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七話 異界から来たモノ

 

 仕事帰りに新菜(にいな)さんと待ち合わせて「宮中珈琲」へと場所を移す。

 そしてミルクキャラメルカフェオレとブラックコーヒーを注文する。

 一息入れたところでニコニコと座っている新菜さんに質問を始める。

「それでは、昨日の約束をお願いします」

「あ、はい。実はですね──」

 新菜さんの話しは再び僕を困惑させた。

 アビエット──新菜さんやナインさんの所属する世界以外の異世界からあの三人は来たと言うのだ。

 なんでも彼らは独自の特殊能力を持っているらしく、外見に惑わされないでと忠告を受けた。

 けど、僕が見た時、三人とも正座していたけど。あれは一体?

 そんな話しはすぐに終わって、昨日買ったスイーツの話題へと変わっていった。

 むしろこちらが本題のような感じ。新菜さんが何を考えているかわからなくなってしまう。

 会話は尽きないので楽しいけれど。


 ◇


 久しぶりに「星の囲炉裏」に来たらナインさんにからまれた。

 従業員のはずなのに隣に座って僕のつまみに手を出している。

「な~白滝(しらたき)~。たまには新菜とこいよ」

「ナインさん、僕の砂肝を食べないで! さきやんも何か言って!」

 さきやんに助けを求めても、注文の品を乗せたお盆を運んでいて無視された。

 もぐもぐと幸せそうな顔で焼き鳥を頬張っているナインさんを見てると仕事してと言いたくなる。

 ビールを注文するとナインさんが厨房に行き、ジョッキを二つ持って来て一緒に飲み始める。

「……」

 (あき)れてナインさんを睨むが澄ましてジョッキを傾けていた。何か言う事はないのか?

