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第73話・神を否定する、ただの人間

「タカオ!」



 クロスから現れたクレアは、いきなりタカオの身体をガンガン叩く。目いっぱいに涙を溜めながら叩く。でも、タカオはその行動を拒絶しなかった。クレアが叩くたびに、自分が「存在」しているという認識を自覚できる。それがたまらく嬉しかった。



「さっそく、うるさいな」



「うるさいぐらいがいいんじゃない?」



「まっ……。ちがいない」



 くだらないやり取りをしている中、アメーバ・デニスグニャグニャしながら、顔はドラゴンのような爬虫類で、トリケラトプスのような大きなツノに変貌していく。最大の特徴は大きな上腕二頭筋で、その姿勢はゴリラのようだ。背中にも翼が生え、なんともラスボスらしい形に整えられる。



「これはお前が設定したものか?」



「いいえ。おそらくデニスが新しく用意したもの。それよりも、あんたその姿……」



「なんだ、アクアとかデニスが設定したものじゃないのかよ?」



 クレアはふるふると首を横に振り、その反応にタカオは自分で自分に驚愕する。この姿がゲームのシステム外のもの……。確かに今までも合成魔法やクリエイトなどをしてきたが、自分の姿を変えれるとは夢にも思っていなかった。



「ほんとうに、クリエイターになったのね」



「どうかな……」



「ほら、自信もちなさいよ。その剣も自分のことも『クリエイト』できたあんたなら、あの二人をクリエイトするのも余裕でしょ?」



「……協力してくれるか?」



 タカオが手を差し出すと、無言で頷きながらその指に指を絡ませていく。しっかり握られた手からクリエイトの魔法が発動し、地面にできた金色の魔法陣からターニャとエヴァンの姿が蘇る。



「あれ、ここは……」



「なんか、今まで妙なところにいた気がするんだが……。まるで桃源郷のような場所にー」



「いきなり卑猥なこというな!」



 早速のエヴァンの軽口に、クレアがツッコミを入れている。

 


 ーよかった、本当に。


 

 タカオはいつもの光景が繰り広げられているだけなのに、涙がとめどなく溢れてくる。この世界には自分のことを知ってくれている人がいる。たった四人じゃない。四人も自分の声に答えてくれる人がいるんだ。しかし、まだ涙を流すには早すぎる。


 エンディングは、絶望を望む神の向こう側にあるんだ!



「お前ら、目の前にボスがいるんだぜ」



「そうですね……。どうもコテンパにされた記憶があるので、反撃ですね」



「ああ。それじゃ、ちょいとすごいことするぜ!」



 タカオはフォームチェンジの魔法を唱える。すると、タカオ以外の三人の足元が光り出し、ターニャが土、エヴァンが水、クレアが風の精霊の力を借りてフォームチェンジする。



「おいおいおい、タカオさん。たしかこれ、一回に一人が限界なんじゃ……」



「今の俺なら、何でもできるみたいなんだ」



「へっ、えらく豪勢な姿になってると思ったが……まさに神様クリエイターってか」



「いいや……俺は」



 みんなを見てから剣をデニスに向ける。



「ただの人間さ!」



 タカオの声を打ち消すように、怪物となったデニスが咆哮を上げる。それをスタートの合図代わりにエヴァンはトライデントを空に放り投げる。

 すると、雷槍を中心にしてドーム状に雷のフィールドが広がる。雷のフィールドが発生することにより、タカオ達から体力を奪う瘴気が消えていく。



「助かるぞ、エヴァン!」



 辺りから瘴気が消えることで身体が自由になり、一気にデニスとの距離を詰めていくターニャ。すぐ懐へ潜り込むも、大木のように太い前腕が振り下ろされる。

 その攻撃を受け止めることもなく、ターニャはハンマーの反対側に付いてあるカマで容赦なく切り落としていく。デニスは声を上げるも、元の身体はアメーバのためすぐ再生していく。



