第63話・合成獣キマイラ、出現!
シルビアの叫び声が聞こえる中、大ヘビのようなモンスターは身体をグルンとひねって山頂を後にする。そのモンスターには羽が生えており、さらに肉食獣のような前足や口の先端にはクチバシが付いていている。
その特徴は風の邪霊・ジズそのものであった。そして獰猛なサメやシャチのような頭に、太くて長い身体は、俺たちを苦しめた水の邪霊・リヴァイアサンを彷彿とさせる。
「クレア、あれって!」
「エンジュ近くの港で遭遇した奴と同じよ! 元素モンスターを組み合わせたキマイラ」
風と水の合成邪霊獣・キマイラは海に向かって飛んでいく。口からは台座もシルビアの姿もなく、完全に口の中に含んでしまっているのがわかる。
タカオとクレアは急いで空に飛翔し、全速力で追いかけていく。しかし、モンスターの尻尾さえ掴むことができず、グングンとその距離は開いていく。
「おい、これじゃ引き離される一方だぜ!」
「わかってるわよ! ……それじゃ、一緒に魔法を唱える?」
「それって合成魔法か? 俺は風の精霊にフォームチェンジしてて風の魔法しか使えないしー」
「合成魔法だけど、私の展開する魔法陣に合わせてくれればいいわ。あんな大型に使う魔法じゃないから、あんたの力を借りて強化したいのよ」
「でも、シルビアさんのことはー」
「配慮するに決まってるでしょ? シルビアさんのこともあるから、あんたの魔力も借りて安全な魔法を使うのよ」
クレアはそれだけ言ってから呪文を唱え始める。そしてより高度を上げ、空一杯に魔法陣を展開する。その大きさを見るのは初めてで、彼女の魔力の底を見せつけられる。
「天空に吹き荒れる風たちよ、今こそ神の力を借り、悪しき存在を絡めとる鎖となれ!」
彼女の唱えた呪文が緑色に光り始め、いよいよ呪文が発動しそうになる。
「タカオ、あんたもこの魔法陣に向けて元素魔法を撃ち込んで! あとは私がコントロールする」
よし、と言いながらクレアの元まで移動し、魔法陣に風の元素魔法の力を打ち込む。同時に、俺はクリエイトの合成魔法を唱え、クレアが生み出そうとする拘束魔法の呪文を唱える。
「今こそ放たれよ、チェーン・トルネード!」
クレアの魔法陣に魔法を放つと、風水のキマイラに向かって風で出来た鎖が、魔法陣からシュルシュルと伸びていく。風の鎖は回転を伴いながら、キマイラの身体に巻き付いて自由を奪っていく。キマイラは身動きが取れなくなり、そのまま海へ落下していく。
「す、すげえな……」
「それよりも、シルビアさんを探さないと!」
そうだな、と頷いてからキマイラ追跡を続行する。
***
エヴァンとターニャは山頂に現れたキマイラにすぐ気が付いていた。自分たちのいる船に近づいてくるので待機しているも、タカオとクレアの魔法によってキマイラが海に墜落する。
大型モンスターが海にぶつかることで大きな波が巻き起こり、ジョニーを含めた三人は船にしがみついてなんとか凌ぐ。
「あいつら、ほんっと容赦ないというか、お構いなしというか……」
「おそらく、逃がさないためでしょう! あの距離なら仕方ないですよ」
何とか状況を把握する二人の元に、タカオとクレアはすぐに辿り付くことができた。大丈夫か、と聞くもエヴァンからはすぐに皮肉を言われてしまう。
「お前らが波さえ起こさなければな」
「悪いって。ああでもしないと、追いつけなくてさ」
「それよりも、シルビアはどこだ」
クレアはすぐ山頂であったことを説明する。エヴァンはキマイラの口に含まれた、という言葉を聞いた辺りで血相を変え、タカオの胸倉をつかんでくる。
「なんでこうなる前に助けなかったんだよ! それに、あいつがどうなるかわからないのに、あんな魔法を撃ちやがって!」
「エヴァン、ああでもしないと敵を逃がしたかもしれないわ! もし逃がしたら本当にシルビアさんを助けることができない。それに、彼女にはできるだけ影響が出ないように魔法だってきちんと選んだつもりよ」
「くそっ!」
彼はクレアの言葉を受けてから、すぐに海へ飛び込んでいく。エヴァン、と声を掛けるも頭に血が上った彼が止まるとは思えなかった。
「タカオ、とりあえず彼にフォームチェンジの魔法を掛けときなさい! あいつが起きて反撃してきて、エヴァンが返り討ちにあったら身も蓋もないわよ」
クレアに言われた通り、タカオは自分のフォームチェンジを解いて彼に水の精霊のフォームチェンジを行う。エヴァンの恰好はグラディエーター風の装備に変化し、さらに人魚モードへ移行しグングンとキマイラに近づいていく。




