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第62話・山頂にある台座

 突拍子もない発言ながら、シルビアはまるで自分こそ正しいと言わんばかりにタカオ達の方を見てくる。しかし、彼女の提案を受けた俺たちのリアクションが不服だったのか、表情一つ変えず徐に山を登り始める。その姿にクレアがすぐ反応する。



「ちょっ、ちょっとシルビアさん! なに平然な顔で無茶なことやろうとしてんのよ」



「別に無茶でもないでしょ。幸い山道も残っているようだし」



「駄目よ。すでにボロボロになってて、地盤もどのようになっているかわからない道なんて危険よ」



 確かにシルビアが進もうとした先には、元々は人が通っていたように見える道がある。しかし、その道はすでに雨風によって風化し、過去に落石もあったのか大きな岩も転げている。それでもシルビアは引くつもりはなく、一人でも登ると言い始める。



「もう、頑固なんだから!」



「落ち着けよ、クレア。それじゃシルビアさん、空を飛んでいきませんか?」



「空を飛ぶ?」



 彼女の懐疑的な顔を余所に、風の精霊へフォームチェンジを行う。すると、シルフェニア大陸から出発したときの船上戦のように、翼を持つ姿へ変身する。その様子にシルビアは目を輝かせる。



「すごいわ……。まさか自分が伝説を目の当たりにできるなんて」



「伝説?」



「この世界が魔王により混沌に陥るとき、別世界からクリエイターが現れる。その者は四つの元素を使いこなし、自らの姿を変えながら世界を再創造するー。これもこの世界に残されている伝説よ」



「へえ……。そうなんですか」



「あなた、自分がどんな存在かも把握せずに冒険していたの? 世界の命運が掛かっているというのに、何とものんきな人ね……」



 タカオだってそれなりに事情を把握した上で冒険したかったさ。しかし、記憶をいじられていたからと言って、すぐ側にいる貧乳神官が具体的なことは何も教えてくれなかったのだ。

 そのおかげで下手に気負う必要もなかったが、キッと彼女を睨んでおく。しかし、というかやはり悪びれる様子もなく、てへっ☆とガラにもない表情を見せてくる。



「ほら、お前も早く翼出す。一気に山頂へ行くぞ」



 そうね、と言いながらクレアも翼を出して見せる。再びシルビアは神秘に触れたことに感激し、先ほどまでの態度もウソのように彼女の翼に触れようとする。

 彼女が翼に触れる寸前でシルビアを持ち上げ、ふわりと空の世界に躍り出る。途端に彼女は子供のようにうわあ、と声を漏らす。



「すごい、本当に飛んでるわ」



「そりゃそうよ。これなら山頂にも一瞬で着くわ」



 すぐですよ、とタカオも言いたかったが人間の身体は想像以上に重い。少し風の魔法で身体を浮かそうとするもそんな器用なことができるわけもない。油断すると飛び出しそうなうめき声を我慢していると、フワッと軽くなるのを感じる。



 隣を見ると、クレアが杖を持って俺に風の魔法を掛けていたようだ。風魔法においては一日の長がある彼女ならば、風魔法を応用して人の身体をふわりと持ち上げることだってお手の物だ。

 彼女に感謝の目配せをするとヘタレ、と読唇術の心得が無くてもわかる口の動きを見せる。言い返したかったが、その場は我慢して見えてきた山頂へ降り立つことにする。



 山頂はシルフェニア大陸で見たものと同じように、風化して崩れ去った神殿廃墟があった。しかし、シルフェニア大陸のものよりも劣化が激しく、ほぼ基礎部分しか残っていない。



「ここは、神殿跡?」



 クレアの疑問にそうね、とシルビアが短く答える。そして、さっそく研究者の血が騒いだのか、神殿跡地を見ながら推察を始める。



「たぶんだけど、昔はここも人が集まる場所だったんでしょうね。山道跡があったところを見ると、人がやってきていたはずよ」



 シルビアは神殿だった敷地の奥へ歩いていく。その間に、タカオは少し気になっていたことをシルビアに聞いてみる。



「なあ、シルビアさん。あんた、伝承について色々と詳しいみたいだけど。魔王の弱点とか何か知らないか?」



 弱点、と振り返りもせずにシルビアは一蹴する。



「そんなこと知っていたら、あなたにすぐ伝えているわ」



「……そうですよね」



「ひとつ知っているとすれば、『フラガラッハ』という単語だけかしら」



 フラガラッハ、とタカオは胸に刻みつけるように繰り返す。



「魔王について調べていると、この単語をよく見かけたわ。でもこれが何を示すかわからないし、むしろあなたに聞きたいぐらいよ」



 タカオはもちろん思い当たる節もなく、クレアに視線を送る。しかし、彼女も「フラガラッハ」については何も知らない様子だった。それでも魔王にタグ付けされて頻出する単語であれば、何かに使えそうだなとタカオは感じた。



 無言のままシルビア付いていくと、神殿跡地のほぼ中央地点で足を止める。そこには神殿でよく見かける石の台座が残っていた。

 その台座だけは神聖な力にでも守られているのか廃れた部分が見られない。シルビアは吸い付くように台座に触れる。



「すごいわ、これ……。まるで劣化した様子がない」



 シルビアの感動する姿につられるように、二人もその台座に注目する。たしかに、あまりの保存状態の良さに、異様な雰囲気さえ感じる台座だ。しかし、それ以上に俺とクレアはその台座に備え付けられている装飾物に目を奪われてしまう。



「なあクレア、あれって……」



「ええ、間違いないわね」



 その装飾物の名前さえ言わなかったが、頭の中に浮かんでいる単語は同じだった。その装飾物は車に付いてあるようなハンドルであった。シルビアに聞き取られないように、タカオはクレアの耳元でささやく。



「おい、あれってまさか……」



「まさかと言わず、確信犯でしょ」



「確信犯って……。お前、このゲーム世界をプログラムした人間なんだろ? 覚えて無かったのかよ?」



「う~ん。魔王のせいで覚えていないわね」



「都合のいい記憶喪失なことだぜ」



 呆れながらクレアの弁明を聞いていると、シルビアがちょっとここ見て、と頼んでくる。すぐに指定された場所を見てみると、そこにはわからない文字がウニャウニャと綴ってある。



「それ、なにか意味のある文章なのか?」



「ええ。ここには『選ばれし者が島を亀として再創造を行うとき、神の城へと導かん』って・……。あなた、この文章の意味わかる?」



 「再創造」という言葉は聞き慣れなかった。しかし、おそらくは「クリエイト」のことだろう。俺は大丈夫だぜ、と言ってからシルビアに一度離れてもらう。

 たぶんだけど、ハンドルを握って絵の亀を想像すればこの島に伝わる伝承を創造させることができるはずだ。

 

 -シルフェニア大陸でも俺は「クリエイト」を実行した。今度だって……。



 クレアとシルビアの顔を交互に見てから、タカオがハンドルを握ろうとしたそのときだった。聞き覚えのあるモンスターの雄叫びが空から響き渡ってくる。



「なに!」



 シルビアが空を見る。そこには巨大なヘビのようなモンスターが浮かんでおり、空を眺めた瞬間に頭から突撃を仕掛けてくる。タカオとクレアはすぐに回避するも、シルビアは台座と共にモンスターの口に囚われてしまう。

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