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第59話・合理的かつ暴力的な姉は好きですか?

「……ふう」



 大きく息を吐き出しながら、タカオはフォームチェンジを解除する。ターニャも戦闘態勢から普通の状態に戻り、いつものおしとやかな口調でタカオさん、と声を掛けてくる。久々のタッグバトルも上手く行き、お互いにハイタッチをする。



「タカオさん、戦闘中の動きがお会いしたときと全然違いますね」



「流石にここまで来るとな。身体も慣れてきたんだと思う」



「ほんと、戦闘中にジョークを言う余裕も出てきましたしね」



 ターニャはそう言いながら俺の背中を思い切り叩いてくる。こいつ、力を解放した状態と平常時の差が無くなってきてないか? しかし、それを言うと今度はアバラ一本は失いそうなので黙っておくことにする。



 これだけ余裕を出せるのも、すでにエヴァンとクレアが人型モンスターを片付けているのを確認できていたからだった。ほぼ同時ぐらいに彼らも戦闘を終え、お互いに合流する。



「あのドラゴン相手に、あそこまで余裕なんてやるじゃない」



「ま、それだけ俺も経験値を積んだってことだよ」



「ふん。……ま、少しだけ認めてやるわよ」



 すでに恒例となりつつある戦闘後のやり取りが行われる中でエヴァン、と名前を呼ぶ声が聞こえる。それはクレアでもなければターニャでもない。

 港の出入り口となる方を見ると、栗毛色のストレートヘアの女性が、スタスタとこちらに近づいてくる。近づくにつれてメガネを掛けているのがわかり、知的な雰囲気とマッチしているのがわかる。



「エヴァン! あんた手紙も寄こさずにどこほつき歩いてたのよ!」



 バチン、ではなくゴツン、と鈍い音が耳に入ってくる。エヴァンは逃げる隙もなく彼女の攻撃を食らい、完全に伸びて倒れてしまう。シルビアは彼に馬乗りになって胸倉をつかみ、グラグラと揺らしながらクドクドと説教を始める。



「あ、あの! それ以上やっちゃうとー」



「あんたね、こいつが何しでかしたか知ってるわけ! 私が妹の様子を見て欲しい手紙を出したのに、コイツ一向に返事を出さないのよ! 妹は妹で筆不精というか、やりたいこと始めたら他のことは何も目に入らない子だからどうせ私の手紙も見ないし……。お前だけが頼りだったのに!」



 エヴァンの首が赤べこのようにグワングワンと動くぐらいに揺らす女性。タカオは落ち着くようになだめてから、とにかく自己紹介を行う。やっと少しだけ落ち着いたのか、彼女も自己紹介をしてくれた。



「私はシルビアです。ここの近くにあるエンジュ出身の研究者よ。そ・れ・と! こいつが面倒見てくれるはずだったオリビアの姉です!」



 エヴァンから「合理的」な人だと聞いていた。確かに髪をきっちり整えているところやパリッとしたシャツなどから品性は感じるし、ハキハキとした喋り方からも博識そうな雰囲気はビンビンに感じ取れる。



 その一方で、オリビアさんと似た者姉妹だったのだろうな、とも感じる。オリビアさんに関しては人魚調査のために一人飛び出す人ぐらいしか知らないが、彼女の今の態度を見ているとそんな気がしてならない。



「し、シルビア……。あのな、今日はちゃんと今まであったことを話すために来たんだ」



「ほう……。私に手紙も出さずオリビアをリューベックに残し、ここにいる方々と何をしにきたのか。貴様、さほど私に隠していたことがあるようだな。どうあろうと貴様の極刑は免れんぞ……」



 いまだにシルビアさんはエヴァンから手を離そうとしない。その図は悪魔が魂を握っている姿そのものだ。エヴァンはすっかり身を縮めており、俺も彼女の態度に背中がゾクッとするものを覚える。



「まっ、待て! 本当に、色々なことが起こったんだよ。お前だって知ってるだろ? 神に異変が起こって魔王となり果て、この世界を滅茶苦茶にしていることを」



「もちろん知っているわよ。今まで神のかの字も信じていない人がエンジュに押し寄せて、この非常事態について説明しろって大変だったんだから……。もちろん、私たちも今回のような事態が過去や伝承において存在していなかったのか、資料や研究者を交えて調べていたところ」



