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第6話・邪霊に翻弄される鍛冶師と女

「ほんっと、信じられない!」



 杖でタカオのことを殴打したクレアは、いまだに蛇のような目つきで睨んでいる。彼女は町の生き残り・ターニャと面識があるようで、タカオが住民をいたぶっているように見えたようだ。しかし、顔全体が腫れ上がるほどボコボコにされる理由があったかどうかは定かではない。



 クレアをなだめたターニャは俺たちと話したいと申し出てて、木箱で簡易的なイスとテーブルを用意してくれた。この地域では生き物まで2Dされておらず、保存食として残しておいた干し肉を出してくれた。出迎えとしては味気ないが、久々のタンパク質を味わいながら情報交換を行っている訳だ。



「あの、クレアさん。もういいんですよ、もう私は怒っていませんから」



「ターニャ、あんたはいつもそうやって簡単に人を許すんだから」



「お前と違って何もかも余裕があるな、特に……」



 ぶん、と鼻先に杖の先が伸びてくる。



「あんた、ついでに骨の形も変えてイケメンにしてあげようか?」



 タカオは全力で首を振ると共に、吐き出そうとした言葉を飲み込んだ。ターニャに2Dの呪いは掛けられておらず、肩まで伸びた髪とチューブトップからこぼれそうな胸がトレードマークの女性だとすぐにわかった。



 口調も柔らかくてほんわかとした雰囲気を持っており、まるでクレアを姉として慕っているようになついている。しかし、頭に小さいツノのようなものがあり、これはゲーム世界でいう「種族」と呼ばれるものだろうか。



「あの、ターニャさん」



「ターニャでよろしいですよ」



 それよりも、まずはこの町の状態について聞かないといけなかった。タカオはこの町に人がいないことと、ハリボテの家があることについて聞いてみた。



「ええ。この町は鍛冶で知られているんですが、職人気質な人が多いと共に、土の元素を信仰する気持ちが強いのがやっかいで……。この惨状も、そうした町の気質が原因みたいなものです」



「どういうことだよ?」



「言ってしまえば、宗教みたいなものね」



 クレアは途中で口を挟んできた。



「この世界には四元素が存在すると言ったわね? それらの元素は私たちの生活に必要不可欠なもので、魔法や土地の源みたいなものなの」



「お、おい! じゃあ、そんなものをこの剣に封印してー」



「あんたの考えていることとはむしろ逆よ。ほら、あんたドラゴンを封印するときに何ていった?」



「えっと、たしか」



 ー我が持つ剣の一部にしてすべてである炎の化身ドラゴンよ。



「たしか、こんな感じか」



「そうね。各元素はそれぞれ属性は違うけれど、元々はすべて一つの自然物。だけど、今は元素が呪いによって完全に分裂すると同時に勝手に形を持ち始め、本来の姿を失いつつあるのよ。

 そこで、シールの剣を通して一つの元素に戻し、自然の循環に戻そうとしているわけ。ほら、ドラゴンも最後には炎になったでしょ? そういう形で、乱れた各元素の姿を本来の姿に戻してるわけ」



「なるほどな、この剣にはそんな役割もあったのか……」



 クレアの説明が終わると、ターニャが嬉しそうに俺の剣に飛びついてきた。



「じゃあ、クレアさん! この人がもしかしてー」



「そうよ。どうしようもない三流だけど、私を復元したのはこいつ」



「そうなんですか! 本当に現れたんですね。この町の反対を押し切って、この剣をあなたと打ったのは正しかったんですね……」



 ターニャの顔は安堵というよりは、やっと自分の罪が許されたように魂が抜けたような顔をする。



「どういうことだよ、この剣は世界を救うための剣じゃないのかよ?」



「その通りよ。でも……」



「クレアさん、私からすべてお話しますね」



 クレアがもどかしそうにしている様子を見て、意を決したようにターニャが話し始めた。



「クレアさんに呪いを掛けられていたのは、タカオさんもご存知だと思います。この町にも魔王の『ルール』の呪いが掛かり、家をはじめ鍛冶職場がすべてハリボテになってしまいました。

 それだけは飽き足らず、山で採れる素材もすべて使い物にならないようになり、ドワゾンの住民は困惑してしまいました。そこで、私は炎の元素を守るクレアさんに相談したのです」



「えっ、ちょっと待って。ということは、クレアって……」



「そうよ。新米かもしれないけれど、私は大事な元素を守る偉い神官なんだから。もうちょっと敬いなさい、タカオ」



 クレアはどや、と言わんばかりに無い胸を張る。たしかに、はじめて降り立った神殿はそれなりに雰囲気はあった。

 だが、あの神殿が四元素のひとつである火の元素を司る場所で、クレアも位の高い高官とは思わなかった。ターニャは申し訳なさそうにあのう、というので話を戻してもらうことにした。



「私たち鍛冶職人にとって炎は命よりも大切なもので、クレアさんからには昔から神聖な炎を分けていただいてました。私も小さい頃からおつかいで神殿に向かっていたので、いつもお世話になっていたんです」



 ふ~ん、と言いながら待てよと思った。



「クレアはまがりなりにも元素を守る神官なわけだ」



「まがりなり、は余計よ」



「じゃあ、その場所におつかいで行くターニャも、それなりに身分が高いというか、えらい人なんじゃ……」



 ターニャは一度顔をふせてから、自分に言い聞かせるように宣言した。



「はい、私はこの町を取り仕切る町長の娘です」

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