 そこに誰かが僕の肩をつかんだ。

「白滝君!?」

 振り返ると八巻(やまき)さんと仲林(なかばやし)君が目の前に。

「あれ?」

「あれ、じゃないの! 来てたんだ」

「先輩ずるい!」

 怖い顔の八巻さんと笑顔の仲林君。えらく対照的だ。

 二人は僕たちのいるテーブルに座り、八巻さんが目でナインさんを説明しろと示している。ああ、そうか。

「えっと、この方はナインさん。さきやんと同じここの従業員で新菜さんの友達」

 紹介したナインさんはモグモグしたまま頭をさげた。

「あーそうなんだ。最近来てなかったから、新入りさんなんだね。よろしくね」

 八巻さんが苦笑いで納得していて、その横で悔しそうにしている仲林君。

「と、とりあえず八巻さんと仲林君は注文して。ほら、ナインさん注文とって!」

「え~~! なんで私がやるんだよ……」

 ブツブツ言いながらもナインさんが立ち上がり、それぞれ注文を聞いて厨房へと戻っていく。

 ふー、なにか安心した。


 ナインさんがいなくなったところで仲林君がまくし立ててくる。

「ちょっと先輩! 近頃おかしいよ!? なんで、美人ばかりと知り合いになるんです?」

「えぇえ!?」

「ちょっと待て、仲林! 私は?」

 僕が驚いている前でしかめ面した八巻さんが仲林君に詰め寄る。

「い……いえ、もちろん八巻さんもキレイですから! ね? 先輩!」

「そ、そう。営業にしておくのがもったいないくらいの美人だよね」

「ホントに~? ホントかな~」

 急に褒められて照れた八巻さんがニマニマし始めた。よかった、怒ってない。

 そこにナインさんが戻って来た。

「はいよ、注文の品。あと、追加分も。よろしく白滝」

「ちょっと! もつ煮と唐揚げって、ナインさん!?」

 僕の言葉もお構いなしにナインさんが座って、先ほどの続きを始める。あぁ、もつ煮が。

「あははは。面白い! いいね! じゃあ、改めて乾杯!」

「カンパーイ!!」

 楽しそうに八巻さんがグラスを上げ、皆で乾杯する。

 初対面なのにすっかり打ち解けているナインさんは八巻さんと楽しく話をしていた。


 頃合いになり店を出て八巻さんと仲林君に駅で別れて家路へとつく。

「なぜ、ナインさんがいるの!?」

「そりゃ帰るから」

 二人に手を振りながらニッとするナインさん。

「言ってなかったけど私、昼のシフトなんだ。夜いるのは、さきやん先輩の手伝いとあんたが来たからだな」

「そうなの!?」

「あ! あと、ナインでいいよ。“さん”とかつけられるとムズかゆいからさ」

 にししと笑うナインさ…、ナイン。

 知らなかった。あの店、昼もやってたのか。

 地元の駅でナインとも別れ自宅へと向かう。

 明日、新菜さんと八巻さんを誘って昼食に行ってみようかな。

 あっと、仲林君も誘わないと。


 ◇


 じわりと汗が噴き出てきた。

 湿った生暖かい夜の風が川の匂いを運んでくる。

 そろそろ梅雨明けだなと天気予報を思い出しながら土手を散歩している。

 最近はいろいろな出会いが多く、目まぐるしく日々が過ぎていく。

 起こった出来事を頭に浮かべながら歩いていると、前方の土手の斜面に誰かが座っているのが見えた。

 こんな夜に珍しい。

 きっと訳アリだろうと知らぬふりをして通り過ぎようとしたとき、その人物が立ち上がった。

「よお、白滝」

「あれ!? ナイン?」

 僕がビックリしているとナインが斜面を上がって目の前に来た。

「匂いでわかったよ。しかし、ホントなんだな。散歩好きってさ」

「ど、どうしてここに?」

「のんびりしたいときは時々ここにくるのさ。町は騒がしいからね」

「あー、なるほど。わかる気がするよ」

「はは。お前は良いヤツだな」

 楽しそうなナインと連れ立って散歩を再開した。ナインは僕の散歩に付き合うようだ。暇なのかな。

 たまには二人もいいかもしれない。


 しばらくしたところで、突然ナインが歩みを止めた。

「どうした?」

「イヤな匂いがするよ。この世界じゃ、嗅いだことのない匂いだ」

 キョロキョロとナインが辺りを見回して匂いの元を探しているようだ。

 僕も見渡してみたけど街灯の無いうす暗い周囲では何もわからない。

「なんかヤバイ気がするよ……白滝は私から離れるなよ」

「わ、わかった」

 いつの間にかナインの両手に銃のような物が出現していた。

 前はこれで撃たれたっけ。思い出すだけでも怖いな。でも、こんなに親しくなるなんて思わかなった。

 ナインが一点の方を見て銃を構えた。


「ヤバい! 伏せな!!」

 慌てたナインが僕をつかんで地面へと転がる。

 何かが上の方を飛んでドシンと目の前へと現れた。

「グルルルルル……」

 三メートルはありそうな巨大な毛むくじゃらな体、太い腕に鋭い爪。そしてトカゲと豚を足したような顔に牙が無数並んでいる。

 な、ナニコレ?

 僕が茫然と立ち上がって見ているとナインに突き飛ばされた!

「ぼさっとしてるな! 早く逃げな!」

 言う間に巨大な怪物が爪を振り下ろしてきた!


 反対側にジャンプしたナインが銃を怪物に向け連射する。

「ガァアアアアアアァアアア!!」

 傷を負った怪物が腕を振りながらナインを追う。

「こっちだ! 魔物め!」

 素早く怪物の攻撃をかわしながら銃で撃ちこんでいるようだが、なかなか倒れない。

「グルルルル……」

 怪物はナインから少し距離を置くとこちらの様子を見ている。

 どう攻めようかと考えているのかもしれない。

「ナイン! 何か手伝うことは?」

「いいから逃げな! くそっ、堅くてダメだ!」

 弱気になっているナインを見捨てて逃げるなんて、できるわけがない。

 だけど僕じゃ、何もできない。

 どうする?

 迷っていると怪物がナインに向け走り出した。


「おらぁああああ! つらぬけぇええ!」

 怪物の進路から逃げならナインが再び発砲する。

 魔法の銃弾が身体に打ち込まれてもなおスピードが落ちない。

「ガァアアアアアアア!」

 ドシドシと音をたてながら怪物がジャンプした!

 思わず逃げようとして背を向けて走る上を怪物が一気に飛び越す!

 土をえぐって音を立てながら着地すると怪物が振り返った。

 慌ててナインの方へ引き返すとナインは上空に向け一発撃っているところだった。

「早くこっちへ! アイツ逃がさない気だよ!」

 ナインは素早く僕の方へ駆け出してきた。

 さっきから全力疾走してばかりなので息が上がってくる。

 走りながら後ろを振り返ると怪物がどんどん近づいてきている!

 見なきゃよかったと後悔しながらスピードを上げた。


「うぉおおおおおおおお!」

 叫ぶナインが怪物に魔法弾を打ち込みながら僕とすれ違った。

 このまま一人逃げるのもマズイ!

