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第74話・現実世界への帰還

 すべて終わった。



 最後の攻撃によって瘴気は完全に消えてなくなり、空も青色も取り戻す。タカオ達もそれぞれ元の姿に戻り、お互いに顔を見合わせることで笑顔が連鎖していく。



「やった~!!」



 初期状態のデニスを倒したときと違い、本当に戦いが終わったことを確信していた。みんなで肩を抱き合い、この世界から魔王を消滅させた余韻に浸る。



「まさか、本当に魔王を倒しちまうなんてな」



「ええ。信じられません」



 エヴァンとターニャは自分たちが達成した偉業を言葉にしながら実感していく。しかし、この世界から魔王が消えるということは、世界を作った神もいなくなるということではないだろうか……。自分の懸念事項を言葉にするも、クレアは首を横に振る。



「いいのよ、神様なんていなくて」



「そんな無責任な……」



「世界とか未来とか、そんなものは自分で作っていくものなのよ。与えられるものじゃない、自分の立っている場所からじっくりね」



 クレアの悟ったような言葉に、ターニャもエヴァンも納得したのか自然と頷いている。クレアとして、アクアとして戦った彼女だからこそ出てきた言葉だろうな。彼女の言葉にうん、と頷いている自分がいた。



 それぞれ冒険の終わりを噛みしめている中、空がゴゴゴゴゴゴッと異様な音を立て始める。魔王を倒したのにヒビの侵食は止まらず、徐々に広がり始め世界を飲み込もうとしている。



「おいおいおい、こんな時に物騒過ぎんだろ」



「逃げましょう、皆さん!」



 ターニャの提案にクレアは答えなかった。それは、隣にいる自分も同じだった。



「ちょっと、二人とも。早く逃げないと!」



「悪い、俺の最後の仕事なんだ。あの穴、ふさがないと」



「おいタカオ、なに自分だけ恰好付けようとしてんだよ! それにクレアちゃんも、早く逃げようぜ」



 エヴァンのちゃん付けにもクレアは反応しない。その代わりに、クレアは満面の笑みでごめんね、と言いながら言葉を続ける。



「これは召喚魔法が使える私と、クリエイトが使えるタカオにしかできないことなの。ここまで協力してもらったのに、最後の最後でこんなことにー」



 クレアがしゃべっている途中にも関わらず、ターニャはバシンと頬を叩く。呆気に取られているとターニャは涙を流しながら、ギュッとクレアのことを抱きしめる。



「バカ、なんで言わなかったんですか! そんな危険なこと、戦う前に言うべきじゃないですか! どうして、どうしてちゃんと言ってくれなかったんですか……」



 ターニャの言葉に何も答えることができず、クレアもつられて泣きながら抱き返す。その様子を見ていることしかできなかったが、エヴァンが二人を引き離す。



「エヴァンさん!」



「こいつらには、こいつらのやるべきことがあるんだろ。今は好きなようにやらせてやろうぜ」



「そんな! もし、もし何かあったら」



「この二人はいざというときほど、奇跡を起こしてきたぜ。信じて待とうぜ、ターニャちゃん」



 エヴァンの懸命の説得もあり、なんとかターニャはその場から離れることを了承し始める。



「エヴァン、ありがとう」



「タカオ」



「なんだ?」



「帰ってきたらおごれよ!」



 エヴァンらしい見送り方に、つい涙がこぼれそうになるのを堪える。なんとか親指を上げて返答し、その様子を見てから二人が神の庭から離れていく。



「なに情を移してんのよ」



「お前だって」



「やっぱりさ」



「なんだよ?」



「やっぱりデニスの考えるシナリオって、最高よね」



 彼女の言葉にああ、と短く答える。お互いにしばらく沈黙したまま、もう一度抱きしめ合う。そして、彼女はそっと唇を重ねてくる。思わぬ出来事に驚きを隠せないが、クレアは視線を合わさず、あくまで冷静を装いながらマシンガントークをはじめる。



「ししししし知らないと思うけどあんたみたな浅学非才なダメリエイターは! 強烈な出来事とセットの記憶は鮮明に残るんだからね!」



「クレア……」



「あの! その、もし……。現実世界に戻ることでこの世界の記憶を失っちゃったり、万が一のことがあるかもしれないじゃない! あ、あんたはどうかわからないけど。わっわっわっ、ワタシはー」



 止まらない口にフタをするように今度は自分から唇を重ねる。ゆっくりと、まるでその時間が永遠に続くように口づけを交わす。



 エレノアでもあり、アキでもあり……。それらすべてが統合しているクレア。どれが欠けても彼女じゃない。一緒に冒険して、デニスのために奔走し、共に戦った貧乳なクレア。忘れるわけない、忘れたくない。その思いが口づけを通して伝わったのか、クレアも頬を紅潮させている。



「……もういいか」



「かっこつけてんじゃないわよ、引きリエイター」



 正直、口づけによる心臓の高鳴りを隠すので精一杯だ。それでも、もう少し余韻に浸りたいところだったが、空のヒビは先ほどよりも確実に大きくなっている。



「……そろそろ、覚悟決めるか」



 これ以上被害が大きくならないように、タカオはまた聖騎士にフォームチェンジを行う。続いて「クリエイト」の準備をはじめ、空のヒビを修復するイメージを膨らませていく。



 -タカオさん、絶対に負けないでください。



 ーてめぇ、いいとこ全部横取りすんなよ!



 この世界で旅した仲間の顔と台詞が流れ始める。



 -タカオ……。



 仲間だけじゃない。ディクソンさんやテッシン、ジョニー、シルビア、オリビア、グリフィス……。この世界で出会った人の思いが「クリエイト」の呪文を通して伝わってくる。自分だけの力でこのヒビはふさげられない。でも明日を望み、創り出す想いがあれば……。



「クリエエエエイト!!!



 叫びながら空のヒビに向かってクリエイトの呪文を放つ。ヒビの広がる原理も理由も知らない。だが、人の想いを形にしたクリエイトの呪文は、どんどん広がっていたヒビをどんどん修復していく。



「タカオ、ヒビがふさがる前に!」



 ああ、と答えながらクレアの召喚魔法に合わせて、クリエイトの呪文を唱える。従来ならば現実世界からゲーム世界へ転生する魔法だが、クリエイによって復路になるように作り変える。

 ただ「クレアと一緒に帰りたい」という願いしかない。たったそれだけだが、クレアと唱えた魔法は光の柱を生み出し、空のヒビ向かって伸びていく。



 ー離さない、絶対に。

 


 クレアの手をギュッと握り、彼女もタカオの手を握り返してくる。次第に二人の身体は光の粒となり、小さくなっていく空のヒビの中に吸い込まれていく。

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