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第60話・相容れない感情

 シルビアはタカオ達の船に乗り込み、亀だと言われていた「神の島」へ向かうことになる。地図と大体の場所をジョニーはすぐに把握し、神の島へ舵を取る。何の支障もなく船は島に向かって進み出すと、甲板にいるシルビアにエヴァンが呼びかける。



「シルビア。すまねえ、ちょっと船室に来てくれないか?」



「何よ? このクラスの船なら、神の島まで時間はそう掛からないわよ」



「いや、さっきはこの世界の異変やタカオのことで話せなかっただろ。……オリビアのこと」



 エヴァンは今までにないほど肩をすぼめ、シルビアと視線を合すことなく話し続ける。シルビアは彼の態度から何かを感じ取り、さらにその後の展開を熟考する。これから放たれる真実に対する心の準備を十分にしてから、彼女はわかった、とやっと答える。



「すまない、タカオ。しばらく三人でこの船を見張っててくれ」



「ああ、わかった」



 エヴァンはポン、とタカオの肩を叩く。彼の顔には、もう先ほどまでの怯えた影は見えなかった。しっかりとした足取りでエヴァンは船室に入っていった。



              ***



「わざわざ二人切りになる必要がある話なのね?」



「ああ、ちゃんと話しておきたいことだから」



 ギイギイと波に揺られる音がする中、エヴァンはシルビアと対峙している。彼女はむすりとした顔をしており、まるでイライラを抑えるように腕を組んでいる。



「お前が予想していた通り、俺はリューベックでトレジャーハンターをしていなかった。情けない話、フリーの海賊になって、これがそこそこ繫盛しちまうことになった」



「あんた、まさかオリビアをその海賊稼業に!」



 まるで封印されていた鎖が解かれたように腕が飛び出し、再びエヴァンの胸元をつかんでグラグラと揺らす。しかし、彼は彼女の力で身体がぐらつくことは無かった。まるで石像のように動かないエヴァンを前に、シルビアはバツが悪くなってすぐ手を放す。



「あいつがそんな妹じゃないって、お前が一番知ってるだろ。あいつはリューベックに来て俺を見つけたとき、第一声に何て言ったと思う? 『あんた、それでも本当に海賊のつもり? 根性ないわね』って。ほんと、姉妹そろって根性がすわってるよな」



「……当たり前でしょ。私の妹なんだから」



「そこから俺はあいつのペースに飲まれちまったよ。あいつはリューベックで町の人から変人扱いされながらも調査を一人で続けた。

 そんであいつに見つかって、オリビアの人魚調査をたまに手伝わされて……。そんな形で、俺たちはリューベックで生活していたんだ」



「……エヴァン。あの子危険なことをしなかったでしょうね?」



 シルビアの声にも不安が入り混じる。握ってきた手もプルプルと震えており、いつもの芯の強いイメージからかけ離れている。



「リューベックは水の元素が濃くて、それを抑制するために人魚がいる。でも元素が濃いということは、各地に発生した邪霊のターゲットにもなり得る。

 あんたが邪霊を封印する選ばれし人と一緒にいるということは、リューベックにも邪霊がいたんでしょ? ねえ、オリビアはそんな危険なことにまで、首突っ込んでないわよね?」



 真実を伝えるべきだった、彼女に。しかし、いざそのタイミングになるとエヴァンの口は糊でも貼られたように動かなかった。ねえ、を繰り返す度にシルビアの声はかすれ、目に溜まった涙はこらえきれず零れ出す。エヴァンの胸をドンドンと叩きながら、膝から崩れ落ちていく。



 エヴァンは彼女と同じ目線まで足を折り、両手で肩を優しく包み込む。



「すまない、シルビア……。俺はオリビアを守れなかった。お前の言う通り、俺は情けない男だから。荒んでた俺はあいつのことを信じられず、一人で海に出してしまった。そのとき、邪霊を呼び出そうとした敵にはめられて、あいつはー」



「もういい!」



 シルビアは彼の手を振りほどき、そのまま突き飛ばして転ばせる。ふんばることなく転んだ彼にシルビアは馬乗りになり、まるで駄々をこねる子供のようにその上で泣きじゃぐる。



「シルビア……。俺はどんだけ謝っても許されるなんて思っていない。だが、あいつは最後まで人魚のために戦ったんだ。俺たちも一緒に、あいつと……」



「死んでほしくなかったし、どうして闘うことを止めなかったのよ! ただあの子は、人魚のことについて知りたかっただけなのに……」



「わかってる! でもあいつは、お前が思っている以上に人魚のことを愛し、救おうとしていたんだ! あいつの情熱が人魚だけでなく俺たちを動かし、リューベックの町だってー」



「うるさい、うるさい、うるさい! そんなことどうだっていいのよ! オリビアを、私の妹を返しなさいよ!」



 シルビアはエヴァンに当たり散らした後、船室を弾丸のように飛び出していく。わかっていた結果だ。だが、現実というのはいつも残酷である。エヴァンは何もできない自分に苛立ち、何度も床を叩くだけでその場から動けなかった。

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