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第71話・神の庭での決闘

 雲より高い場所まで上がってくると、やっと神の庭に近づいてくる。目的地が見えてくると、タカオたちは一気に階段を駆け上がる。そして、ついに階段を登り切ると、魔王・デニスが待つ場所へたどり着くことができた。



 神の庭は青々とした緑が生い茂り、地平線が見えるだだっ広い草原地帯のような場所だった。それだけの質量が空中に浮いていることが異常なのだが、これが神の御業というものだろうか。



「こんなところまで来てしまったか、おろかなる者たちよ」



 腹に響くような声。パーティが一斉に辺りを見渡すと、目の前の地面に赤黒いクリエイト系の魔法陣が現れ魔王・デニスが出現する。その姿は過去の映像と空中に浮かび上がった顔と同じだった。耳元まで裂けそうな口は不敵な笑みを浮かべ、威圧を与えてくる。



「フハハハハハ……。神に立てつく愚かなるものたちよ。このまま我の望む世界に委ねられればいいものを、どうしてそう拒もうとするのだ」



 ふざけるな、とはじめに否定したのがターニャだった。



「貴様の放つ邪霊により、我が町は一度滅亡に瀕することになったのだ! 神ならば何でもしてもいいという思い上がりを持っているならば、私が裁いてくれる!」



「フフフ……。我が呪いを掛けることで町にはびこる問題を解決できたものを、蒸し返したのはお前ではないか。あのまま主が余計なことをしなければ、町はいい方向に運んでいたのかもしれないのだ」



 魔王の甘言にターニャが言葉を詰まらせると、次はエヴァンが勇んで宣戦布告する。



「うっせえよ。てめえが余計なことをしなければな、オリビアが命を落とすことは無かったんだ!」



「何をいうか。オリビアが死んだのは主の怠慢。責任を転嫁されても困るというものよ」



 それぞれ魔王に言い返され、気圧されているように見える。クレアはすぐ前に出て注意を促す。



「みんな、この魔王は言葉によって私たちを惑わしてくるわ! 力で叩き潰すのよ!」



 クレアは言い終えると同時に、いきなり上級風魔法を唱えてデニスに先制攻撃を加える。しかし、魔王

は微動だにせず、片腕でその魔法を受け止めている。



「ふん……。まるで成長が見られないな、クレア。なにか問題があれば力で解決しようとする。そんな主のような人間が、我は最も嫌いなのだ!」



 デニスは両手を空に掲げ、黒い球体を作り上げる。その球体の周りを赤い電撃がバチバチと流れ出し、それをタカオたちに向かって投げつけてくる。咄嗟に回避しようとするも、その球体は地面にぶつかると同時にドーム状に広がり、魔法はメンバー全員の身体にダメージを与えてくる。



「……くそ、みんな大丈夫か?」



 タカオは瞬時に炎のフォームチェンジを行い、仲間全員を覆う炎の盾を展開する。盾のおかげで致命傷こそ免れるも、やはり幾ばくかダメージを受けている。クレアは仲間たちの傷をいやし始めたので、その間に俺が陽動役を引き受ける。



「フハハハハハ……。さすがはクリエイターというところか。これぐらいの攻撃は避けてくる」



「デニス!」



 タカオは魔王の笑い声を切り裂くように剣を振るってから突撃する。魔王は自分の周りに四つの穴を作り、そこから剣を持った手を召喚する。懐に飛び込むも阿修羅のような剣撃を裁くので一杯になり、デニスに一撃も加えることができない。



「どうした、主も威勢だけか?」



「デニス、どうしてお前はこんなことを……。お前は人の痛みを知っているはずなのに!」



「痛みなど関係ない。お前は知っているのだろう、この世界はゲーム世界。その世界の人間をどのようにしようが、神である我の自由」



「ふざけるな!」



 怒りと共に炎の魔法「エクスプロージョン」を唱え、魔王に叩き込む。一気に四つの剣を折り、そのまま爆撃によるダメージを与える。はじめて敵からうめき声を聞くことに成功し、手ごたえを覚える。



