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十五話 みんなで海水浴へ行く

 

 輝く太陽、青い空の遠くには入道雲がモクモクと大きくなっている。

 照り付ける強い日差しが砂浜に反射している。

「おぉおおお~! 来てよかった~!」

 手で(ひさし)を作ってキラキラの海をライノスが見ている。

「ちょっと! なんであんたが一番に感想をもらすのよ!」

 八巻(やまき)さんがライノスに突っかかっている。

 ソールと大佐がその横で苦笑いしていた。


 僕はというと、頬をふくらませた新菜(にいな)さんに睨まれていた。

 つまり、何故かこの場所に南さんがいるから。

 冗談とか言いながらちゃっかり待ち合わせ場所に来た時はビックリした。

 恨めがましく南さんを睨むとニコッと微笑まれた。

 その様子を仲林(なかばやし)君と魚沼(うおぬま)さんは茫然と見ている。

 ナインとティ、さきやんは我関せずで楽しそうに話している。

 やっと念願の海についたが思った以上に騒がしそうだ。


 とりえあず砂浜にシートを引き場所を確保した後、女子たちが着替えに海の家へ行く。

 男子はその場でさくっと着替え終えた。

「しかし、先輩、アレっすね。俺の予想を遥かに超えましたよー」

 若林君が彼女たちの背中を見ながら鼻の下を伸ばしている。

「まあ、確かにね。まさか八巻さんが大型バスで迎えに来るとは思わなかった。しかも運転手とガイド付きだからね」

 魚沼さんが若林君の話しの解釈を間違って話してきた。ここは若林君を無視しよう。

「そうですね。僕もビックリしましたよ。ひょっとして八巻さんってお金持ちかな?」

「十分ありえるな。白滝(しらたき)君がいなかったらここまで彼女の事を知れなかったかもな。楽しくなってきた」

 よくわからないけど魚沼さんのテンションが上がってきたようだ。

 若林君もビーチを眺めてだらしない顔をしている。


 少し離れて座っている大佐たちの所へと様子を見に行く。

 眼鏡美男子のライノスが興奮して浮き輪を身体に通しているのが見えた。

 ビール片手の大佐に言葉をかける。

「そちらはどうですか?」

「おお、白滝! なかなかこの世界の海もいいな。私はノンビリさせてもらうよ」

「ははは。ゆっくりしてください」

 ぐびぐびビールを飲む大佐の横に座る。

「では、私は一足先に海を満喫するので失礼!」

 すると浮き輪を両手で腰に持ち、ライノスは僕に一言。そのまま海へダッシュしていく。

 なんてノリが軽いんだ……。美男子だから余計に軽く見える。

「あいつってさ、アホだからそんなに気にしなくてもいいぞ。白滝も海を満喫してくれよ! 俺はナンパしてくる!」

 ソールはそう言うと素早く立ってビキニギャルの元へダッシュしていった。

 あまりのド直球さに何も言えずそのまま見送る。

「……」

 忍び笑いをしながら大佐はビールを一口飲むと僕に話しかけた。

「まあ、たまには羽を伸ばすのもいいだろう。ところで、誘ってくれてありがとう。気を遣わせたな」

「いえ。逆にお世話になるかもしれないし」

「ワハハ、かもな。そろそろ女性陣が戻って来るんじゃないかな? 白滝が見てあげないとかわいそうだ」

「いや、それは……」

 そう言われると恥ずかしくなる。余計、直視できなくなるかも。


「おーい! シラ兄!」

