表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/76

第57話・シルビアの正体

 タカオ達を乗せた最上級の船は、エンジュの町へすぐ出発することになった。未だひび割れた空にはモンスターがはびこり、魔王城も健在している。いつ何が起こってもエヴァンも戦闘に参加できるようにジョニーが操舵役として乗船することになった。



「さ、あんたがエンジュに行きたくない理由。話しなさいよ」



 甲板にてモンスターを警戒しながらも、クレアはエヴァンにズイと言い寄る。ドッグでは折れた態度を取っていたものの、やはり話すことには抵抗を感じているようだ。



「エヴァン、そんなに話しづらいことなのか? だったら、今すぐってことじゃなくても」



「あんたね、この状況でそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。すぐにでも話してもらわないとー」



「わかってるよ……。まったく、クレアちゃんもなかなかに強引だよねえ」



 さすがにちゃん付けを否定はしないものの、クレアは鼻を鳴らして息巻いている。先ほどはあんなにエヴァンに食い下がっていたターニャが、クレアをなだめながらエヴァンに話しかける。



「エヴァンさん。別に私はあなたから事情聴取をしたいわけじゃありません。話せることからでいいので、あなたにとって負担にならないところから」



「……まったく。お前らは、オリビアのことは覚えてるよな?」



 その名前に、タカオ達はほぼ同時に頷いて見せる。ボニーやエレノアによって悲運の死を遂げた女性。それでもエヴァンに会いたい思いから人魚となり、さらには邪霊・リヴァイアサンを打ち破る最大のキーマンだ。そんな彼女を忘れることなんて、できるはずもなかった。



「そのオリビアさんがどうしたんですか?」



「シルビアはな、オリビアの姉なんだ」



 タカオとターニャは驚くと共に、二の句を告げることができなかった。さっきまではキャンキャンとうるさかったクレアも、さすがに申し訳なさそうに顔を伏せる。



「なんか、ごめん……。無理に話しさせて」



「いいや、いいんだよ……。オリビアのことはちゃんとシルビアには伝えるつもりでいたんだ。そのタイミングがちょっと早くなっちまっただけと考えるさ」



「そもそも、シルビアさんとあんたは面識あるわけ?」



「海賊になる前はトレジャーハンターをやってたから、宝の回収依頼や買取をしてもらうためにエンジュはよく寄っていたんだ。シルビアとはそのときからの付き合いさ。

 まあでも、オリビアと同じでロマンあふれる人だが合理的な部分もあるというか……。なかなか厳しい人でな。ちょっと苦手なこともあって、この戦いが終わってからゆっくりオリビアのことを話したかったんだけどな」



 余程シルビアのことが苦手なのか、エヴァンの顔が引きつっているのを初めてみた。それでもクレアはこの機会にと、エヴァンに身の上話を続けてもらう。



「じゃあ、オリビアとも長い付き合いだったわけだ」



「そうなるな。あいつは町の本や姉の影響を大きく受けて人魚に興味を持ち、耳にタコができるほど聞かされていたよ。

 で、その調査のために人魚のいるリューベックへ来てたんだが、シルビアから面倒見て欲しいって手紙もらってたんだ。まあでも、あいつが来たときはトレジャーハンター絶賛廃業中で、返事もロクに出せなかったんだけどよ……」



 エヴァンは遠い目をしながら昔のことを語ってくれる。エヴァンの昔話というのは、今になって初めて聞くような気がする。

 彼がパーティに入ったときは丁度ゴタゴタしていたこともあるが、それ以上にエヴァン自身が過去を語りたがらない空気を醸し出していた気もする。あの飄々とした態度も、実は過去を顧みないための予防線だったのかもしれない。



「情けない話だろ? 過去に向き合えないみじめな男の未練話さ」



「……ありがとうございます、エヴァンさん。それでも話してもらえてよかったです」



「ターニャちゃん……」



「大丈夫ですよ。嫌な思い出だって、話してくれれば私が全力で打ち消しますから!」



 打ち消す、という言葉を聞いてすぐに物理的な方法を連想する。エヴァンも同じようなことを想像したのか頭を殴るとか、とおどけて見せる。ターニャが全力で否定するも、目は笑っていなかった。



「皆さん、そろそろエンジュ近くの港に着きますぜ!」



 ジョニーの言う通り、いつの間にか目的の場所まで来ていたようだった。しかし、港にはすでに黒く塗られた船が止まっており、装飾もおだやかではない。明らかに一般客や船乗りが使うような船には見えない。しかも耳を澄ますと、金属同士がぶつかるような音が聞こえてくる。


「なあ、エヴァン。あの船ってさ……」



「言うな、タカオ。港っていうのは、交通の要所として攻め入られるのが世の常だ」



「なに冷静に分析してんのよ! 早く戦闘準備!」



 クレアは叱責しながら羽を展開し、先に港へ着陸する。タッチの差で船が入港すると、すぐさま残りのメンバーも陸に降りる。すると、港には船上で闘った仮面の鎧騎士たちが並んでいた。

 さらに彼らの後方からドシン、ドシンと大きな足音も聞こえてくる。タカオはこの地鳴りと振動に覚えがあった。身体に刻まれたトラウマが蘇るように鳥肌が立っていく。



「タカオ、あいつ!」



 クレアの言葉と共に、港にある倉庫の影からぬっと巨体が現れる。それはタカオとクレアがはじめて戦ったドラゴン。しかし、そのドラゴンの色合いは赤から黒に変わり、さらに鎧をまとっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