第58話・色違いモンスターはRPGならデフォ
「ウオオオオオオオオオオオオオン!!」
耳が裂けそうな黒いドラゴンの咆哮。これを聞いただけでわかる、タカオがこの世界に降り立ったときよりも確実にパワーアップしている。新武器を手に入れたターニャも、グッとハンマーを握り直す。
くそ、昔のゲームには色違いの強いモンスターが後半に出るのはデフォだ。だからと言って、この世界で忠実に再現することもないだろう……。
「タカオ、どうする?」
「そうだな……。雑魚も相手しながらあのドラゴンを相手にするは、しんどいな……」
「だがあの鎧、おそらく邪霊ゴブリンや人型モンスターのものと同じだ」
ターニャに言われてから注視してみる。たしかに色使いなどは違うものの、形は邪霊ゴブリンのそれに告示している。もちろんドラゴンの身体に合う形に加工されており、肩や身体表面を銀色の鎧が覆っている。
頭にもマスクのような兜が装着されており、眉間の辺りは赤い宝石のようなものがギラギラと光る。
「……仕方ない、また分かれるか」
「俺はドラゴン組は勘弁だぜ」
タカオだってエヴァンをドラゴンに当てるつもりはなかった。スピード重視のテクニカルな闘いをするエヴァンには、前回と同じように仮面を壊しながら戦闘してもらうことを頼む。そして、援護にはクレアについてもらう。
「じゃあ今回は、あんたとターニャね。それじゃ……。行くわよ!」
クレアの声を合図に、俺たちはそれぞれターゲットとする敵に向かって走り出す。クレアの突撃に反応し、ドラゴンはすうと息を吸い込み、一気に灼熱の炎を吐き出す。
炎は地面さえ削り取り、周辺の温度を上昇させていく。しかし、ターニャはそれでも突撃を止めなかった。唱えておいた風の防御魔法が炎を退け、彼女の足をさらに加速させる。
「喰らえええ!」
ターニャはテッシンからもらったハンマーをためらいなく振り抜く。そのインパクトはドラゴンを覆う鎧にヒットし、ガキイイイインと耳をつんざくような衝撃音を生み出す。やったか、と思ったが鎧の強度もかなり上がっており、ヒビさえ入れることなくができなかった。
ドラゴンはその衝撃に身体をぐらつかせており、すぐに反撃を加えることはなかった。その隙にターニャは一度俺の元へ引き返してくる。
「あいつの鎧、このハンマーと同じオリハルコンだ」
「ターニャの力でも砕けないのか?」
「オリハルコンは神の鉱石。早々と砕ける代物でもない。傷を入れただけでも褒めて欲しいものだ」
「素直に褒められて喜ぶタイプじゃないクセに……」
ギロリ、とまるで闘牛のような目つきで睨まれる。こいつドラゴンよりも怖いな、と思いながら新しい作戦を提案して話を逸らしていく。
「じゃ、じゃあよ! 風の邪霊を倒したときみたいに土のフォームチェンジで攻めるか?」
「あの鎧はゴブリンのものや、以前闘った風の邪霊と違って完全に身体の外を覆っている。力任せのインパクトによるダメージ効果も期待できない」
作戦を立てている最中、ドラゴンは体勢を立て直し、額にある赤い宝石が怪しく光る。おそらくあれが目の代わりになっていて、周辺の状態を認識することができるのだろう。しばらくキョロキョロと頭を動かし、タカオ達に標準を絞ったのか鳴き声を上げる。
「……よし、それじゃはじめての共同作業だ」
「えっ……」
「その状態で妙な声上げてんじゃねえよ! いいか、ターニャはベテランの鍛冶師だ。その力を使ってー」
耳元で作戦を述べると、勝機を見出したのか力強く頷いてくれた。よし、と言ってからタカオは炎の精霊の力を借りてフォームチェンジを始める。能力強化を察知したのか、ドラゴンは四つん這いの脚を器用に動かして加速する。
「しばらく黙ってろ!」
すかさずターニャがドラゴンの前に立ちふさがり、まるで名バッターとでも言わんばかりにハンマーを頭に向かってスイングする。きれいなフォームから放たれるインパクトは凄まじく、彼女の何倍もある巨体を吹き飛ばす。
「すまない、ターニャ! 待たせたな」
タカオは炎の鎧を身にまとい、すかさず魔法「プロミネンス」をドラゴンに放つ。一点集中の熱光線はドラゴンの身体を覆う鎧の一部分だけを赤く熱していく。普通ならば物体をいとも簡単に溶かす魔法なのだが、オリハルコンの強度には勝てないようだった。
「まだまだ!」
すかさず水の精霊へとフォームチェンジし、水の魔法「アイスビーム」をジンジンと腫れたような部分に放つ。急激に冷えたオリハルコンは心なしか縮小したように見える。
「今だぞ、ターニャ」
「わかってる!」
魔法攻撃が終わったのを見計らい、ターニャはすぐさまドラゴンに向かって飛び掛かる。そして、先ほど魔法を集中的に当てた部分にハンマーを打ち込む。すると、いとも簡単に鎧は崩れ去り、ドラゴンの生身にダメージを与えることに成功する。
「よし!」
ターニャの一撃はドラゴンに致命傷を与えたようで、先ほどの余裕はどこにいったのか身体全体で息をしている。タカオはターニャに離れるように指示を出し、再び炎の精霊のフォームにチェンジする。
「これで!」
俺は剣にすべての力を込め、頭から腹に向かって炎によってできた刀身で斬撃を叩き込む。赤々と燃える刀身はドラゴンをいとも簡単に切り裂き、ドラゴンは断末魔を上げながら砂のようにチリとなって消えてしまう。