 慌てて足を滑らせながらも止まって振り返る。

「ナイン!」

 ちょうど声をかけた時、怪物と接近していたナインが相手の振るう腕を避け損ねて吹っ飛ばされた!

 ナインが斜面に転がっていく。

「ナイーーーン!!」

 彼女がいる方へと走り出す。

 が、そこに怪物が出てきた!

「ガァアアアアアア!!」

 素早く降ろされた腕が確実に僕を(とら)えている。

 回避しようにも間に合わない!


 ドン!

 怪物の鋭い爪が目の前で透明な壁に(はば)まれる!

「ガァアア!」

 怪物が短く吠えると両腕を振るって僕を攻撃するが届かない。

 これは!?


「白滝さん!!」

 声がした方に向くと新菜さんが近くにいた。

 だいぶ息を切らしているようで肩が上下している。

「新菜さん!? なんでここに?」

「話は後で。先に魔物を退治します」

 新菜さんが怪物に近寄りながら何かを呟く。

「………」

 頭上からゴロゴロと音がする。

 上空を見ると、いつの間にか黒い雲がこの辺りを覆い隠すように広がっている。

 魔法?

「あなたはこの世界にいるべきモノではありません! 速やかに消えなさい!」

 新菜さんが声を上げると複数の(いかずち)が腕を振るっている怪物に突き刺さった!

「アガアアアア! ガアアア!」

 断末魔に似た叫び声を上げ、怪物が雷の光に包まれる。

 あまりの激しさに目を覆った瞬間、ドっと怪物が爆散した!


「……」

 あまりの出来事に声が出ず、新菜さんを見る。

 彼女はホッと息をすると笑顔で近づいてきた。

「良かった! 間に合って! ケガはないですか?」

「だ、大丈夫。ありがとう助けてくれて…」

 安心したのもつかの間、ナインを忘れてた。

「ナインが大変なんだ!」

 慌てて土手の斜面に向かい、途中でナインが倒れているのを発見した。

 ナインの元に寄り、抱えて様子を見るが大きなケガはないようだ。

 まだ気を失っているのか目を覚まさない。


「白滝さん、ナインを呼び捨てにしてました?」

 背後から暗く響く声がする。なんだろ? 背中がブルっとする。

「えっと、な、ナインが恥ずかしいからって……」

「……そう、ですか。しかたないですね」

 顔を見せた新菜さんがニコリと微笑んでナインの状態を見ている。

 一応、病院で見てもらった方がいいかもしれない。

 そんな僕の思案をよそに新菜さんがナインの腕に手を当てブツブツと呪文を唱えている。

「これで大丈夫です。大したケガもしていないから、すぐに目を覚ましますよ」

「そうなんだ。一応、病院に行く?」

「平気ですよ。やっぱり白滝さんって優しいですね」

 そんな微笑まれても困る。

 だけど、かばってくれたナインが無事でほっとした。


「……う、うん!? おい! 降ろせ!」

「あ、気がついた」

「いいから降ろせ! 恥ずかしいだろ!」

 気がついたナインが暴れるので降ろすとニコニコしている新菜さんに近寄る。

「いや~、新菜が来てくれたから助かったよ!」

「合図がありましたからね。よく頑張りましたねナイン」

「はは。あいつ堅すぎだよ」

 照れているのかナインが新菜さんの両肩をバンバンしている。

 そこで思い出した。

「二人に聞きたいことなんだけど、あの怪物の事ってわかる?」

 新菜さんとナインは顔を合わせると苦笑いしている。

「いえ、私たちの世界の魔物ではありませんでした。少し調べないと……時間をもらえますか?」

「急いでないから大丈夫。それに皆で調査すれば情報が共有できるし。と言うか、僕はさっぱりだし」

「ふふ。そうですね、わかりました。あと、今度散歩されるのでしたら一緒に……」

 新菜さんの言葉の最後がゴニョゴニョと小さくなっていく。

 何か続きがあるのかと待っていると、彼女は顔を伏せて耳がじわじわと赤くなってくる。

 ……なんとなく甘酸っぱい雰囲気。


「おい! 私もいるんだぞ! 今日はもう帰ろうよ!」

 ナインが沈黙を破り主張する。

 ハッとお互い気がつき、愛想笑いする。

 あきれたナインに引っ張られ家路へと向かった。

 ちなみに新菜さんに心配され自宅まで送ってもらった。

 普通、逆な気がするけど、魔法も使えて強い彼女たちにいてもらえると確かに安心する。

 僕も何かしないと。

 少しでも足手まといにならないように。

 そうでないと新菜さんたちが無事に元の世界へ帰れないから。



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