第65話・炸裂!トールハンマー!
「あんた、早くエヴァンとシルビアさんを吐き出しなさいよ!」
クレアは空中から攻撃魔法を唱えながら、なんとか敵の注意を引き付けていく。タカオとターニャは船からその様子を見守ることしかできず、今までで最も歯がゆい戦闘である。
「クソ、今の俺たちじゃなんとも……」
「タカオさん、あなたは今フォームチェンジできないのですか?」
「フォームチェンジは一度に一人までだ。それに、今エヴァンのチェンジを解くと、腹の中で何が起こるかわからないし……」
ダン、とターニャは船べりの手すりを思い切り叩く。焦燥感が歯ぎしりとなって現れ、今にも力を解放して泳いで行きそうな勢いである。
「きゃあ!」
防戦一方のクレアはキマイラから攻撃を食らい、大きく身体が吹き飛ばされてしまう。タカオはもう我慢できず、海に飛び込む準備を始める。
「ダメです、タカオさん! ロクに水の中で動けない状態で、海も空も動けるキマイラに飛び込むなんて無謀ですよ!」
「でも、これ以上はー」
ターニャに反論しようとしたその時だった。キマイラが急に呻き出し、身体をくねらせながら海へ着水していく。ぐりぐりと小刻みに動いて波を立ているが、どうやら腹の辺りに痛みを覚えているように見える。
キマイラがしばらく身体をよじらせていると、腹の辺りからバリバリと電撃が放電音が聞こえてくる。しかし、それだけでなく歌が聞こえてくる。その歌に気を取られていると、放電現象が起きた腹が突然突き破られ、そこからエヴァンとシルビアが飛び出してくる。
「エヴァン、シルビア!」
タカオ達は二人の名前をほぼ同時に叫ぶ。エヴァンはシルビアを抱きかかえ、もう一方には見たこともない三又のヤリを携えている。そのヤリの先端は電気を帯びており、おそらく先ほど見えた電撃の発生源も同じだろうと俺は推測する。
「すまねえな、タカオ。また待たせちまったぜ!」
タカオ達が乗ってきた船に近づいてきたエヴァンは、シルビアを預けながら調子のいいセリフを言ってのける。その台詞に、ついリヴァイアサン戦の光景が頭に蘇ってくる。
「エヴァン、お前はいつも遅すぎるんだよ」
「その分働くさ」
それだけいうとエヴァンは、再び海に飛び込んでキマイラに近づく。すでに敵は腹部を再生しており、海面を滑るようにエヴァンへ近づいてくる。 しかし、エヴァンはスピードを落とそうとしない。猛スピードのままキマイラと激突する。
普通ならば圧倒的物量にてエヴァンがはじけ飛んでしまうところだ。しかし、エヴァンが歌い出すと身体はヤリから放出される電気に包まれ、光速のスピードとなってキマイラに突撃する。その異常な変化にキマイラのほうが恐怖を感じ取り、おもわず回避運動を取ってしまう。
「チッ、さすがに元邪霊だな」
「エヴァン!」
次の攻撃を加えようとするエヴァンに、クレアが近づいて肩を叩く。
「何だよ、このまま攻撃していけばー」
「武器の力に惑わされないの。ほんと、あんたってトレジャーハンターとは思えないほどバカ正直よね」
「お前にまで言われるとはな……」
「ま、歪みないあんたのその力。私の魔法と組み合わせてみない? 今のアンタならば、雷の力も自由に使えそうだし」
「おいおい、魔法の合体なんてできるのかよ」
「大丈夫よ、そんな奇跡をウチのリーダーは起こせるから」
クレアが船のほうに親指を向けると、すでにタカオが封印剣を構えている。おそらく、あのリヴァイアサン戦で見せたあの「魔法」を使うのだろうと、エヴァンも察する。
クレアの提案にエヴァンはニコリとした表情を返した。その表情を見てからクレアは空中に飛び上がり、キマイラを足止めしたときのように魔法陣を展開する。
「すべてを裁きし雷よ、彼らに魔手が忍び寄るとき、断ち切るための大槌となれ!」
異常を察したキマイラはエヴァンとクレアに飛び掛かってくる。それに臆することなく、クレアはエヴァンに合図を送る。
「ほら、ぶきっちょ! 魔法陣に向かってヤリを投げ入れなさい!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
海中で思い切りスピードを付けた後、イルカのように飛び上がるエヴァン。魔法陣の場所までたどり着くとまるで投擲選手のように全身の筋肉を使ってヤリを投げ込む。
「トール・ハンマー!」
クレアとエヴァンが同時に呪文を唱え、タカオがその二つを合成して一つの魔法に仕上げる。
雷のような一閃が空を走り抜け、ヤリが魔法陣を突き破る。その瞬間に突風が巻き起こると共に、青い高エネルギー体がハンマー状となって天空から振り下ろされる。そのハンマーはキマイラの全身を分解し、やっと消えたときにはその巨体を完全に消滅させていた。