 ティが来た。あまりの素早さで一瞬で僕の前に立っていた。

「どう? 似合う?」

 くるくる回って嬉しそうに花柄を大胆に散りばめたワンピースの水着を見せびらかす。

 これが新菜さんが選んだモノか……。似合い過ぎている。

「素敵だよティ」

「マジで! やったー!」

 あまり弾けないで欲しい。事案になりそう。

 しかも横で大佐が「子供もいるし……」とかブツブツ言ってるし。

 それから遅れて新菜さんたちがきた。

 ナインは首に紐を通すアメリカンスリープのようなビキニ。健康そうな彼女にピッタリだ。

 さきやんはシックな色のビキニで大人な雰囲気。居酒屋の彼女しか知らないから新鮮。

 八巻さんは明るい色のフレアトップビキニ。性格とも合っていてパッチリ。

 南さんは見た事のある黒いビキニを決めている。

 新菜さんはパーカーを羽織っているためよくわからない……。ちょっと残念だ。


「どう? 懐かしいでしょ?」

 南さんが隣に座る。間違いなく昔着ていたビキニだ。新しく買って欲しかった。

「た、体型は昔のままだね……」

「ちょっと! 胸とか成長してるから」

 恥ずかしそうに南さんが怒る。僕としてはそこのポイントじゃない方が良かった。

 ザワザワしている周りを気にせず八巻さんがビーチボール片手に宣言する。

「よし! 遊ぼう! とりあえず砂浜って言ったらこれだよね!」

 それからわいわい皆で遊び始める。

 仲林君は鼻の下が伸びっぱなしだ。口元も緩んでいるから気持ち悪い。

 しばらく彼女たちとビーチボールをした後、僕はティと一緒に泳ぎに海に入った。


 ◇ ◇ ◇


 仲林がはしゃぎすぎて倒れた。

 こいつは一体何なんだ?

 私や新菜、南にやたらと話しかけ、異常な盛り上がりでビーチボールを追いかけていた。

 たぶん太陽の熱にやられたな。

 ニヤケ顔でぐったりしている仲林をビーチパラソルの下で涼んでいる魚沼と大佐のところへ引きずって運んでおいた。


「そんじゃ、私らなんか買ってくるから!」

 八巻が南を連れ立って海の家へと向かっていく。

 今がチャンスだ。

 海を見渡すと白滝がティと泳いでいて、浮き輪でプカプカ浮かんでいるライノスと話している。

 私の隣にいる新菜に肘で突っつく。

「ほら、白滝のところへ行ってきなよ!」

「え!? いや、でも……」

 早く行けばいいのに。新菜がモジモジしている間にさきやん先輩が聞いてきた。

「なになに? 新菜ちゃんは白滝君が好きなの?」

「はうぅっ」

 いきなりの確信に真っ赤に蒸発した新菜が固まる。

「そうなんだよ先輩。こいつからっきし奥手でさ。一緒に応援してくれないか?」

「へぇ~面白い! 知ったてたけどねー。私は温かく見守ってるよー」

 楽しそうにさきやん先輩がニシシと笑う。

 カチコチに固まった新菜を見てため息をつく。あーメンドクセエ……。

 そんな私らを気にしていない、さきやん先輩は腕を上げてのびをする。

「今日は来て良かった! 普段のみんなを知れたし、楽しいなぁ」

「そう言えば、さきやん先輩って昼間は何やってんの?」

「ん~~? ふふふ。ヒ・ミ・ツ」

 ニッと人差し指を口に持ってくる。まぁ、気にはならないけどな。

 バイト先では親切にしてくれるし、つまみ食いしても怒らないから、良い先輩だ。いや、この場合は店長か。

 あー、八巻たちが戻って来た。

 いまだ真っ赤な新菜を見て吹き出す。

 いいか! 楽しもう!


