れる料理のレパートリーが非常に少ないのだ。
そのレシピを全公開しようと思う。
・パン
・野菜スープ
・エール
・ステーキ
……はい。
たったこれだけ。
それだけだったらいいのだが、この世界において料理の概念はこの三つしか無い。
酒を入れても四つだ。
どこの酒場に行っても出てくるものは同じ。
違いがあるとすれば店主の【料理】スキルのレベルくらい。
後は野菜スープに使う材料の差くらいしか無い。
この世界で美味い料理というのは即ち【料理】スキルのレベルの高さなのだ。
毎日二食ずっと同じメニューの繰り返し。食事は単なる栄養補給手段。
そもそも俺は料理が好きだった。異世界に呼ばれなければ将来料理人になりたいと考えていた。
栄養バランスは整っているのかも知れないが、十五才まで日本で育った俺には耐えられなかった。
俺は【料理】スキルがなまじあるから料理が発展しなかったのではないかと思う。
何せスキルだけで料理ができてしまうから、この世界には調理器具が無い。
こんなスキルでしか料理が作れないと考えられている世界で【料理】スキルが無い者が料理なんて作ろうと思うはずがない。
無い者は自分で作ろうなどと考えずに、大人しくスキルを持っている者に頼む形になる。
もしくは素材を丸かじり。料理屋に料理を頼むことのできない貧民層の大体がこれだ。
つまり、料理人の総人口が少ない。実に勿体ないと思う。
何よりおかしいのが料理の腕を上げるために料理人が冒険者登録していること。
理由は勿論、魔物を倒してスキルレベルを上げるためだ。
さて、俺には料理のスキルは無いが料理の知識はある。
更に言うと俺の実家は味噌、醤油蔵を持っていた。
俺は実家の手伝いの経験もあって実は醤油と味噌の作り方を知っているのだ。
俺が料理人になりたいと思っていたのも、家族でよく食事に行ったお得意先で馴染みの日本料亭の店主の包丁捌きに憧れたからだった。飾り包丁、素直にすげーって思った。
そしてその店主は父と高校の同級生で友人という間柄でもあった。
その縁もあって、将来修行させてくれと俺はよく頼み込んでいたものだ。
何度か料理の指導を受けたこともある。
だから俺は異世界で料理屋を出来ると踏んでいる。
幸いこの世界の食材は地球のものと殆ど共通なのだ。
むしろ違いがあるとすれば、魔物が居る分だけこちらの方が素材が多い。
多い分には問題がない。地球と同じ食材が十全に使える。
事実、俺は自分の食事に関しては途中から自分で作っている。
と、いうのも冒険者時代に大豆や米を見つけるも出来たからだ。
しかし、この世界ではただの雑草扱いだった。
だが、そこにも抜かりは無い。
以前、魔物退治の依頼で訪れた村で知り合った村人に資金援助して量産を頼んでいるからだ。
味噌や醤油に関しては一応実家の秘伝だったから、異世界とはいえ誰かに作らせるのは気が引ける。
店で必要な分を自分で生産しようと思う。
俺は昨日で冒険者を辞めた。
そして、今日からは料理屋の店主になる。
さぁ、異世界。料理スキルが無い俺が本物の料理って奴を教えてやるぜ!