 シルビアはやっとエヴァンから手を放して立ち上がる。エヴァンもやっと解放されるも、これから話さなければいけないことを想像しているのか、表情が重々しい。



「それで、手紙を出さなかった理由とこの状態について。お聞かせ願えるかしら?」



「あのな、シルビア。落ち着いて聞いて欲しいんだ。まず、手紙を出せなかったことからだ。俺は息巻いてリューベックに行ったものの、残念ながらトレジャーハンターとしては飯を食えることができず……」



「そんなのわかりきっているわよ」



 えっ、とエヴァンはバレバレの秘密を親から指摘されたように目を丸くしてしまう。



「ぜんぜんエンジュにも顔を出さないし、アナタが運んでくるお宝を見ていればどの程度の実力なのか。あなたの力量を私が換算していなかったとでも?」



「チッ! だからお前と話すのは苦手なんだよ……」



「で、エンジュで食えなかったアナタは船を操縦する技術を振るうため、私の薦め通りリューベックへ行くことを決めたんでしょ? あなたの身体能力や海に関する知識、操縦技術は否定しないわ。トレジャーハンターよりもリューベックに行けば十分に稼げるだろうと思ったし」



 的確、だからこそ残酷な分析。シルビアは今までの恨みを込めるかのようにエヴァンの心を折っていく。バキバキにされた彼は一言も発することなく、口から魂が抜けだしてそのまま召されそうになっている。



「……で、その方々はリューベックでお知り合いになった人たちなの? それとも、あんたが仕事でここまで運んできたとか?」



 話は完全にシルビアのペースで進んでいく。俺たちは魔王に関することを話し、そして各地の邪霊を封印してきたことを話す。

 その際にエヴァンにも手伝ってもらい、なぜか俺は彼をフォローでもするように少しだけ盛って旅の話をしていく。まるで生きた伝説でも見るように、今度はシルビアの目が丸くなってしまう。



「うそ……。あなた本当に、この世界に降り立った選ばれしものなの……」



「まあ、そうは見えないと思いますが。残念ながらクリエイトの力も使えるので」



「残念言うな」



「そう……。じゃあ、もしかしてだけど。あの空に浮かぶ魔王の城への行き方を探しにここへ?」



「えっ! どうしてそれを」



「魔王はこの世界に出現したとき、元神と言っていたわ。だとすればあの城も元神の城の可能性が高いし、あなた方が本当に元素を封印して冒険している人なら、あの城に行って本件の元凶である魔王を倒すつもりなのでは?」



 びしっと、まるで教師のようにシルビアは魔王城を指さす。



「空を飛ぶ方法なんてないけど、現にこうして空中に浮かぶ城が出てきたと。じゃあ、あとは神様を信じない人間と一緒。過去に残された伝承や文献から、現状を何とか分析していくしかない。わざわざこんな危機的状況にエンジュに来たということは、そういうことでしょ?」



 タカオ達から話を聞き出す前に、シルビアは頭でも覗いているかのように話を推測しながら進めていく。驚くばかりのタカオの代わり、クレアが整理してくれた。



「その通りよ。あなた、テッシンさんという人を覚えているかしら?」



「ええと、あの真面目そうな鍛冶師ね。覚えてるけど、どうしたの?」



「実は彼からあなたのことを紹介されて来たの。この亀について聞きたくて」



 クレアはテッシンから預かっていた例の神を取り出してシルビアに見せる。その紙を見て彼女は腕を組んでため息を付く。どうしたんですか、と聞くと彼女は目をゆっくりと閉じてから呟いた。



「あなた達はこの亀に関する伝承を求めてここに来た。そんなところってわけね」



「そ、そうなんです! あの、シルビアさんにそのことを聞こうと思ってー」



「なんとも、これじゃまるで運命のいたずらみたいじゃない」



 シルビアはほくそ笑んでから、タカオ達に向かってきっぱりと言ってのける。



「私ね、これからその神の島へ行ってみようと思っていたの」

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