「面倒な身体だ!」



「任せなさい!」



 今度は戦乙女となったクレアが前に出て呪文の準備を始めると共に、タカオに水の元素魔法を唱えるように合図を出す。彼女に合わせる形で、タカオも呪文を唱え始める。



「氷の女神よ、今こそあらゆるものを永久に封じ込める凍てつく息吹を! エターナル・ブリザード!」



 クレアはタカオと同時に魔法を放つと、魔法陣から強烈な吹雪がどっと吹き荒れる。その吹雪は瞬く間にデニスを凍り付かせ、すからずターニャが氷漬けのデニスに強烈な一撃をお見舞いする。

 ガキン、と耳を塞ぎたくなる音と共に巨体が簡単に崩れ去り、再生を防ぐためにエヴァンが雷槍から放たれる雷撃を使って処理していく。



「これで終わりか?」



 怪物の巨体は消えたものの、まだ瘴気が立ち込めている。タカオはデニスの本体がまだ残っていると考え、神経を集中させていく。

 気配を探る中で、過去の映像に瘴気だけのシーンがあったのを思い出していく。……そう、デニスは瘴気の姿となって現実世界に現れた。ということは、この瘴気自体がデニスという可能性がある。



「クレア、今度は俺に協力してくれ!」



「どうするの?」



「この瘴気をすべて浄化する!」



「えっ!」



「思い出せ、デニスが生まれたときの映像を! 魔王が現実世界に出てきたときは瘴気の姿だった。もしかしたら、この瘴気自体が魔王の可能性がある」



「それ、確証ナシよね?」




「ない! でもやってみるしかない。できるだけお風の力で瘴気を集めてくれないか? その後は、聖なる力ですべて浄化する」



「わっ、わかったわ!」



 クレアは得意の風魔法を展開し始め、その間にタカオはクリエイトの力で浄化魔法を練っていく。それに気づいたのか、瘴気が一か所に集まり始める。瘴気は空一帯を多い、そこから憎々しい顔が浮かび上がって四人を睨みつけてくる。



「コしゃクなアアアアアア!」



 まだ諦めていないのか、デニスはクリエイトの魔法を使って神モドキを出現させていく。しかし、それは悪あがきに過ぎなかった。フォームチェンジしているターニャとエヴァンの前に神モドキは紙屑も同然。ターニャとエヴァンによって次々と神モドキはデリートされていく。



「デニス!」



 クレアの叫びに、瘴気となったデニスは振り向く。



「私はもう逃げない! あなたからも、罪からも!」



 クレアの啖呵と共に魔法が発動し、デニスの元に竜巻が発生する。その途端に渦へ吸い込まれるように瘴気が飲まれ、グルグルと顔が回転している。タカオはは一か所に集まった瘴気を見ながら、剣に聖なる力を込めていく。



「デニス、俺は……」



 忘れない。常に戦いを挑み、シナリオを書き続けた男。その中で誹謗中傷され、さげすまれ、拒絶され、孤独になって人の道を踏み外してしまった男。

 憧れの作家だった。

 彼のシナリオがあったから、自分もシナリオに目覚めた。ひたすら隠し、目をそらし続けた最後の希望。デニスも希望を持っていた。だが、だが……。



「だが、あんたは自分から希望を絶っちまった! アキという希望を! すべてに絶望し、あらゆる存在と会話することを拒否し、支配する道を選んだ! その上、自分で作った世界をてめえのオナニーに使いやがった! それが許せねえ!」



 すでにこの程度の言葉すら否定することもできないデニス。風の回転を見計らい、浄化の一撃を叩き込む。



「聖なる光よ、人の憎悪に囚われた魂を鎮めたまえ! セイント・クロス!」



 はじめてこの世界でモンスターに加えた斬撃。その一撃はデニスの魂に十字架を刻み込み、瘴気を白い灰へと変えてしまった。

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