 ◇ ◇ ◇


 なぜかティと泳いでいたら浮き輪にゆられているライノスとばったり会ってしまった。

「おお! 白滝! 海は気持ちいいね! 私の失恋も洗い流されていくようだ!」

「だんだんわかってきましたけど、ライノスさんって天然ですか?」

「天然? 意味がわからん。だが、ここに来て確信した。女は星の数ほどいるんだな」

「……そう、ですね。次は頑張ってください」

 少し呆れたので離れようとすると僕の腕をにぎってきた。

「まあ、待て、白滝。ものは相談なんだが……」

「なんですか?」

「泳ぎを教えて欲しい。なぜなら海に流されて、この場から浜へと帰れないのだ。足がつかないから怖い」

「アホかあんた! なんでここまで来ちゃったの!?」

 あまり知らない相手に素で怒ってしまった。しかし、この場合はいいのではないだろうか。

 浮き輪がゆられライノスの眼鏡に太陽の光が反射する。

「まあ、頼むよ。お礼に筋肉見せるから」

「そんなお礼はいいですから! もう、しかたがない。少しここで待っててください」

 僕たちの周りを泳いでいたティに声をかけ、一旦、浜へと引き返す。

「早く頼むーーー!」

 後ろからライノスの声が響いた。


 ちょうど浜にあがると新菜さんたちが集まって飲み物片手に談笑している。

「おーい! 八巻さーーーん!」

 手を振って走って行くと、八巻さんも気がついて手を振る。

「なに!? 私がご指名なの? 心変わりしたんだ。感心、感心」

「言っている意味がわからないけど、早く助けてあげて!」

「ええ!! 何を?」

 驚いている八巻さんに事情を話す。その間、他の女子からの視線が突き刺さるようだった。

 納得したのか、ため息をついた八巻さん。

「わかったけど、なんで私なの?」

「頑張れ幹事!」

「オイ! お前、ラクしたいだけだろ!」

「そう言わずに頼みますよ。僕は泳ぎ疲れたから。ほら、八巻さんって水泳部で早かったって聞いたし」

「む。まあ、確かに泳ぐのは得意だけど……」

「良かった。お願いします!」

 すかさず頭を下げる。ちらりと八巻さんを見るとへの字口だが引き受けてくれるようだ。

「ふー。まあ、しかたがない。あの眼鏡バカ! 面倒ばかりかけて!」

 嫌々ながらも足を踏みならして海へ向かう。ほっ、よかった。


「でも何で八巻なんだ?」

 苦笑いしていたナインが不思議そうに尋ねてくる。

「えっと、ライノスと馬が合いそうだからかな」

 っと、いきなり新菜さんに足を踏まれた!

「いてぇ!」

「もー! あんな言い方! もう少し優しくしてください!」

 ツンと他を向いて新菜さんが怒っている。なんでだ……?

「えーと、ごめん? ほ、ほら、新菜さんだとライノスとややっこしくなりそうだし」

「わ、私のことはいいんです!」

 慌てた新菜さんが大佐たちの方へ駆けていく。

 ぽかんとその背中をみていると、さきやんが僕の肩を叩く。

「追いかけたまえ、若人(わこうど)よ!」

 なんだかよくわからいけど叱咤され、新菜さんを追いかける。

 というか、新菜さん見かけによらず足がすごく速くて追いつけない。

 なぜか、大佐たちのいるパラソルを抜けて砂浜を走っている。

「遅っそいなー。シラ兄は」

 横に並んだティが笑っている。一応、これでも毎朝ランニングしてるんだけど。

 新菜さんが遠のいていく……。どこまで行くんだ?

 繰り出す足が重くなってくる。

 も、もう限界!


「ほい! ボクに任せて!」

 突然ティに担がれる。

「ちょっと~~!?」

「大丈夫! すぐに追いつくよ!」

 二っとしたティが走るスピードを上げた。

 ヤバい、通り過ぎる人が注目している。事案じゃないと思いたい。

 というか、中学生に担がれている大人って一体!?

 視界の隅にソールがナンパに失敗している所が映る。まだやってたのか。

 新菜さんの背中がぐんぐん近づいてくる。

 後、少しだ。

「ニーナ様! 止まってー!」

 ティの声に驚いた新菜さんが足を止める。

「な、なんで!?」

「追いついた!」

 満足したティが僕を降ろす。恐ろしいことに新菜さんは息切れ一つしていなかった。

「新菜さん、怒っているなら理由を聞かせて欲しいんだけど」

「怒ってません! こ、来ないでください!」

「えっと、じゃあ照れてる?」

「ち、違いますから! て、ティ行きますよ!」

 新菜さんは僕から目を逸らしてティの手を握って歩き出す。

「えー!? だってシラ兄がここにいるのに?」

「今は安全ですから大丈夫です。行きましょう」

 ツンとした新菜さんがティを連れて行ってしまった……。

 何故?

 はぁ~。疲れた。その場でヘタって座る。


 すると隣に誰かが座ってきた。

「あの使い魔って有能ね。私の存在も感知してた」

「み、南さん!?」

 驚いた僕に南さんがウインクする。

「いつから?」

「ついさっきね。あの子、無茶苦茶ね。魔導士だからってナメてたわ」

 南さんが笑って愚痴を言いう。

 照り付ける太陽の元、海には遊んでいる人々が見える。

 少し休んでから皆の所へ戻ろう。


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