「お前は目の前にいるターニャやエヴァンを見て、本当にそんなことが言えるのか! 元々はこいつらもあんたが作ったんだろ? そんな子供同然のような存在に対して、どうして好き勝手できるなんて言えるんだ!」



「貴様のような矮小な人間には想像もできんだろう」



 魔王は体勢を立て直し、タカオの前に立ちはだかる。



「どんな世界であっても、その根幹は支配する者とされる者しかおらぬ。そして支配される側になれば、未来永劫その立場からは逃れられんのだ! 一生誰かの言いなりとなり、隷属することにしか価値を見いだせなくなる。それが世の常というものよ」



「お前のはただの屁理屈だ!」



 傷をいやしてもらったターニャが突撃を掛け、魔王に向かってハンマーを振るう。しかし、その攻撃も魔王の魔法によってふさがれる。



「私たちのことを卑下しながらも、貴様も主従関係に逃げ込もうとする臆病者だ!」



 ターニャの啖呵も虚しく、魔王によっていとも簡単に吹き飛ばされてしまう。倒れたターニャに向かって、魔王が再び攻撃魔法を唱え始める。



「隷属されし者は理不尽な暴力に押しつぶされ、けなされ、否定され! 地を這いつくばる生き方をしたくなければ、力でねじ伏せるしかないのだ! 自分の意思を通すためには、圧倒的な力だけがモノをいうのだ」



「だったら!」



 仲間を癒し終えたクレアが飛び出し、魔王の呪文を風魔法によって封じ込める。



「だからこそ、その痛みを知っているからこそ! どうしてあなたがこの世界の人間を痛み付けるの? こんなの、ただの当てつけじゃない!」



「当てつけでも結構! 結局人は己の非など認めず、言葉に耳を貸さず、同じ過ちを幾度となく繰り返す。そして自分に都合のいい人間だけで固まる。そんな人間、滅んで当然!」



 無理に呪文を展開し、クレアを襲うとする瞬間。俺は彼女の前に立って魔王の攻撃を何とか防ぎ切る。



「こしゃくな!」



「…ざけんなよ」



「なに?」



「ふざけつなって言ってんだよ!」



 タカオは声が枯れるほどに吠え、全身から火を噴き散らす。魔王は指先一つ一つからレーザーのような魔法を撃ちこんでくるも、それを剣で受け止めながら前進する。



「あんたに優しくする人だけが友人かよ、あんたを認める人だけが仲間かよ、あんたを褒め称える人だけがファンかよ! あんたは自分を引っ張り上げようとする人の声、ちゃんと聞こうとしたのかよ! 隣で必死になんとかしようとする人間がいるのに、自分だけ不幸面してんじゃねえよ!」



 バチバチと音が鳴る中でも、タカオはデニスに届くように吠え続ける。その後ろでタカオ、とクレアが名前を呟いてくれる。



「俺はあんたが好きだった! でも、今のアンタは嫌いだ。あんたが好きだからこそはっきり言わせてもらう、逃げずに現実を見た上で発言する! 俺は今のデニスを、否定する!」



 タカオの発言に動揺したのか、一瞬だけ魔王の攻撃にひるみを感じる。その隙を逃すことなく、一気に剣を振り抜いてレーザーをはじき返す。そのレーザーはそのまま魔王の身体に跳ね返り、彼の身体を焼き尽くしていく。



「こいつで!」



 すかさずエヴァンが飛び上がり、トライデントを思い切り振りかぶる。



「悪いことしたら、その罪は背負うものさ。だったら、てめえもこの世界を滅茶苦茶にした罪を背負いやがれ!」



 雷槍は魔王向かって真っすぐ直進し、見事に顔面を貫く形となった。断末魔の叫びを上げながら、魔王はその場に膝を付いた。



「やった!」



 タカオ達はほぼ同時に声を上げる。魔王・デニスも沈黙し、ついに魔王に勝利したと確信する。しかし、魔王の首が突然グラリと動き始める。

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