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第8話・おしとやか女子はタウルス族

 タカオとクレアは話を聞いた次の日、ゴブリンが奉られている「ネビス山」に向かった。町からそれほど離れていることはなく、朝に出発すれば昼前には到着するようだ。



 今回の旅は、ターニャにとっては町人との今後を左右する闘いでもある。ピリピリするものを感じていたので無駄話は慎んでいた。だが、ターニャが背負っているについて、タカオは気になって仕方なかった。



「なぁ、ターニャ。もしかしてだけど、君もその背負っているもので闘うのかい?」



「えっ、もちろんですよ」



 ターニャは心配をよそに、背負っているハンマーを軽々と持ち上げて見せる。そのハンマーは鍛冶打ちで使うものとは違い、あきらかにモンスターとの戦闘を想定した大きさだった。ハンマー部分の直系は神殿にいたドラゴンの顔も簡単に潰せるほどの大きさで、柄の部分は彼女の身長と同じぐらいだ。



「たしかに、君は町長の娘で鍛冶師としても優秀なんだろうけど」



「言っとくけど、ターニャはドワゾンの町で一番の鍛冶師よ」



 彼女から「町長の娘」と言われた時以上の衝撃が走り、タカオはつい声が出てしまう。



「鍛冶師が集まる町で、一番!?」



「そうよ。鍛冶に止まらずハンマーの扱いに長けていて、モンスターなんか簡単に倒しちゃうんだから」



「タカオさん、このハンマーは町を守る人間に代々受け継がれたものです。町にやってくる驚異から、町長自ら立ち向かうために……」



 ターニャはそこまで言うと唇を噛み、ギュッとハンマーの柄を握り直す。その様子を見て、タカオは震えている彼女の手を握る。



「ターニャ、今度は一人じゃないよ」



 タカオに続き、クレアもターニャに飛び付く。



「ごめん、あなたの話をもっと聞いて、ちゃんと解決させれば良かったって、今でも後悔してる。だから、一人で抱えないで。罪も半分こすれば、楽になるから」



 ターニャはクレアの言葉に首を横に振った。



「あなたがいなければ、タカオさんはいませんでした。そんなことを言わないでください」



「でもー」



「ただし、今回のゴブリン討伐に次はありません。お二人とも、力添えをお願いします」



 ターニャは深々と俺たちにお辞儀をしてきた。そのお辞儀には一切の他意はなく、ただ町の人たちを救いたいという思いが伝わってくる。タカオ達は一層気を引き締め、ネビス山に足を向けた。



                ***

 


 予定通りネビス山には昼前に着き、さっそく村人たちを探して回ることにした。木々が生えているのは山の周りだけで、山自体は岩肌がむき出しで祭事を行いやすいように道は整備されていた。

 どこかゲームで見たことのあるような、到達ルートまで道が丁寧に作られているような山道だ。久々にこの世界を評価したくなる。



 ネビル山は入口こそ一本道だったが、山の中に入ってからは道が分かれていた。この辺りは完全にゲームのダンジョンの様相を呈しており、タカオは先ほどの評価をすぐに取り下げる。



 タカオ達は一つ一つの道をしらみつぶしに潰していくと、その一つは牢屋部屋につながっており、そこにはドワゾンの町人らしい人が入っていた。ターニャがすぐに駆け寄ると、牢屋の人たちもターニャ様、と言いながら安堵の顔を見せていた。



「よかった、無事みたいだな」



「それで、あなた達はどうして牢屋に?」



「ターニャ様、本当に申し訳ありません。あなたが仰ることは正しかった。あれは本当のゴブリン様ではない、あれはただの邪霊じゃ」



「もういいんです。私がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったわ。本当にごめんなさい」



 町人とターニャたちは、牢屋越しにひしと手を取り合っている。タカオはクレアは顔を合わせ、町人とターニャの確執は杞憂だったと悟る。



「さぁ、牢屋から離れて。あなた達を救出します」



 ターニャの言葉を聞くと、さっと町人たちは牢屋から離れていく。何が始まるのかわからず、ターニャに声を掛けようとするもクレアに止められる。



「今のターニャに声を掛けないほうがいいわ」



「どうしてだよ」



「勢い余って、あんたが死ぬかもしれないからよ」



 不思議に思うタカオを余所に、ターニャはハンマーを構えて神経を集中させていく。静寂が支配したかと思うと、突然野太いおらび声が轟く。その声の違いに、タカオはターニャから発せられたと一瞬わからなかった。

 腹を殴られたような振動が伝わったかと思うと、ターニャは勢いよくハンマーを牢屋の鉄格子に向かって振り下ろす。すると、牢屋はいとも簡単に崩れ去り、町人たちは飛びながら外に出てきた。



「う、うそだろ……」



「彼女、ハンマー持つときは別人みたいになるの。ま~タウルス族だから、人よりも大きな力を持ってるのはわかるけれど、あそこまで性格変わるのもレアよね」



「タウルス、族?」



「あっ、あんたは知らないか。この世界では人間以外にもいろいろな種族がいて、彼女はタウルス族。人間にちょっと牛の血が混じっていて、さっきみたいに大きな力を出せるの。ほら、頭にちょっとツノあったの気付かなかった? あれがトレードマーク」



 ああ、なるほど。



 目ざとく見つけた彼女のチャームポイント。それはまさに、彼女の「特徴」だったわけか。やはりこの世界、色々な意味で裏切ってくるな……。



「だけど一緒に剣作るまで、性格まで変わるなんて知らなかったのよね~」



 ターニャは助け出した町人から、この山で町人はゴブリンに小間使いにされ、さまざまな道具を作らされていることを聞き出した。そして、仕事ができなかったり、反抗的な態度を示したりした人間は牢屋に閉じ込められているらしい。



 ターニャは彼らに鍵と自前の鍛冶道具を手渡し、囚われた町人を解放するように願い出た。



「あなた達なら、道具を鍵さえあれば解放するのは簡単でしょ?」



 もちろんです、と景気のいい返事をした彼らは、すぐに牢屋や作業現場に向けて走り出した。



「さっ、タカオさん。私たちも邪霊となったゴブリン退治へ向かいましょう」



 呆気に取られてしまい、タカオはつい生返事で答えてしまう。



「ま、男の思う理想のおしとやか女子なんてこの世にはいないんだよ。わかったかい、三流ニートクリエイター」



 クレアはタカオのすべてを見透かしたかように、クリティカル連発の言葉を浴びせてくる。ヒヒヒと緊張感のない笑い声が響く中、何とか気持ちを切り替えて進み始めた。

ご覧いただきありがとうございます。評価やレビュー、感想などいただけますと、筆者はさらに頑張って各キャラクターのサブエピソードとか書けるかもしれません笑

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