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第67話・神の島、起動

 シルビアはエヴァンの様子を見ながら息を整え、タカオのほうに向き直る。そして、手に持っていたハンドルの装飾品を手渡してくる。



「台座は流石に持ち運べないけど、これだけは取り外せたから持ってきておいたわ。これ、役に立つかしら?」



「ほんとうか! ありがたい」



 俺はハンドルを掲げ、魔王の城へ向かうためのキーを手に入れたと確信する。しかし、何も事情を知らないターニャとエヴァンは首をかしげるばかりだった。

 タカオはハンドルとキマイラに喰われた台座、そして書かれていた文章について説明する。すると、訪れる魔王との決戦を覚悟したのか、二人の表情はこわばり始める。



「なるほど……。では、その『ハンドル』という装飾があれば亀が復活するんですね!」



「このダメリエイターの力が発揮されればだけどね」



「こんなところでしくじってられるかよ……」



 クレアの言葉に冗談で返さなかった。いや、返せなかった。この戦いがクレア、ひいては水原アキ。そしてターニャ、エヴァンの今後に関係しているのだ。否が応でも神経が張り詰め、ハンドルを握っている手が汗でびっしょりになる。



「ほれ、タカオくん! こんなときに何固い顔をしているんだい? こういうときだからこそ、表情筋を豊かに」



 先ほどまで真面目な顔をしていたエヴァンが、まるで陽気な外国人のように口を大きく開けて笑顔を作る。素直にきもいぞ、と言ってのける。すると、女性陣も俺の言葉に連鎖してグロい、こわいと3Kコンボをくらわせる。



「なんともひどいねえ。みんな俺をイジメるときだけ息ぴったりなんだから」



「あなたの日ごろの行いの結果よ」



 シルビアのきれいな締めくくりでドッと笑い声が上がる。責められながらもエヴァンは、エンジュにやってくるときとは全く違う顔をしている。すべての悩みを解決し、シルビアとも目を見て笑いあえている。二人の様子を見てからよし、と言って自分の膝を叩く。



「それじゃ、そろそろ行こうか。あの山頂に」



                      ***



 タカオはモンスターに見つかりづらくなる魔法を船に掛け、さらにクレアは襲われても大丈夫なようにバリアの魔法を重ね掛けする。何があっても大丈夫な状態にした船の出発を見送ってから、俺たち四人は島の山頂まで登っていく。



 山頂に着くと、台座のあった部分はキマイラによってやはりえぐられていた。それでも四人は台座のあった場所まで近づいてみる。そして、タカオはハンドルを取り出して、車でも運転するように構えてみる。



「いくぞ、みんな。想像してくれ、この島があの紙に描かれていたように亀のようであったことを」



 うん、と言うように同じタイミングで頷いていく。タカオはその様子を見てからクリエイトの呪文を唱える。ハンドルは光り輝き、ひとりでに空中に浮かび始める。その光はムクムクと形を変えながら、地面に降り立っていく。その光が取れていくと、そこには亀の甲羅があった。



「なんだ、こりゃ……」



 エヴァンが指で甲羅をつつこうとすると、急に頭がにゅっと出てきて噛み付こうとする。すぐに引っ込めると、手足も出てきて足だけで立って見せる。そして、どこから出したのか亀はタクシー運転手が被るような帽子を器用に被る。



「ほお。まさか本当にワシを復活させる人間が生まれるなんて! こりゃ驚きですね」



「それはこっちの台詞! あんたは一体何なの?」



「ワシですか? ワシはこの島の運転手を務めていた亀のロンサムです」



 ロンサム、とこだまするようにタカオが聞き返す。



「おお、あんたがワシをクリエイトした人だね?」



「! わかるのか、あんた」



「ええ。ワシは神に作られた神聖な生き物。神と同じ力を持つ人ぐらい、簡単に見分けられますよ」



「ロンサムさん]



 タカオは亀をなでながら、クレアへあてつけのような視線を浴びせる。



「そこにいる貧乳神官さんですね、ずっと俺のことをバカにしてー」



「はいはーい。すごいすごい、タカオくんは」



 慣れない口調で言いながら、クレアはタカオの頭を撫で始める。心地いいが、この程度ではさんざん罵って来たことは帳消しにしないぞ。心に何度も言い聞かせる。

 しかし、ほんのりと頬を赤めながら頭を撫でるコイツを少しかわいいと思ってしまっている自分もいて、少しだけ情状酌量の余地を与えてやることにした。


 

 タカオの機嫌が直ったのを察知したのか、クレアはロンサムのほうへ視線を移す。



「で、ロンサムさん。私たちは神様の城……。いいえ、空中にある魔王の城へ行きたいんだけど……。この島を動かしてもらえるの?」


「ええ、大丈夫でっせ。ワシがいればこの島は動きますよ」


 そう言ってからロンサムは再び顔と手足を引っ込ませ、甲羅の上に帽子をひょいと乗せる。そして、ひゅんひゅんと回転していくと空に浮かび上がり、タカオの胸元辺りで停止する。



「さあ、ワシの甲羅の上で行きたい場所を念じてください。あとはワシのほうで自動に島を動かします」



 タカオが甲羅に手を載せると、順番にクレア、ターニャ、エヴァンも乗せる。そして、島が動くように念じると共に行き先を同時に告げる。



「目指すは魔王の城!」

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